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【現地発コラム】“第2のコモ”へセリエA昇格組ヴェネツィアの挑戦 外資による観光都市ブランド戦略、新スタジアムを中核に据えたスポーツビジネス展開へ

【現地発コラム】“第2のコモ”へセリエA昇格組ヴェネツィアの挑戦 外資による観光都市ブランド戦略、新スタジアムを中核に据えたスポーツビジネス展開へ

今シーズンのセリエAに昇格した3つのクラブ、フロジノーネ、ヴェネツィア、モンツァは、いずれもアメリカ資本をオーナーに持っている。

 フロジノーネは、長年クラブを保有してきたスティルペ家が、この7月1日にアメリカの投資ファンド「クララ・ヴィスタ・インベスティメント・パートナーズ」に株式の80%を売却したばかり。モンツァも2018年から大株主だったベルルスコーニ家から、昨年9月にアメリカの投資ファンド「ベケット・レイン・ヴェンチャーズ」に売却された。

 その中でヴェネツィアは少々事情が異なっている。1990年代末には日本の名波浩が所属したことでも知られるが、その後2005年、09年、15年と三度もの破産を経験。現在のヴェネツィアFCは、その遺産を受け継ぐ形で15年にアメリカ人弁護士ジョー・タコピーナによって設立され、アマチュアリーグ(セリエD)から再スタートを切ったクラブである。

 クラブを保有しているのは、複数のアメリカ人投資家によって組織されたコンソーシアム(共同投資会社)。15年から20年まで会長を務めたタコピーナが、チームをセリエDからセリエB上位まで引き上げた後、新たな出資者として発言権を強めた元ニューヨーク証券取引所CEOのダンカン・ニーデラウアーが会長に就任。21年、24年にセリエA昇格を果たしたものの、二度とも1シーズンでセリエB降格という結末に終わった。

 そして1年でのセリエA復帰を果たした直後の今年5月、さらなる増資に応じる形で新たな出資者となったティム・レイウェケと、その娘フランチェスカ・ボディが経営の主導権を握り、クラブ史上初の女性会長となったボディの下で、新シーズンに臨むことになった。

 ニーデラウアーは、当初は「Kappa」、24年からは「NOCTA(ナイキが大物ラッパーのドレイクと共同で設立したサブブランド)」と共に、世界有数の観光都市であるヴェネツィアの文化的イメージを反映したブランド戦略をアパレルとコミュニケーションの両面から展開し、地方の中小クラブとしては例外的な国際的認知とイメージを確立した、ヴェネツィア再興の功労者だった。

 しかし、肝心のピッチ上では、二度のセリエA昇格にもかかわらず残留を勝ち取ることができず、クラブとしての「持続可能な成功」には不可欠なセリエA定着に手が届かないままに終わっていた。

  今回のセリエA昇格にあたって外部からさらなる出資を受け入れ、その中心となったレイウェケとボディにクラブの舵取りを委ねたのも、現状のままではさらなる成長は不可能と判断したため。

 そもそもニーデラウアー時代のヴェネツィアは、最初の昇格から1年で降格してセリエBで戦っていた23-24シーズン、深刻な財政難に陥り、知人の紹介によってコンソーシアムに加わったドレイクの尽力で資金を調達して難を逃れたという経緯があった。今回、レイウェケとボディをクラブ経営に引き込んだのもドレイクだと言われている。

 こうして新たに経営の主導権を握ることになったレイウェケは、アメリカでスタジアムなどスポーツ施設開発やイベント展開を手がける巨大企業「オーク・ビュー・グループ(OVG)」の創設オーナーで、北米スポーツ界で最も影響力のある経営者の1人とされる。ヴェネツィアの会長に就任した娘のボディも、OVGの経営幹部として複数の施設開発や運営を手がけてきた。

 つまり、単なる投資家ではなく、施設、イベント、スポンサー、ホスピタリティーといったスポーツ興行ビジネスのプロとして、その経験と手法をイタリアのサッカークラブ経営に持ち込むべく参入してきたプレイヤーであるということ。

 実際ヴェネツィアは、すでに新スタジアムの建設を進めている。名波やアルバロ・レコバが活躍していた当時からのホームスタジアムであるスタディオ・ピエルルイジ・ペンツォは、水上バスでしかたどり着けない小さな島にある1万2000人収容の老朽化した施設。エキゾチックな趣はあるものの、現代的なビジネス展開にはまったく向いていない。

 ニーデラウアーは市当局と協力し、ヴェネツィア空港に近いテッセラ地区に構想されていた大規模スポーツパーク「ボスコ・デッロ・スポルト」の一部として、2万人収容の最新鋭スタジアム建設計画を進めてきた。

 すでに着工しているスタジアムは2027年中には完成予定。ボディ会長はそこに、アメリカで培ったスポーツビジネスのノウハウを惜しみなく投下することになる。

  肝心のピッチ上に関しては、セリエBに降格した22-23シーズン途中からスポーツダイレクターを務めるフィリッポ・アントネッリが強化の全権を握り、昨シーズン就任して1年での再昇格をもたらしたジョバンニ・ストロッパ監督が引き続きチームを率いる体制だ。

 2年前にエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督の下でセリエA19位に終わったチームを、降格した昨シーズンも解体することなく維持。戦力を大きく落とすことなくセリエBを戦い、首位で再昇格を勝ち取った。これは、セリエAに戻った後も継続的に強化していける陣容を準備することが狙いだ。

 新シーズンのセリエAに向けても、ストロッパ監督との契約を2029年まで延長して、チームとしての継続性を担保しつつ、昨シーズンのチームを土台としてキーポジションに即戦力を加えるという手堅い強化戦略を進めている。

 アンカーとして攻守のバランスを担ったMFイッサ・ドゥンビアをスポルティングへ、主将として最終ラインを支えたミヒャエル・スボボダをブライトンへと主力2人を売却したものの、スボボダの後釜にはセリエBに降格したヴェローナからドイツ代表経験も持つCBアルメル・ベラ=コチャプを獲得。

 前線には、昨季セビージャで10得点3アシストを挙げたナイジェリア代表大型FWエイコー・アダムス、スパルタ・プラハで11得点3アシストのコソボ代表FWアルビオン・ラフマニを加えて、得点力向上を図っている。

  昨シーズンのヴェネツィアは、3-5-2のウイングバックが攻撃的に振る舞い、ポジショナルなボール支配で主導権を握る積極的かつ能動的なサッカーで、リーグ最高得点、最少失点でセリエBを制覇した。

 今シーズンは、ほとんどの相手が同格あるいは格上となるセリエAで、そうした攻撃的な姿勢をどこまで打ち出せるか、ボールとピッチを「支配する」側ではなく「支配される」側に回った時に、どれだけの耐性を見せ勝機を作り出せるかが課題となる。

 外国資本、観光都市の魅力を前面に打ち出したブランド戦略、スタジアム開発などの共通点から、ヴェネツィアは「第2のコモ」になるのではないかという期待もある。

 オーナーの明確なビジョン、そして単なる監督以上の存在であるセスク・ファブレガスの哲学と手腕を通して、すでにセリエAに確固たる地位を築きビジネス的にも成功を収めつつあるコモに対して、ヴェネツィアはすべてがここから。

 まずはピッチ上でセリエA定着を果たしつつ、新会長の下でブランドとスタジアムを中核に据えたビジネス戦略を確立することが、最初のステップとなる。今シーズンの動向を引き続き注視していこう。

構成●THE DIGEST編集部

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配信元: THE DIGEST

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