
2016年にアメリカ、2017年に日本で劇場公開されたディズニーのアニメーション映画「モアナと伝説の海」。その実写版が7月31日より日本でも公開され話題となっている。そこで今回は、原点であるアニメ版をあらためてレビューする。(以下、ネタバレを含みます)
■ディズニー長編アニメーション56作目
ディズニーが世界初の長編アニメーション作品として発表した「白雪姫」(1937年)から89年。2025年公開の「ズートピア2」で64作を数えるが、2026年12月4日(金)には「ビリーと魔法のはじまり」、2027年11月には「アナと雪の女王3」が米国で劇場公開予定で、世代を超えて愛される歴史はまだまだ続いていく。
その歴史を56作目として彩った「モアナと伝説の海」は、豊かな自然に恵まれた南の楽園で暮らす少女・モアナ(日本版声優:屋比久知奈)が主人公。幼い頃の不思議な体験で海と特別な絆で結ばれた彼女は、愛する島と島民を守るため、大海原へ旅立つ。
■現代女性の共感を呼ぶ、新しい“プリンセス”
ディズニー映画のヒロインたちは、“ディズニープリンセス”と称されて親しまれている。ディズニーの公式プリンセスは2026年7月時点で13人いて、モアナも含まれている。
ただ、「白雪姫」の白雪姫、「シンデレラ」(1950年)のシンデレラ、「眠れる森の美女」(1959年)のオーロラ姫、「リトル・マーメイド」(1989年)のアリエルなど、王族の生まれだったり、王子と結婚してプリンセスになったりする一方で、例えば「ポカホンタス」(1995年)のポカホンタスのように、アメリカ先住民の首長の娘もいる。モアナも島の村長の娘で、いわゆるプリンセスではないディズニープリンセスの一人だ。
日本での劇場公開時に来日した共同監督のジョン・マスカー監督とロン・クレメンツ監督。その際、クレメンツ監督は本作を「プリンセスのいないプリンセスムービー」と表現し、「ラブストーリーや王子さまという要素を抜いた作品になっていて、プリンセスであるモアナ自身が自分の世界を救うためにヒーローとなる物語」と語っている。(「MOVIE WALKER PRESS」2017年3月9日掲載記事より)
白雪姫やシンデレラたちの優しさや美しさは、女性たちの憧れの的。彼女たちが一歩踏み出す勇気や強さも描かれ、多くのファンを魅了してきた。自分の世界を広げるということは、女性の社会進出が進む時代の流れとともに、より共感を呼ぶポイントになってきた。
モアナはそれを一段と象徴する存在だ。海への憧れを強く抱きながらも、サンゴ礁の外には出てはいけないという掟により海から遠ざけられていたモアナ。それが、島に不穏な出来事が起こり始め、彼女にしかできない大きな使命に導かれて島を出る。未知の世界への冒険。怖くても自分を信じて進む。アニメーションながら、決断したモアナの瞳の強さと輝きに心を揺さぶられる。

■意思を持った海とタトゥー、子どもたちも魅了する表現力
サンゴ礁の向こうに出たモアナ。島で暮らす、知能指数がゼロに等しいニワトリのヘイヘイが意図せずお供となる中、早々に試練が襲う。モアナの乗った帆船は嵐に翻弄(ほんろう)され、無人島へと流れ着く。気が付いたモアナは波打ち際で海に向かって「何よ!助けてと言ったのに、舟をひっくり返すなんてひどい!」と文句を言い、海水を蹴飛ばそうとする。すると、海水がモアナの足元からすぅっと引いて、モアナは足を出した勢いでひっくり返ってしまう。
潮の満ち引きではなく、海が意思を持って蹴飛ばされるのを避けた。“海”も一人のキャラクターなのだ。モアナの質問にも海水を上下させて答えたりする。特別な者にしか、その感情を見せない海は、モアナならば世界を救えると、命の女神テ・フィティに“心”を返すことを託した。
この海の表現は、劇場公開時にも鑑賞した多くの子どもたちの目を輝かせた。ただキラキラ美しいだけではなく、意思を持って動く。こうだったら楽しいだろうなぁ、という空想の世界に導いてくれる。
他にも、子どもたちをとりこにしたのが、風と海をつかさどる半神半人の英雄マウイ(日本版声優:尾上松也)だ。王子様のようなイケメンとは言い難く、ゴツい体にびっしりとタトゥーが入っているのだが、そのタトゥーの一つ“ミニ・マウイ”がかわいい。
人格を持ったマウイの分身であり、彼の本心であるミニ・マウイ。タトゥーだが、マウイの体を自由に動き回り、身振り手振りで意思を伝える。こういった楽しく面白い表現力がしっかりとモアナの旅を支える。実は本作の企画段階ではマウイが主人公の物語を想定していたというくらいで、魅力にあふれるキャラクターだ。
そして、そんなマウイこそ、命を創り出す偉大な力が宿るとされるテ・フィティの心を盗んだ張本人。モアナは流れ着いた無人島でマウイと出会う。これもまた海に導かれたよう。1000年前にテ・フィティの心を盗んだことで神の釣り針を失い、力を封じられていたマウイは、モアナと旅に出ることに。
マウイは怖いもの知らずで自信満々…なのだが、テ・フィティの元に行くまでに待ち受ける恐ろしさを知っていてすんなりとはいかない。それをモアナがマウイの自尊心をくすぐって決意させる。この始まりから2人が相棒となる楽しさが出ていてワクワクする。
監督が言っていたように本作にラブストーリーはない。モアナとマウイは、世界を救うための相棒となり、絆を深めていく。
■自然と口ずさんでしまう音楽も秀逸
劇中、マウイが出会って間もないモアナのことを「お姫様」とからかうように言う場面がある。モアナは「私はお姫様じゃない。村長の娘よ」ときっぱり。マウイが「ドレスを着て動物のお供がいればお姫様だ」と言い返すのは、これまでのディズニープリンセスの描かれ方を皮肉るようでもあり、思わずクスっとするが、「お姫様じゃない」と言い切ったことこそ、モアナのアイデンティティ。まさに「プリンセスのいないプリンセスムービー」というわけだ。
そうしたしっかり練られたコンセプトと時代にピタッとハマった物語性、好奇心旺盛なモアナやユニークなマウイなどの魅力あるキャラクター、ディズニーが誇る映像美と表現力。そこに音楽も加わって物語の余韻を生む。
劇中でモアナが歌い、加藤ミリヤが歌う日本版エンドソングの「どこまでも~How Far I’ll Go~」は、一度聴いたら自然と口ずさんでしまうメロディーラインとともに、歌詞の中に込められたモアナが一歩踏み出す勇気の表現が胸を打つ。
そんな完成度の高さがヒットに導いた本作。7月24日には実写版公開に先駆け、日本テレビ系の「金曜ロードショー」枠でアニメーション版「モアナと伝説の海」が放送された。日本公開から数えて9年前の作品ということもあり、「こういう話だったのか」「やっぱり名作」「胸熱すぎて画面から目が離せない!」といった声も寄せられている。
公開当時、海の表現などCGは「実写を超えた」という声もあったが、10年たって技術も進んだ今、実写版ではどうなっているだろうか。主人公モアナ役は、オーストラリア・シドニー出身の19歳の新鋭キャサリン・ランガイアが務め、日本版声優はガールズグループ・ME:IのTSUZUMIが担当。どちらもオーディションを経て、アニメーション版とは違うキャストが抜てきされた。
人気キャラとなったマウイは、アニメーション版に続いてドウェイン・ジョンソンが務め、日本版声優も引き続き松也が務める。プロレスラー時代、ザ・ロックのリングネームで知られたジョンソンだが、マウイのゴツい風貌は想像以上にぴったり。そうしたアニメーション版とリンクする部分も感じつつ、実写版ならではの魅力を堪能してみては。
「モアナと伝説の海」は、ディズニープラスで配信中。
◆文=ザテレビジョンシネマ部

