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トゥヘル監督は食い気味に「ロドリだ」。イングランドに足りないのは才能の数ではなく…中盤の底を試合の設計者として育てる時間が求められている

トゥヘル監督は食い気味に「ロドリだ」。イングランドに足りないのは才能の数ではなく…中盤の底を試合の設計者として育てる時間が求められている


 世界中から1人だけ、イングランド代表へ加えられるとしたら誰を選ぶか。

 昨年、ラジオ番組でそう尋ねられたトーマス・トゥヘル監督は、質問が終わるのを待たずに答えた。

「ロドリだ」

 キリアン・エムバペでも、ヴィニシウス・ジュニオールでもなかった。中盤の底でボールを受け、味方の位置を整え、試合の速度を決めるスペイン代表MFの名前を挙げた。

 イングランドにもデクラン・ライスがいる。ジュード・ベリンガムやフィル・フォーデン、コール・パーマーもいる。これほど多くの優秀なMFを抱える国が、なぜロドリのような選手を求め続けるのか。

 ロドリの役割は、かつての10番のようにラストパスを供給することではない。最終ラインの前に立ち、相手のプレスを読み、攻撃を速めるのか、いったん落ち着かせるのかを選ぶ。味方を正しい位置へ動かしながら、試合全体を管理する「6番」である。

 イングランドの育成が、全体として停滞しているわけではない。プレミアリーグは2012年、アカデミー改革の柱となるEPPPを導入した。FA(イングランドサッカー協会)も2014年に「England DNA」を発表し、年代別代表からA代表まで共通する方向性を打ち出した。目ざしたのは、ボールを扱うことに自信を持ち、戦術を理解し、中盤を支配できる選手だった。

 成果は出ている。年代別代表は国際大会でタイトルを重ね、ブカヨ・サカやフォーデン、パーマー、ベリンガム、コビー・メイヌーらが育った。今のイングランドを、技術の乏しい国と呼ぶことはできない。

 FAの指導教材にも、周囲を見ること、複数の選択肢を持つこと、試合の状況に応じて判断することが記されている。技術を切り離して反復するより、実際の局面に近い練習の中で磨くことが推奨されている。

 それでも、中盤の底から試合を操る選手は多くない。

 レアル・ベティスでガビやファビアン・ルイスらの育成に携わったミゲル・カルサードは、英紙の取材に対し、「ライスがスペイン人ミッドフィルダーより技術的に劣っているとは思わない」と語った。違いを生むのは、育ってきた環境や教育だという。

 ライスはボールを奪い、広い範囲を走り、力強く前進できる。その能力を伸ばし、世界屈指のMFになった。ロドリは、自らボールを運ぶ回数が少なくても、パス一本で相手を動かし、味方の進路を作る。どちらが上かという比較よりも、任されてきた仕事が違うと考えたほうが分かりやすいだろう。
 
 スペインでは、ロドリのような役割を担う選手を「ピボーテ」と呼ぶ。チームが旋回する軸という意味を持つ。英国で一般的な「守備的MF」や「セントラルMF」、「ホールディングMF」という表現とは、その役割の捉え方に差がある。

 名称だけで選手が育つわけではないが、その選手を守備の防波堤として見るのか、攻守の流れを決める中心として見るのか。そうした見方は、幼い選手に教える内容にも影響する。

 2011年5月、ウェンブリーで行なわれたチャンピオンズリーグ決勝の前日、バルセロナの公開練習を取材した。

 選手たちはロンドを始めた。ワンタッチでボールが狭い円の中を走り、守備役が追いつけない速度で動いていく。当時は、単純にパス技術が違うのだと思った。

 後年、スペインの育成を扱ったFIFA(国際サッカー連盟)の記事を読み、あの練習の見え方が変わった。ロンドでは、正確に蹴ることだけが求められていたわけではなかった。ボールが来る前に周囲を見て、相手の寄せる方向を読み、次のパスを決める。身体の向きを整え、出口を複数持ち、追い込まれる前に局面を変える。ピボーテが試合で繰り返す作業が、狭い円の中に詰め込まれている。

 カルサードも、スペインでは練習の中に常に選択があり、選手は行動する前に「考えること」を求められると説明している。ロンドそのものは英国のアカデミーでも行なわれている。同じメニューでも、何を学ばせようとしているのかは必ずしも同じではない。
 
 スペインで指導経験のある英国人コーチのアレックス・クラップハムは、両国の違いについて、スペインの選手たちが頻繁にコーチへ質問すると語った。

「なぜ、このプレーをするのか」

「別の方法ではいけないのか」

 コーチも、自分の考えを説明しなくてはならない。

 中盤の底に立つ選手は、試合中に次々と判断を下さなければならない。相手がプレスの形を変え、味方の立ち位置がずれた時、ベンチの指示を待つ時間はない。目の前で起きていることを読み、自分で解決策を選ぶ必要がある。日頃からプレーの理由を問い、自分の考えを言葉にしてきた経験は、そうした場面で生きる。

 スペインでは、育成年代を通じて共有されるサッカーの考え方も重視されているという。英国人指導者で、米国女子代表監督のエマ・ヘイズは、スペインでは8歳から23歳まで、1つのサッカー言語が教えられていると評した。

 実際、EURO2024決勝では、ロドリが前半で負傷交代した。それでもスペインの中盤は大きく崩れなかった。代わって入ったマルティン・スビメンディが同じ場所に立ち、同じ役割を担い、チームはイングランドを破った。

 1人の名手が退いても、別の選手が迷わず仕事を引き継げる。スペインでは、ピボーテに必要な判断や位置取りが、世代を越えて受け渡されている。
 
 FAも共通の育成理念を掲げてきた。ただ、選手が日常を過ごすのは各クラブのアカデミーであり、育成方法も試合で求められる役割も同じではない。技術や判断力を備えた選手が育っても、その才能がトップ下やウイングで磨かれることもある。

 イングランドに足りないのは才能の数ではなく、中盤の底に立つ選手へ、どの能力を求め、どの仕事を教えるかという共通理解なのかもしれない。

 速さ、強度、推進力は、イングランドサッカーが育んできた大きな魅力である。それを手放す必要はない。その一方で、あえて攻撃を急がず、味方の位置が整うまでボールを動かす判断もある。数字には表われにくいが、1つのパスで試合の空気を変える選手もいる。

 次のロドリを探すだけでは、空白は埋まらない。中盤の底を試合の設計者として育てる時間が、イングランドには求められている。

文●田嶋コウスケ

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配信元: SOCCER DIGEST Web

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