
「奴らはいつもそうだ」「絶対にやめないよ」ブラジル人が驚かなかったアルゼンチン代表の問題行動“カチンバ”の正体【現地発】
7月19日に幕を閉じた北中米ワールドカップで、アルゼンチンは39歳の“歩くエース”リオネル・メッシが少ない運動量にもかかわらず、効果的なプレーでゴールを量産。チームもラウンド・オブ32以降に劇的な勝利を重ね、大きな話題を集めた。
その一方で、準決勝のイングランド戦後には「マルビナス諸島はアルゼンチンの領土」と書かれた政治的な垂れ幕を掲げたほか、決勝のスペイン戦ではラフプレーを連発。試合後にはMFレアンドロ・パレデスらがスペインの選手に暴行を働き、国際的な非難を浴びた。
ブラジルでも、国民的人気アナウンサーのガルボン・ブエノが「何て馬鹿なことをするんだ! 彼らはサッカー選手ではなく、ならず者だ!」と糾弾するなど、痛烈な批判が巻き起こった。
ただ、アルゼンチン代表の振る舞いに驚きはない。「奴らはいつもそうだ」と、そんなふうに受け止めたブラジル人が多かったのも事実。アルゼンチンはブラジルとの対戦で、長年にわたって同じような行為を繰り返してきたからである。
ブラジルでは、アルゼンチンやウルグアイの選手が繰り返す危険なタックル、ボールのないところでの暴力行為、リード時の露骨な時間稼ぎなどを総称して「カチンバ」と呼ぶ。こうした嫌がらせで相手を苛立たせ、平常心を失わせ、自分たちのペースで試合を運ぶのが彼らの狙いだ。
それゆえ、セレソンがこの両国と対戦すると、テレビの実況や解説は「カチンバに気を付けろ」と警鐘を鳴らす。
ブラジルにも「マリーシア」という概念がある。FKの際にボールの位置を少し動かしたり、ボールのないところで相手を押したり、言葉で挑発したりするような行為を指す。ブラジルの選手も決して聖人君子ではない。しかし、「カチンバ」は「マリーシア」よりも数段あくどい。
アルゼンチンやウルグアイの選手は「カチンバ」を悪いこととは捉えていない。彼らにとっては「フットボールの一部」なのである。
この「カチンバ・フットボール」において、アルゼンチンは絶対的な存在だ。
今回、世界中から批判を受けたことで、「今後はアルゼンチンの選手も、こうした醜い行為をやめるのではないか」と考える人もいるかもしれない。
だが、ブラジルのサッカー記者たちは口を揃える。「絶対にやめないよ。彼らは他国の人間が何を言おうと聞かない」、「もう何十年も前から続けてきたことで、もはや彼らの伝統芸能だ」と。
このような反スポーツ的な行為をなくすには、審判が厳しく対処するしかないだろう。スペイン戦では、MFエンソ・フェルナンデスが後半アディショナルタイムに2枚目のイエローカードを受けて退場となり、それがアルゼンチン敗戦の一因となった。
彼らは勝利への執着が極めて強い。フェアプレーを心がけるようになることはないとしても、「勝つために不利になる」と判断すれば、その振る舞いを改める可能性は十分にある。
文●沢田啓明
【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
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