
私たちは、なぜ犬や猫を家族のようにかわいがるのでしょうか。
食べ物や安全を得るためではなく、ただ一緒にいたい、触れたい、世話をしたいと感じる関係は、人間だけが持つ特別な文化にも見えます。
ところが自然界では、サルや類人猿が別種の動物をなでたり、毛づくろいをしたり、一緒に遊んだりする姿が繰り返し観察されてきました。
英オックスフォード大学(University of Oxford)は今回、こうした異種間交流を初めて包括的に分析し、人間のペット飼育につながる行動的な土台が、ヒト以外の霊長類にも広く存在する可能性を示しました。
研究の詳細は2026年7月21日付で学術誌『Primates』に掲載されています。
目次
- 別種の動物をなで、遊び、育てるサルたち
- 「ペット」そのものではないが、必要な土台はあった
別種の動物をなで、遊び、育てるサルたち
異なる動物が一緒に行動すること自体は、自然界では珍しくありません。
複数種の動物が集まれば、餌を見つけやすくなったり、捕食者に早く気づけたりするからです。
しかし、今回の研究が注目したのは、そうした目に見える利益を得るためとは考えにくい社会的な交流でした。
研究チームは、科学文献から303件、メディア資料から58件、霊長類研究者へのアンケートから66件、合計427件の事例を収集。
そこには88種の霊長類と127種の交流相手が含まれ、相手のうち55種は霊長類以外の動物でした。
たとえばタイでは、ベニガオザルが飼いイヌの毛づくろいをしていました。
スリランカではラングールの仲間がオオリスを優しくなで、中国では若いウンナンシシバナザルが飼育されたブタと遊んでいました。
【実際にサルが他種の動物たちと交流している画像がこちら】
さらにブラジルでは、野生のフサオマキザルの群れがマーモセットの赤ちゃんを受け入れ、少なくとも10カ月にわたって世話をした事例も報告されています。
行動別では、遊びが139件、毛づくろいが136件で、どちらも特に多く確認されました。
幼い霊長類は別種の動物と遊ぶことが多く、大人のメスでは毛づくろいが多い傾向がありました。
一方、記録されたデータの統計分析では、大人のオスは大人のメスよりも友好的な異種間交流を示す可能性が低いという結果でした。
「ペット」そのものではないが、必要な土台はあった
ただし研究者たちは、これらを人間と同じ意味でのペット飼育と呼ぶことには慎重です。
人間のペット飼育には、特定の動物との長期的な関係や、継続的な世話などが伴います。
これに対して、今回集められた事例の多くは一時的であり、サルが相手を「自分のペット」と認識していたかどうかも分かりません。
またチームは当初、霊長類が赤ちゃんの動物を特に好むと予想していました。
しかし実際には、友好的な交流が幼い個体に偏る傾向は確認されませんでした。
つまり異種への親しみは、単に「赤ちゃんがかわいい」という反応だけでは説明できず、相手との行動の相性、互いの寛容さ、社会的な好奇心などが重要なのかもしれません。
【子犬を抱き抱えるサルの画像がこちら】
一方で、すべての交流が優しいものだったわけではありません。
好奇心や世話らしい行動が乱暴な扱いに変わり、相手の動物が死亡した事例も13件ありました。
異種の動物に関心を持つことと、相手の安全や気持ちを正しく理解できることは、別の能力なのです。
この研究が発見したのは、「サルも人間と同じようにペットを飼う」という完成された習慣ではありません。
むしろ、別種に近づく好奇心、相手を受け入れる寛容さ、一緒に遊ぶ能力、そして世話をする傾向といった、ペットとの関係に必要な「心の土台」です。
人類は進化の途中で突然動物を愛し始めたのではなく、祖先から受け継いだ社会性を少しずつ種の境界の外へ広げ、その先に現在のペット文化を築いたのかもしれません。
ただし今回のデータには、珍しく人目を引く事例ほど記録されやすいという偏りがあります。
今後、長期的な野外調査で異種間交流を体系的に記録できれば、私たちが動物を友人や家族として迎えるようになった進化の道筋が、さらに鮮明になるでしょう。
参考文献
Monkey friendships with dogs, deer, and pigs offer clues to the evolutionary origins of pet-keeping
https://www.ox.ac.uk/news/2026-07-29-monkey-friendships-with-dogs-deer-and-pigs-offer-clues-to-the-evolutionary-origins
Monkeys sometimes have ‘pets’ like humans
https://www.popsci.com/environment/monkeys-have-pets-evolution/
元論文
Heterospecific social behavior in primates: insights into the evolutionary roots of pet-keeping
https://doi.org/10.1007/s10329-026-01281-0
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

