
アクション映画の金字塔にして、ブルース・ウィリスの出世作としても知られる「ダイ・ハード」。1988年の公開以来、今なお「好きなアクション映画」を聞けば間違いなく名前が挙がる一作だ。BS12 トゥエルビ(BS222ch※全国無料)では、8月1日(土)からの「土曜洋画劇場」(毎週土曜夜7:00~)にてシリーズ全5作を5週連続で放送する。数々の見どころが詰まった映画だが、何がすごかったかと言えば、特に第1作目はその後のアクション映画のフォーマットを変えたことだと言われている。
■主人公は≠スーパーヒーロー、腕は立つが冴えない中年刑事
クリスマス・イブ。ニューヨーク市警の刑事ジョン・マクレーンは、別居中の妻ホリーの勤務先で行われるクリスマスパーティーに参加するためロサンゼルスを訪れる。再会の舞台となるのは高層ビルのナカトミ・プラザだが、その高層ビルへ、ハンス・グルーバー率いる武装集団が侵入し、社員たちは人質となってしまう。
運よく拘束を免れたジョンだか、警察へ通報しようにも電話回線は切られ、ビルから外へ出ることもできない。人質の中にはホリーもいる。助けを待っていても始まらないと悟ったジョンは、たった一人で武装集団へ立ち向かう。

そんなストーリーで始まる本作でまず触れておきたいのが、アクション映画の潮流を変えたということだ。一つは、主人公像。80年代前半~後半は、スタローンの「ランボー」やシュワルツェネッガー作品のような、圧倒的戦闘能力を持つヒーローものが人気を集めていた。しかし、ジョンはいわゆる無敵のヒーローではない。人並み以上の肉体派で腕は立ち、頭も切れるものの、歳はもう中年。あくまで一介の刑事にすぎない主人公だ。
警察の応援は期待できない(あの無能な本部長のせいで!)孤立無援の状況で、ジョンは追い詰められれば焦り、危険な状況では悪態をつき、愚痴が止まらない。これが「ダイ・ハード」の魅力と言われる等身大のヒーローだ。ランボーであれば顔色一つ変えずに切り抜けるだろう場面でも、普通の人間はそうはいかない。命綱を付けたからといって高層ビルから飛び降りるハメになれば、「神様、もう二度と高いビルには上りません」と泣き言の一つも出るというものだ。
そして、舞台。「ダイ・ハード」は一貫して高層ビルという密閉空間での戦いとなる。戦場や市街地でのド派手な戦闘ではないが、閉ざされた空間での戦いは非常にスリリング。オフィス、非常階段、ダクト、機械室、エレベーターシャフトと、ときには相手とニアミス、銃撃戦を繰り広げながら、上へ下へとビルの中を動き回る。ひとえに脚本、展開のうまさであり、「ダイ・ハード」のヒット後は、「スピード」のようなアクション・サスペンスも人気を集める流れとなった。

■ブルース・ウィリスだから生まれた等身大の愛されヒーロー
「ダイ・ハード」を語るなら、ブルース・ウィリスの魅力も外せない。何よりジョンを唯一無二の存在にしたのが、演じたウィリスの存在だ。本作以前のウィリスは、テレビドラマ「こちらブルームーン探偵社」で人気を集めたコメディー俳優だった。前述したように、当時、アクション映画の主演といえば、鍛え上げた肉体を持つアクションスターが中心。しかも、男らしく寡黙。ウィリスはその流れとは異なる場所から登場したが、「ダイ・ハード」で生かされたのは、まさにそれまで培ってきたコメディー俳優としての経験だ。
達者な台詞回し、人間臭い芝居はヒーローへの憧れとは別ベクトルで、ジョンを魅力的な主人公に仕立て上げている。生死のかかる緊迫した状況にありながら悪態をつくジョンの姿は絶妙な抜け感を生み、それがウィリスならではの愛されヒーローとなっている。

そんな彼にファンから贈られたキャッチーフレーズは、“世界一ツイてない男”というもの。ジョンの巻き込まれ体質はシリーズを通して変わらないが、特に第1作目では、その不運が脚本の積み重ねとして実に巧みに描かれている。
「別居中の妻と仲直りしようとロスへ来ただけなのに、妻の会社がテロリストに占拠される」
「運よく人質にはならなかったものの、そのせいで自分一人だけが敵と戦わなければならなくなる」
「飛行機で教わった『裸足で絨毯を歩くと疲れが取れる』というのを実践した直後に事件が発生し、靴を履く暇もなく裸足でビル中を走り回ることになる」
「味方が現れたと思えば状況を理解していない上層部やFBIが事態をさらに悪化させる」
「その挙句に屋上からダイブするハメになる」とまあ、こんな具合だ。

■知的で冷徹、後のスネイプ先生となる敵役の俳優アラン
もちろん、ジョンはただ不幸な目に遭うだけでは終わらない。そのたびに知恵を絞り、姿を隠し、テロリストに対しては正体不明の敵となり、一人、また一人と傷を負いながらも敵を倒していく。そんなジョンにとって唯一のパートナーとなるのが、ビルの外で待機するロス市警のアル・パウエル巡査部長だ。
ジョンが命懸けでビル内の状況を伝えても、ロス市警の本部長やFBIは的外れな判断を繰り返す。そんな中、アルは最初から最後までジョンの言葉を信じ続ける。二人は顔を合わせることなく無線だけで信頼を築いていくが、この関係性が実にいい。合間合間に挟まれる二人の会話が、アクション劇一辺倒にならないキャラクタードラマを生んでいる。

そして、ジョンと渡り合うテロリストのリーダー、ハンスの存在も見逃せない。演じるのはアラン・リックマン。今は故人となってしまったが、「ハリー・ポッター」のスネイプ先生と言えば分かる人は多いだろう。もちろん「ダイ・ハード」での彼はスネイプ先生より10年以上前の姿だが、渋さと鋭利さは本作でも十分。加えて精悍さも見せてくれる。

ハンスは冷静沈着で知的。ジョンという異分子が計画を狂わせても感情的にならず、一手先を読んで状況を利用する。だからこそ知恵と執念で食らいつくジョンとの攻防が最後まで緊張感を失わない。アクション映画でありながら、こうした頭脳戦の面白さがあるのも本作の魅力だ。
■シリーズ後半ではジョンの娘ルーシー、息子ジャックも登場
シリーズはその後、「ダイ・ハード2」では空港、「ダイ・ハード3」ではニューヨーク市内へと舞台を広げ、事件の規模もどんどん大きくなっていく。2007年公開の「ダイ・ハード4.0」ではジョンの娘ルーシーが登場し、最後の「ダイ・ハード/ラスト・デイ」では息子ジャックとの共闘も描かれた。事件だけでなく、家族との関係もシリーズを通して描かれるようになり、ジョンの新たな一面が見えてくる。
一方で、シリーズが進むにつれてジョンは次第にスーパーヒーローに近い活躍を見せるようになり、第1作目の泥臭さや“世界一ツイてない男”という味わいは少しずつ薄れていく印象もある。賛否は大きいものの、アクション映画の潮流を変えた作品が、今度はスーパーヒーローの流れに近づいていくというのもまた興味深い。
BS12 トゥエルビでは、8月1日(土)からの「土曜洋画劇場」で「ダイ・ハード」シリーズ全5作品を5週連続で放送する。まずは全ての始まりとなった第1作で、“世界一ツイてない男”ジョン・マクレーンの災難ぶりを久しぶりに振り返ってみてはどうだろう。
◆文=鈴木康道


