
「落ち着いて、ゆっくり息をして」
不安で頭がいっぱいのときにそう言われても、「本当にそんなことで変わるのか」と思ってしまうかもしれません。
しかし呼吸は、単なる気休めではなく、心拍や脳の活動と結びついた身体のリズムです。
そして、中国・西南大学(Southwest University)の研究では、呼吸の速さをゆっくりにするだけで、脳の不安反応が緩和されることが示されたのです。
では、その簡単な「ゆっくり呼吸法」のやり方とは?
研究の詳細は、2025年3月11日付で『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- ゆっくり呼吸法のやり方と、不安をあおる実験
- ゆっくり呼吸で、脳の不安が和らいだ
ゆっくり呼吸法のやり方と、不安をあおる実験
この研究には、18~26歳の健康な女子大学生が参加し、最終的に25人分のデータが分析されました。
参加者はまず、音声に合わせて30秒間、2種類の呼吸法を行いました。
1つ目のコントロール群には、通常通りの呼吸をしてもらいます。それは息を吸うのに2秒、息を吐くのに2秒かけるものです。
2つ目の実験群には、ゆっくり呼吸法を実践してもらいました。
これは息の吸うのに6秒、息を吐くのに6秒かける方法です。
1回の呼吸に12秒かかるため、1分間では約5回のペースとなります。
そして実験では、呼吸の後に「O」または「?」の記号が表示され、それに続いて、けがや恐ろしい動物などの不快な画像が出されました。
「O」は、不快な画像が必ず出る合図です。
「?」は、楽しい画像、中立的な画像、不快な画像のどれが出るか分からない合図でした。
ただし実際には、「?」の後にも必ず不快な画像が表示され、参加者はそのことを知らされていませんでした。
その結果、同じような不快画像を見ても、「?」の後では画像をより嫌だと感じ、気持ちの高ぶりも強くなりました。
つまり人は、嫌なことが起きると分かっている場合だけでなく、起きるかどうか分からない状態そのものにも強く反応するようです。
ゆっくり呼吸で、脳の不安が和らいだ
ところが、画像を見る前にゆっくり呼吸した場合、参加者が報告した不快感と興奮度は、通常の呼吸の後より全体として低くなりました。
さらに、呼吸中の心拍数も平均で1分間73.6回から71.4回へ下がっていました。
チームが特に注目したのは、画像を待っている間の脳波です。
速い呼吸の後では、何が出るか分からない条件で、ベータ帯域の活動が強くなりました。
ベータ帯域の活動は、脳の覚醒や精神的な緊張、努力が高まっているときに増えることがあります。
一方、ゆっくりした呼吸の後では、不確実な条件でベータ帯域の活動が低下しました。
これは、ゆっくりした呼吸が、嫌な出来事を予想して身構える脳の反応を弱めた可能性を示しています。
ゆっくり呼吸法のやり方は、先にも述べたようにとてもシンプルです。
6秒かけて息を吸い、6秒かけて息を吐く。これをおよそ30秒〜1分かけて続けます。
無理に大量の空気を吸おうとせず、苦しくない範囲で一定のリズムを保つことが大切です。
ただし、この研究は「30秒の呼吸法が不安障害を治す」と示すものではありません。
参加者は25人と少なく、全員が若い健康な女性で、確認されたのも実験直後の短期的な変化です。
それでも、不安で頭がいっぱいになったとき、呼吸は自分で動かせる数少ない身体のスイッチです。
未来への心配を完全に消せなくても、6秒吸って6秒吐く呼吸を繰り返せば、脳が必要以上に身構える状態を少し緩められるかもしれません。
参考文献
How slow breathing calms down your brain
https://psyche.co/notes-to-self/a-new-study-reveals-how-slow-breathing-calms-the-anxious-brain
元論文
The effect of slow breathing in regulating anxiety
https://doi.org/10.1038/s41598-025-92017-5
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

