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『ガンダム』性暴力、自死、爆弾で吹き飛ぶ足…小説版『08MS小隊』が問う「戦争フィクションの罪」

『ガンダム』性暴力、自死、爆弾で吹き飛ぶ足…小説版『08MS小隊』が問う「戦争フィクションの罪」


『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(下)』原案:矢立肇/著:大河内 一楼(角川スニーカー文庫)

【画像】えっ…! こちらが小説版『ガンダム 08MS小隊』で悲劇が訪れるヒロインです(4枚)

アニメ勢は知らない衝撃展開

 富野由悠季監督が生み出した「機動戦士ガンダム」シリーズは、アニメだけでなく小説でも展開されています。しかし、その内容はアニメ版と異なる小説独自の展開を見せることがあります。

 例えば、富野監督自身が執筆した小説版『機動戦士ガンダム』(角川スニーカー文庫)は、主人公の「アムロ・レイ」が最初から地球連邦軍に所属しているなど設定が一部異なるだけでなく、物語の途中でアムロと「セイラ・マス」とのベッドシーンが描かれるなど、より刺激的な内容となっています。さらには、最後にアムロが死亡するという、アニメとはまるで異なる展開を見せることで、読者を驚かせました。

 そんな「ガンダム」シリーズの小説版で、アニメ版と異なる展開をするのは初代『ガンダム』だけではありません。

 現在はアニメ脚本家として数多くの作品に携わる大河内一楼氏の『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(以下:08MS小隊)』(角川スニーカー文庫)も独自の展開を見せており、アニメ版を知る読者にとってはややショッキングな内容となっています。

 しかし、それにより小説版は、戦争をフィクションとして描くことに対する葛藤や大切な姿勢が込められているように思うのです。

泥臭い戦場を描く『08MS小隊』

『08MS小隊』は、『機動戦士ガンダム』と同じく宇宙世紀0079を舞台にした「一年戦争」のサイドストーリーを描いた作品です。地球連邦軍の青年士官「シロー・アマダ」少尉が東南アジア戦線の08MS小隊の隊長に任命され、泥臭い密林を舞台に生々しい戦場を描く内容です。物語は、シローとジオン軍のテストパイロット「アイナ・サハリン」との許されぬ恋が中心となり、人間臭い08MS小隊の連中や、密林の村に暮らす少女「キキ・ロジータ」たちとの交流などが描かれます。

 赴任先に向かう途中で戦闘に巻き込まれたシローはアイナと出会い、地上の戦場で偶然の再開を果たしますが、そのことでスパイ容疑をかけられるも兄に操られるアイナを救うために行動する姿を、ヒロイックに描いた作品といえます。ニュータイプのような超常的な能力は描かれず、泥臭い戦場をリアルに描写している点も特徴です。

 アニメ版は全12話のOVAとして展開され、劇場版『機動戦士ガンダム 第08MS小隊 ミラーズ・リポート』も制作されています。なお、2024年にNetflixで配信された『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』に、本作のあるキャラクターが登場することで注目されました。

キキに訪れる悲劇

 小説版の特徴は、ベトナム戦争を思わせるような密林を舞台にして地球連邦軍とジオン軍の戦いが描かれる点です。その両者の戦いの犠牲になるのが、密林にある村の人々です。彼らは、ジオンの支配を拒みつつも連邦からの自立も求めて戦っています。そんな村の村長の娘キキはゲリラを組織し、連邦ともジオンとも対立しています。しかし、作中で軍人らしからぬ理想主義的なシローに惹かれていき08MS小隊と協力関係となっていくのです。

 快活な少女であるキキは、アニメ版では重要キャラクターのひとりとして活躍を見せます。しかし、小説版においては物語の途中で、連邦軍の兵士から性暴力を受け、舌をかみ切って自死するというショッキングな展開が描かれるのです。

 アニメ版では最後まで08MS小隊に協力し、隊員のひとり「ミケル・ニノリッチ」と良い仲になっている描写も見られるだけに、この描写の落差に驚く読者は多いでしょう。

 なぜ、このような描写が必要とされたのでしょうか。


『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(上)』原案:矢立肇/著:大河内 一楼(角川スニーカー文庫)

小説版『08MS小隊』で衝撃描写が必要だったワケ

 このキキの悲劇は小説版において、主人公シローの重要な変節のきっかけとなります。

 小説版のシローはアニメ版とは異なり、「キャプテン・ジョー」という戦争ドラマが大好きという設定になっています。第一章「出撃」の冒頭は、このドラマをシローが見ており、ジョーの華々しい活躍が描写されるところから始まるのです。シローが子供の頃から続く人気シリーズで、対戦車ロケットでモビルスーツを倒してしまうという描写がされていて、実際の戦場でシローがこれを真似して戦果を挙げて評価されるという展開も描かれます。

 このドラマは戦意高揚ドラマとされていて、戦場をカッコよく、兵士をヒーローとして描く内容で、シローは純粋にジョーに憧れているのです。このドラマと過去の経験から、シローはジオンを素朴に悪とみなしており、この戦争は正義のためだと信じています。

 そんなシローの考えが変わるきっかけがキキの悲劇です。連邦の兵士による性暴力という現実を知ったシローは、「自分がしていたはずの正義の戦争は、ただの殺し合いにすぎなかったのだと」気づき、「正義の戦争なんてものは、どこにもないのだと」(中巻、P242)考えが変わっていくのです。

 フィクションのドラマの影響でシローは戦争をカッコいいものだと思っていました。そんなシローがキキの事件をきっかけに「キャプテン・ジョー」を嫌いになり、そんなプロパガンダに乗せられて戦争をしていた自分を見つめ直すようになります。キキの悲劇は、本物の戦争をフィクションと同じように考えていたシローに、現実を突き詰めるためのエピソードとして描かれているわけです。

 本作はこれ以外にも、ゲリラの村の幼い少女が仕掛けられた爆弾で足が吹き飛んでしまうといった描写もあり、容赦のない過酷な戦場が書き連ねられます。

 こうした描写の数々によって『08MS小隊』の小説版は、アニメ版以上に生々しい戦場を描いているといえるでしょう。

戦争を娯楽フィクションで描くことの葛藤

 主人公がフィクションの戦場ドラマに影響を受けている設定によって、この小説版は「フィクションで戦争を知ることの難しさ」という、アニメ版にはない視点が加わっています。戦争をニュースやフィクションでしか知らない世代が日本ではすでに大多数ですから、本書の姿勢はとても大切なものだと思います。日本では、制作者も鑑賞者も戦争を直接知らない世代になっています。

 もしかしたら「ガンダム」シリーズを見て、戦場で戦うヒーローに憧れる人もいるかもしれませんが、本書はそういう姿勢を戒めるように書かれているように思います。「ガンダム」シリーズはリアルロボットアニメと呼ばれて、それ以前のロボットアニメと異なり、戦いのリアリティーを高めたという評価があるものの、それでも本物の戦場とは異なるわけです。

「戦争自体、殺人という巨大な犯罪」(下巻、P22)という作中の言葉通り、戦争には正義はなく、多くの人間を犠牲にする犯罪であると描いていることが、アニメ版と決定的に異なる部分です。

 娯楽作品である以上、カッコよさは必要です。しかし、作り手は「戦場に憧れを持つような作品でいいのか」という葛藤を少なからず持つのではないでしょうか。むしろ、そういう葛藤こそ持つべきなのかもしれません。

 戦争をフィクションで分かったつもりになっている主人公が現実を突きつけられる――そんなフィクションを通じて、小説版『08MS小隊』は「この本を読んで戦争を分かったつもりになってはいけない」と語っているように思えます。

配信元: マグミクス

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