
静岡学園史上初となる夏の日本一から紐解くインターハイの意義。伸び盛りの夏に全国の舞台で挑戦する価値と成功体験を得る意味
今夏のインターハイは静岡学園の初優勝で幕を閉じた。2011年度にDF木本恭生(現・水戸)らが果たした準優勝を超える悲願達成で、県勢としては当時2年生だった小野伸二を擁した清水商(現・清水桜が丘)が王者となった1996年度以来となった。
「満身創痍の中で勝ち切ったことは素直に評価してあげたいし、選手たちの成長をすごく感じられる大会だった」
8月1日の決勝で近大附に2-1で勝利した後、報道陣の取材に応じた川口修監督は奮闘した選手たちを称えた。振り返れば、今大会の静岡学園は怪我人が続出。とても優勝できるような状況ではなかった。
開幕直前にエースで10番のMF松永悠輝(3年)が負傷。「あいつがいれば全然違う」というトップ下で攻撃を司るキーマンの不在が決まった。さらにボランチで頭角を現していたMF杉ノ原芽生と、スーパーサブとして期待していたFW杉山泰斗の2年生コンビも怪我で欠場。不安を抱えたなかで福島入りしたが、負の連鎖は止まらない。初戦となった大分との2回戦(8−0)では、ボランチに入る精神的支柱のキャプテンMF足立羽琉が右足首を痛め、今季絶望となった。
3-5-2のシステムで肝となるトップ下とボランチのレギュラーが全員いなくなるという緊急事態。さらに大津との準決勝では最終盤にMF小田切颯佑(3年)が相手選手との接触で交代を余儀なくされ、決勝のピッチに立てなくなった。この状況を力に変え、一夏の体験がチーム力を高めたのは見逃せない。
苦しい台所事情に陥ったからこそ、今まで全国舞台を経験していなかった選手が台頭する契機になったのも事実。MF高丘泰昂(3年)はU-18高円宮杯プリンスリーグ東海や総体の県予選では出場機会をほとんどなく、メンバーにギリギリ滑り込んだ選手だった。旭川実との準々決勝(3−2)で今大会初スタメンを勝ち取ると、ここから3試合連続で先発出場。決勝で今大会初スタメンを飾ったFW村松亮(3年)は先制点をお膳立てし、同じく初めてスタートから起用されたMF溝口昊(3年)もボランチのポジションで攻守の繋ぎ役を担ってフル出場で優勝に貢献した。
もちろん、レギュラーを張っていた選手もこの状況に奮起。得点源で足立の代わりにキャプテンマークを巻いたFW坂本健悟(3年)は184センチの高さを活かしてボックス内で存在感を示し、5ゴールをマークして今大会の得点王となった。大会前は勝負弱さが目立って県予選でも不振に喘いだストライカーが、責任感が増して夏の大舞台で特大級の輝きを放ったのも収穫だろう。
プレミアリーグ勢と真剣勝負できた点も今後のチームを考えたら大きな価値がある。今季から静岡学園はプリンスリーグ東海を戦っており、昨季まで所属していたプレミアリーグ勢と公式戦で戦うチャンスはほとんどない。大会前から指揮官が「準決勝まで勝ち上がって大津とやりたい」と口にしていたのも全国最高レベルの基準を選手に知ってもらいたいという想いがあり、実際にセミファイナルで戦った経験値は何事にも変え難い財産となった。川口監督は言う。
「守備の切り替えのスピードやプレスバックなど、そういう要求は夏の時点で選手にしていない。今回、大津と戦うことで選手たちが感じて『もっとやらないとダメだ』って気づいて欲しい。そこから上がってくるものがあるので」
実際に1-0で勝ったとはいえ、ほとんどが相手の時間帯。プレー強度で圧倒されており、自分たちが思考するテクニカルな攻撃的サッカーは全く出せていない。ボールを握れず、奪う返すシーンもほとんどなかった。
大津と対戦して刺激を受け、自分たちの現在地を思い知った選手たち。決勝後に今大会で一番得られたものを聞いた際、試合に出ていた者も、ベンチ外だった者も大津戦の話をピックアップしていた。
選手層の拡充にも繋がり、難しい状況で5試合を戦って優勝できた成功体験と経験値を蓄積は大きな意味がある。夏に真剣勝負ができる場は、伸び盛りの高校生にとって必要不可欠だろう。
静岡学園に限らず、破竹の勢いで勝ち上がって準優勝を果たした近大附もそうだ。大阪府リーグ1部を戦っており、普段は府外の相手と対戦する機会はない。強豪校と対戦できる場をもらい、6試合も経験できたことは選手の成長につながる。実際に186センチのCB清水彦(2年)は初の全国大会で可能性を示し、世代別代表のスタッフが見にきたゲームでもアピールはできた。そういうチャンスを得られたこともまた、今後のサッカー人生を変えるターニングポイントになるかもしれない。
プレミアリーグ勢の早期敗退が多く、波乱も多かった今大会。それでも多くの収穫があり、見どころ十分の大会となった。夏を経て、彼らが冬にどんな姿を見せてくれるのか楽しみだ。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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