
「恩返しをしたい気持ちが強かった」近大附属が“ファミリー”で掴んだ準優勝。寺師監督が母校と歩む「夏の大冒険」の続き【総体】
この10年以上、全国大会から遠ざかっていた。プリンスリーグ関西2部から大阪府1部リーグに降格した今年も第8節を終えた時点での順位は4位で、大会前は近大附属がインターハイを勝ち上がるとは誰も思っていなかっただろう。だが、国見との1回戦を2-1で勝利すると、勢いに乗ったチームは強豪を次々に撃破。寺師悠斗監督が「夏の大冒険」と評するストーリーは大会最終日を迎えることになった。
決勝ではその寺師監督が「ラスボス」と称した静岡学園のテクニックに翻弄され、これまで機能していた前線からの守備が上手くハマらず、前半19分に先制を許した。「0-4ぐらいまでいかれるかと思っていた」(寺師監督)が、前半のクーリングブレイクで立て直すと、30分にはCKからDF藤川澄生(3年)が同点ゴールをマークした。
後半はシステム変更と選手交代によって攻撃のギアを上げた静岡学園に押し込まれる時間が長くなったが、ゴール前での身体を張った守備を続け、打たれたシュートは1本のみ。延長戦、PK戦での勝利への道筋は見えてきたが、試合終了間際にCKのこぼれ球を決められ、1-2で涙を飲んだ。
「これで満足するなよということだと思うし、次章がまた始まると彼らには伝えることができる」。寺師監督が口にしたように夏の大冒険は思い描いたエンディングではなかったが、今大会で得たものは大きかった。
チームの指揮を執る寺師監督は近大附属のOB。「近大附属で一番成長させてもらったと思っている。母校に対しての愛というか、恩返しをしたい気持ちが強かった。自分と同じような志で文武両道を目指したり、サッカーだけでなく人間力も磨きたいと入ってきてくれた子たちに関わりたい。そうした子たちとともに成長したかった」。そう話す指揮官は高校生の頃から、創部からチームを率いた山田稔前監督の後を継ぎたいと考えていた。
日体大4年生の時には大阪府の教員採用試験に合格していたが、非常勤講師の枠しかなかった近大附属への赴任を希望。「近大附属で教員をして、近大附属でサッカーをやらないと意味がないと思っていた。周りの全大人から反対され、母校でやるのが僕の夢なんでと説得するなか、両親が背中を押してくれた」という。
山田前監督のもとでコーチとして経験を積み、2023年に監督へと昇格。同じく近大附属OBで1歳下の横野敏大コーチとのコンビによる新体制がスタートした。ただ、チームには山田前監督を支えてきた長尾孝司コーチと森正コーチがいた。寺師監督にとって2人は歳が離れた高校の先輩で、通常であればやりにくさを感じるのは確かだろう。
「これからのサッカー部は寺師と横野でやっていこうとなった時に正直、僕と森の必要はないと言われると思っていた。辞めろと言われたら辞めなアカンなって」。長尾コーチは当時の心境を明かすが、寺師監督に「2人には絶対残ってもらって、僕らを助けてください」と声を掛けられ、腹が決まった。
体制が変われば周囲から様々な声があがるのは確かで、「大監督から代わって、色んなことがあるだろうから矢面に立とう、用心棒になろうと思った」と長尾コーチは口にする。年上であり、指導歴は監督よりも長いが、あくまでもサポート役だとも自覚していた。
「せっかく監督をやるなら寺師が思うようにやってみたらと思っていた。長年コーチをやっていて、このタイミングで選手を代えたいと思っても、決めるのは僕ではなく監督。僕が言うこと、考えることを聞きすぎてはいけない。なんぼでも意見を聞いてくれて良いけど、自分の思うようにやりなさいと言ってきた」
森コーチは寺師監督、横野コーチの2人が受け持つカテゴリーの指導に専念できるよう下のカテゴリーの指導を一手に引き受けた。大会中、寺師監督は「先輩の長尾コーチ、森コーチを中心に同級生や後輩のスタッフもいる。思い切ってやれる環境をスタッフ全員が作ってくれているのは感謝しかない。いろんな方から“山田先生の後は大変やろ”と言われるのですが、僕自身は監督やってきたこの4年間が楽しすぎる」と口にしていたが、紛れもない本心だ。
そうしたスタッフ陣の関係性を見ていると監督とコーチ、先輩と後輩といった枠組みではなく、寺師監督が“ファミリー”と評するものに近いように見える。ピリッと張り詰めた空気感で練習を行なうが、ひとたびグラウンドから離れるとスタッフが冗談を口にして笑い合う。そうした姿を選手たちが見て笑っているのが近大附属にありふれた日常だ。「チームの雰囲気が良いとか、スタッフと選手の仲が良いとたくさん言っていただけるのが何よりも嬉しい」(寺師監督)。
今大会はそうした選手、スタッフを含めた“近大附属ファミリー”全員が福島まで駆けつけ、ピッチに立つ選手に声援を送った。「この景色を見ることができるのは高校サッカー界で数えるほどしかいない。今回ファミリー全員でこの景色を見ることができたことに意味がある。間違いなくチームの歴史であり、財産になった」。そう寺師監督が口にするように、準優勝という称号以上にチームのみんなで決勝の景色を見た価値は大きい。
「次の大会や来年日本一を取ることが現実として手に届くところまで来たと思う。ここで満足することなく気を引き締めて、また1からやり直したい」。寺師監督は悔しさを滲ませつつも前を向く。近大附属ファミリーによる次の大冒険への準備、ハッピーエンドで終えるための準備はすでに始まっている。
取材・文●森田将義
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