前作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(21)で、世界中の人々の記憶から消えることを選んだピーター・パーカー(トム・ホランド)のその後を描く本作は、ハルクの登場などで話題を集めているが、なかでも注目したいのが、マーベルでも異色のヒーロー“パニッシャー”の存在だ。
■家族を殺された哀しみを背負うアンチヒーロー、パニッシャー
髑髏が描かれた漆黒のスーツを身に纏い、悪を罰するヴィジランテのパニッシャーことフランク・キャッスルは、1974年の「アメイジング・スパイダーマン #129」でコミック初登場。身勝手な正義を振りかざす狂人として描かれると、その後、大人向けシリーズ「マーベルプレビュー」の主役に抜擢。マフィアに家族を殺され、復讐に燃える元海兵隊員というオリジンが与えられ、自身のコミックスが作られる存在となっていく。

聖職者を目指していたが人々の罪を赦すことができずに神学校をドロップアウトし、軍人に。しかし、妻と2人の子どもを殺されてしまうと、特殊部隊時代のスキルを活かし犯罪が横行するニューヨークで私刑執行人として暗躍するように…というダークな設定を持つ。

彼を正統派ヒーローたちと隔てているのが、情け容赦のなさだ。キャラクターが生まれた70年代は映画のジャンルでもダークヒーローが一般化し始めた時期。パニッシャーも怒りを滾らせながら銃器で躊躇なく敵を撃ち殺すなど、一線を超えたバイオレンスを悪人にお見舞いする“絶対殺すマン”。コミックスではまだまだ新鮮だったヒーロー像は、正統派と対極の存在として輝きを放った。
■三度にわたる映画化の歴史をプレイバック!
初のセルフタイトルコミックシリーズ「パニッシャー」が1986年からスタートすると、人気に乗じて映画化。1989年には80年代アクションスターの一人、ドルフ・ラングレン主演の『パニッシャー』が制作される。

キャッスルが刑事だったことからマフィアの恨みを買い、家族を殺されてしまうという設定のマイナーチェンジを交えつつ、パニッシャーの復讐劇を描いている本作。ガンアクションはもちろん、マフィアの利権を狙う忍者のようなヤクザとの対決といったユニークな描写もあり、80年代アクションらしさも感じられる1作だ。

それから25年の時を経て再度映画化されたのが『パニッシャー』(04)。FBIの囮捜査によって暗黒街を牛耳るセイント(ジョン・トラヴォルタ)の次男が死亡すると、現場に出ていたFBI捜査官のキャッスル(トーマス・ジェーン)の家族が皆殺しにされ、復讐の鬼パニッシャーになっていくという内容だ。
人間臭さを押し出したテイストは不評を集めることとなったが、主演を務めたジェーンのパニッシャー愛は本物で、その後、2012年に自主制作の映画『The Punisher: Dirty Laundry』を発表。10分ほどの短編だが、パニッシャーらしさが凝縮された名作としてファンの間で好評を博した。

一方、このジェーンが抜けたことにより『パニッシャー』の続編計画は頓挫したが、2008年に『パニッシャー:ウォー・ゾーン』としてレイ・スティーヴンソン主演で三度目の実写化。これまでの作品のようなオリジンではなく、パニッシャーがビリー・ルソッティ(ドミニク・ウェスト)率いる巨大な犯罪組織に罰を与えた際に、囮捜査官を殺したことを知り、善悪の狭間で葛藤するという内容だ。
これまでの映画化のなかでも群を抜いて過激な暴力描写が繰り広げられ、生首が転がり、顔が破裂し、人が串刺しに…とやりたい放題。ゆうに100を超える死体の山が築き上げられる、アメコミヒーローとは思えない1作になった。
■ジョン・バーンサル主演のドラマ版を経てMCUへと合流

その後、「デアデビル」、「ジェシカ・ジョーンズ」、「ルーク・ケイジ」、「アイアン・フィスト」…とNetflix制作のマーベルドラマが次々と配信されるなか、「デアデビル」で初登場したパニッシャーもその流れに乗り、2017〜19年にかけて「パニッシャー」が2シーズンにわたって制作される。
今回の『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』にも出演するジョン・バーンサルがパニッシャーに扮し、家族を失った元海兵隊員のキャッスルが、事件の裏に隠された陰謀に迫っていく。自身の過去や葛藤と向き合いつつ、犯罪者に制裁を与えるハードなアクションと重厚な人間ドラマが紡がれた。

さらにドラマ「デアデビル:ボーン・アゲイン」に出演し、MCUへの合流を果たすと今年の5月にはDisney+(ディズニープラス)で『パニッシャー:ワン・ラスト・キル』も配信。MCU向けに新たなスタートを切った本作では、妻子の命を奪ったグヌッチ一家を滅ぼした結果、その因縁によって命を狙われることになったキャッスルが葛藤を乗り越えていく姿を描く。

町中の殺し屋やチンピラ相手に繰り広げられるウルトラバイオレンスは圧巻。特にクライマックス、Hatebreedの「I Will Be Heard」が流れるなか、人生を取り戻すべく他人のために立ち上がるパニッシャーが見せる、歌詞とマッチした激アツな殺戮シーンは、ファンの心をガッチリと掴んだ。

■最新作ではスパイダーマンのメンターに?
そしてパニッシャーの最新の姿が楽しめるのが今回の『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』。世界から忘れられて4年、ニューヨークでスパイダーマンとして活動するピーターは、一人で戦うプレッシャーも相まって、身体に制御不能な変化に見舞われてしまう。そんななか、ニューヨークにかつてない脅威が起こり…。

もともとコミックスではスパイダーマンを狙うヴィランとして登場したパニッシャーは、人命を優先するスパイダーマンとは対照的に、目的のためなら殺害も辞さない対立的な存在。そんなキャッスルにピーターが助けを求める展開からも事態の深刻さが想像できる。
またMJを遠ざける様子を気にかけるなど、自分と同じ孤独への道を突き進むピーターにアドバイスを送る人生の先輩のような存在となるよう。決して模範的とは言えないパニッシャーとの交流によってピーターがどのように導かれていくのか?意外な組み合わせが生む化学反応も大いに気になるところだ。

ヒーローらしからぬ唯一無二のキャラクター像で存在感を示してきたパニッシャー。ある意味、キャラクターの原点とも言えるスパイダーマンとの共演を、ぜひスクリーンで見届けてほしい。
文/武藤龍太郎
