
【ザスパ社長・細貝萌の生き様】北中米W杯の解説を務めて湧き上がった感情「可能性はゼロじゃない。今いるメンバーにも目ざしてほしい」
6~7月にかけて世界中を熱狂と興奮の渦に巻き込んだ2026年北中米ワールドカップは、スペインの16年ぶりの優勝で幕を閉じた。
ザスパ群馬の細貝萌社長は現役時代にドイツ・ブンデスリーガでプレーした高度な経験値を生かし、DAZNで6月13日のブラジル対モロッコ戦、20日のドイツ対コートジボワール戦、7月16日の準決勝・アルゼンチン対イングランド戦など複数の試合で解説を務めた。
さらにW杯デイリーハイライトなどの番組にも出演し、元日本代表ボランチの視点で今大会のトレンドや世界基準を分かりやすく語っており、「多忙な社長業と掛け持ちしながら、これだけの試合を詳細に語れるのは本当に凄い」と多くのファン・サポーターから驚きの声が上がったほどだ。
「ワールドカップの解説は基本的に夜中で、業務時間外だったわけですけど、ただ行って喋ればいいわけではありません。イングランドとアルゼンチンの試合だったら、両方の過去の試合でどういう戦いをしたのか、誰がどんなプレーをしたのかを映像で確認しておかないと話ができない。
その準備を社長業のある昼間はできないので、仕事を終えた夜中か早朝に見る必要がある。そういう意味でかなりハードなスケジュールで動きましたけど、自分自身にとってもクラブにとってもメリットがあると思って、精一杯取り組みました」と、彼は傍目からは分からない苦労を明かす。
細貝社長にとっての最大の関心事は、やはり日本代表のW杯での戦いだったはずだ。自分自身は2014年ブラジルW杯でメンバー落選という憂き目に遭っているが、同い年の長友佑都が5大会連続でW杯に参戦したこともあり、関心は高かったに違いない。
「ワールドカップの日本代表の戦いを見てまず思ったのは、『自分はワールドカップに出たことがないから、この感覚は分からないな』ということ(苦笑)。改めてこの大舞台に立ちたかったなという気持ちになりました。
佑都に関しては、同い年で5回もワールドカップに出たわけだから、本当に素晴らしいし、大きな刺激を受けました。森保(一/監督)さんが選んだメンバーに対して賛否両論もありましたけど、監督が『ベストだ』と考えたメンバーで行ったことに僕自身、異論はありません。佑都もその1人に他ならなかった。実際に心から応援していました。
その日本代表がベスト32で敗れたのは、本当に残念だった。『こういう舞台にいつかザスパ出身の選手が立ってほしい』という思いも湧き上がってきました。今大会には出られなかったですけど、J3だったFC今治からプロキャリアをスタートさせて、J2の大分トリニータ、J1のアビスパ福岡へステップアップし、日本代表入りした安藤智哉選手(ザンクトパウリ)のような選手もいますし、可能性はゼロじゃない。今いるメンバーにもそこを目ざしてほしいですね」と細貝社長は率直な思いを話す。
隣を見れば、同じJ3の松本山雅FCからも前田大然(イプスウィッチ)という人材が育っている。もちろん前田がプロ入りした時、松本はJ2上位にいて、J1に昇格したこともあるのだが、群馬も長くJ2で戦っていたクラブ。今はベイシアグループの傘下にも入っていて飛躍的な成長が期待されるだけに、そういった有望な人材が出てきてもおかしくはないはずだ。
「今の選手たちも頭のどこかで『日本代表になりたい』『ワールドカップに行きたい』と考えていると思います。僕は社長なので、もちろんザスパで長くプレーしてほしい。今はクラブの体制も変わり、クラブとして上を目ざせる環境になりつつある。僕らが上のカテゴリーに上がっていければ、選手たちも格上のリーグでプレーできるようになるわけですから、そうやって一緒に上を目ざしていければ一番良いですよね。
ただ、選手によってはいち早く上のカテゴリーに行きたいと考える選手がいるのも事実。実際にこの夏にも何人かがJ2に移籍しました。ザスパがJ3にいる以上、この流れは仕方ありません。ただ...」と細貝社長は神妙な面持ちで言う。
確かに安藤や前田のように良い時期にステップアップし、新たな環境で着実に実績を残して価値を高めていければ、日本代表やW杯出場を現実にできる。が、焦って早く移籍して、その環境で試合に出られなかったり、怪我をしてしまったりして、足踏み状態に陥ると、成長が止まってしまうケースも起こり得る。実際にそうなっている選手の方が多いかもしれない。だからこそ、細貝社長は警鐘を鳴らすのだ。
「上のカテゴリーからオファーが来れば、行きたくなるのは当然です。自分も選手だったので、その気持ちは十分に分かります。ただ、着実に基盤を作ってから、2~3年後に高いレベルに身を投じた方がいいという考え方もある。だから決断のタイミングを間違えてほしくないと思っています。
たとえばJ3で充実したキャリアを送っていたのに、J2に移籍した途端、試合に出られなくなるといったことだけは避けてほしいわけです。移籍は結果論なので、行った先でどうなるかは予想がつかないですが、新天地に行くことになっても残ることになっても、強い意志を持って決断してほしいですね。
そのうえで、今、ザスパに残ってくれている選手たちには『絶対にこのクラブを上げて、自分も上のカテゴリーに行って、価値を上げるんだ』という強い覚悟を示してほしいと思っています」
細貝社長はW杯に携わり、世界トップ基準に触れたからこそ、今いる選手たちと一緒に成長していきたいという気持ちを強めた様子。今はGM職からは離れたため、現場のことは山田耕介GM、佐藤正美強化部長に任せているが、彼らから報告を受けながら現状を把握し、新シーズンに向かっているという。
沖田優監督体制が発足して1年半が経過するが、ボール保持に強くこだわっていた当初に比べると、今はシンプルにゴールに向かっていく時間帯も増えている。遅攻と速攻をうまく使い分けながら、相手の出方に応じて戦い方を変えられるような集団になれれば、26/27シーズンの群馬で上位争いの可能性は高まる。細貝社長もそう期待しつつ、まずは初戦となる8月9日の鹿児島ユナイテッドFC戦を見守る覚悟だ。
構成●元川悦子(フリーライター)
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