
恋人との関係に大きな問題があるわけではないのに、なぜか安心できず、満足感を得られない人がいます。
その背景には、現在のパートナーとの出来事だけでなく、幼少期に親から受けた心理的虐待が関係しているかもしれません。
トルコのネクメッティン・エルバカン大学(NEU:Necmettin Erbakan University)のYakup İme氏による研究では、子ども時代に心理的虐待を受けたと報告した人ほど、大人になってからの「自分は周囲に受け入れられている」という所属感が弱く、恋愛満足度も低い傾向が示されました。
研究成果は2026年2月24日付で学術誌『Personality and Individual Differences』に掲載されています。
目次
- 幼少期の心理的虐待と大人の恋愛満足度との関係は?
- 「自分には居場所がある」という感覚が恋愛満足度を支えていた
幼少期の心理的虐待と大人の恋愛満足度との関係は?
心理的虐待とは、親や養育者が子どもを繰り返し見下したり、厳しく批判したり、人前で意図的に恥をかかせたりすることです。
感情を無視することや、拒絶的な態度を取り続けることも含まれます。
もちろん、一度叱られた経験や、一時的な親子げんかを指すのではありません。
否定や拒絶が繰り返され、子どもが「自分には大切にされる価値がない」「親しい人も信用できない」と感じかねない養育環境が問題になるのです。
そして子どもは、最も身近な養育者との関係を通じて、人は信頼できるのか、自分の気持ちを伝えてもよいのかを学びます。
そのため、幼少期に繰り返し否定された経験は、大人になってから人との親密さや安心感を築く難しさと関係する可能性があります。
つまり、幼少期の心理的虐待の影響は、大人になっても続くのです。
今回、İme氏が特に注目したのが「所属感」です。
所属感とは、恋人に愛されている感覚だけではなく、友人や仲間を含む周囲の人々から受け入れられ、社会の中に自分の居場所があるという感覚を指します。
調査には、トルコ・コンヤの大学に通う20~36歳の成人346人が参加し、女性213人、男性133人で、平均年齢は約25歳でした。
参加者は2025年2月と5月の2回、幼少期の心理的虐待経験、現在の所属感、恋愛関係への満足度を測る質問票に回答しました。
研究者は、第1回調査時点の回答を考慮しながら、それぞれの要因が3カ月後の回答とどのように結びつくかを分析しています。
その結果、幼少期の心理的虐待を多く報告した人ほど所属感が低く、所属感が低い人ほど、3カ月後の恋愛満足度も低い傾向が示されました。
より詳しい結果を次項で見ていきましょう。
「自分には居場所がある」という感覚が恋愛満足度を支えていた
分析では、幼少期の心理的虐待と成人後の恋愛満足度との関連において、所属感が統計的な媒介要因になることが示されました。
簡単に言えば、心理的虐待を多く報告した人ほど所属感が弱く、その所属感の弱さを経由して、恋愛満足度の低さと結びついていたのです。
これは、心理的虐待を受けた人が恋愛に向いていないという意味ではありません。
親から繰り返し否定された経験があると、「自分は人から受け入れられない」「親しくなれば傷つけられる」といった見方を持ちやすくなる可能性があります。
そのため、恋愛関係でも拒絶への不安を抱き、相手との間に安心感を持ちにくくなることが考えられます。
また、友人や周囲とのつながりが弱ければ、安心感や承認を一人の恋人に強く求めることになり、関係への負担が増す可能性もあります。
とはいえ、この研究にも限界はあります。
同じ人を2回調べた縦断研究ですが、心理的虐待が恋愛満足度を直接低下させたと証明したわけではありません。
また幼少期の経験を含むすべてのデータは本人の自己申告であり、記憶や主観、社会的に望ましく見せようとする回答の影響を受けた可能性があります。
追跡期間は3カ月と短く、対象者もトルコの1大学に通う若い成人に限られていました。
それでも、幼少期の経験と現在の恋愛との間に「所属感」という経路が示された点には意味があります。
過去の経験そのものは変えられなくても、現在の人間関係の中で「自分は受け入れられている」と感じられるつながりを育てることが、今後の支援を考える手がかりになるかもしれません。
参考文献
Childhood emotional abuse predicts lower romantic relationship satisfaction
https://www.psypost.org/childhood-emotional-abuse-predicts-lower-romantic-relationship-satisfaction/
元論文
How early psychological abuse predicts decreased relationship satisfaction via belongingness in adulthood: A longitudinal study
https://doi.org/10.1016/j.paid.2026.113744
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

