ワールドシリーズ制覇まであと2アウトと迫り、カナダ中を熱狂させた昨年秋の快進撃から1年もしないうちに、ブルージェイズは厳しい現実に直面している。
シーズンのちょうど3分の2を消化した時点で、49勝59敗でアメリカン・リーグ東地区最下位。首位レイズからは14ゲーム、ワイルドカード圏内からも5.5ゲーム離されている。「5.5ゲームなら何とかなる」と思うファンもいるかもしれないが、得失点差-63はリーグワースト4位。アメリカのデータサイト「FanGraphs」によれば、プレーオフ進出確率はわずか6.0%で、率直に言って今後の浮上を期待させる要素は皆無に等しい。
こうなると、8月3日のトレード・デッドラインでは「買い手」ではなく「売り手」に回らざるを得ないだろう、というのが大方の見方だ。
といっても、昨年大型契約を交わしたばかりの主砲ブラディミール・ゲレーロJr.や新加入組の岡本和真、ディラン・シースを売りに出すことはまず考えられない。ルーキーのトレイ・イェサベージ、ブランドン・バレンズエラも同様だ。今季は白旗を掲げるとしても、来季は戦力を整え直して再び頂点に挑戦するつもりのはずで、そのためにもコア戦力は残しておかなければならない。
有力放出候補としてまず挙げられるのはエースのケビン・ゴーズマン、元サイ・ヤング賞投手のシェーン・ビーバー、昨季華々しく復活を遂げたDHのジョージ・スプリンガー、好守を誇るセンターのドールトン・バーショら、今オフにFAとなる選手たちだ。だが、いずれも今季の成績が振るわず、大した見返りは期待できない。
そんな中で注目されるのがルイ・バーランドだ。昨季のデッドライン・トレードで加入後、フル回転でチームを支えた豪腕リリーバーは今季も開幕から絶好調。シーズン途中からジェフ・ホフマンに代わってクローザーに昇格し、ここまで22セーブ機会すべてに成功、防御率1.02と抜群の安定感を披露してオールスターにも選出された。
そんな投手をトレードするなんてとんでもない、と思う向きもあるだろう。だが、メジャーリーグのGMの思考は少し違う。
まず前提として踏まえておかなければならないのは、バーランドのトレードバリューは今、最高潮に達している、ということだ。
昨夏にブルージェイズに加入した時点でのバーランドの通算防御率は4.62。どこにでもいる平凡なリリーフ投手だった。そう考えると、今季の成績はさすがに出来すぎと言わざるを得ない(そもそも、1点台前半の防御率をずっとキープできる投手など存在しない)。
また、バーランドのFA権取得は30年オフ。獲得側からすると4年半も保有できるのはかなり魅力的で、これもトレードバリューの上昇に一役買っている。
さらに、夏のトレード市場では常にリリーフ投手の相場が上昇する。プレーオフを目指すチームなら、どこでもブルペンを底上げしたいと考えるからだ。
今このタイミングでバーランドを放出すれば、かなりの見返りが期待できるが、逆に言えば今後は徐々にトレードバリューは低下していくことは避けられない。
昨年のリーグ優勝の立役者を放出することは簡単な決断ではないだろう。だが、選手の「売り時」を逃さないことも優れたGMに求められる資質の一つ。ブルージェイズのロン・アトキンスGMはもちろん、そのことを理解しているはずだ。決して層が厚いとはいえないファーム組織を立て直し、来季再び勝負する態勢を整える上でバーランドの放出が一つの選択肢になることは間違いない。
果たしてブルージェイズはどのような決断を下すのか。「売り手」の側から考えるトレード・デッドラインもまた面白い。
文●久保田市郎
1976年、東京都出身。2002年にSLUGGER編集部に加入、編集長を務めた後、26年にフリー・エージェントとなる。日本の雑誌メディアで最初にOPSやDRSを紹介した一人。
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