
片頭痛は、発作が治まれば脳も元通りになる「一時的な頭痛」なのでしょうか。
台湾の国立陽明交通大学(NYCU)などの研究チームが片頭痛患者のMRIを解析したところ、脳の灰白質に、健康な同年代よりも高齢に見えるパターンが確認されました。
変化は脳全体に一様に現れたのではなく、記憶や感情、注意、痛みの調節などに関わる領域を含む66領域に広がっていました。
研究成果は、2026年3月28日付で学術誌『Brain Communications』に掲載されています。
目次
- 片頭痛患者の「脳年齢」を推定し、442の領域を調査
- 慢性片頭痛で脳の老化が目立ち、認知や感情に関わる領域で変化が見られた
片頭痛患者の「脳年齢」を推定し、442の領域を調査
片頭痛は、強い頭痛だけでなく、吐き気や光・音への過敏、視覚の異常、気分の変化、頭がぼんやりするといった症状を伴う神経疾患です。
過去の研究では、慢性片頭痛の患者で、MRIから推定した「脳年齢」が高くなる可能性が報告されていました。
しかし、その変化が脳全体に広がるのか、それとも特定の場所に集中するのかは、十分に分かっていませんでした。
ちなみに脳年齢とは、多数の健康な人のMRI画像を基準にして、ある人の脳が何歳くらいの特徴に見えるかを機械学習で推定した値です。
人間の脳では、加齢とともに神経細胞の本体が多く集まる灰白質の体積や分布が変わるため、その特徴を年齢の手がかりとして利用できます。
推定された脳年齢から実年齢を引いた差は「脳年齢ギャップ」と呼ばれ、この値が大きいほど、MRI上では実年齢より高齢の脳に近い特徴を示します。
今回、研究チームは、台湾の5施設で集めた20~92歳の健康な1318人のMRI画像を使い、脳年齢を推定するモデルを作りました。
さらに脳を、大脳皮質400領域、皮質下14領域、小脳28領域の合計442領域に分け、脳全体だけでなく各領域についても年齢を推定できるようにしました。
次に、受診前の少なくとも3カ月間は片頭痛の予防薬を使用していなかった20~60歳の片頭痛患者110人と、健康な対照群70人のMRIを比較しました。
片頭痛患者の内訳は、反復性片頭痛が71人、慢性片頭痛が39人です。
そして年齢、性別、頭蓋内の大きさ、MRIの撮影方法などの影響を調整した結果、片頭痛群では対照群より、脳全体の脳年齢ギャップが平均4.24年高くなっていました。
また、442領域のうち66領域でも、片頭痛群の脳年齢ギャップが高いことが確認されました。
では、変化は脳のどこに集中し、片頭痛の症状とどのように関係していたのでしょうか。
より詳細な結果は次項で見ていきます。
慢性片頭痛で脳の老化が目立ち、認知や感情に関わる領域で変化が見られた
脳年齢ギャップが高かった66領域は、前頭前野、前頭皮質、帯状皮質、頭頂皮質、側頭皮質、運動野、体性感覚野、聴覚・視覚の連合野、扁桃体などに分布していました。
これらは、痛みを感じる働きだけでなく、感覚情報をまとめる、痛みに注意を向ける、反応を抑える、感情を調節するといった働きに関係する場所です。
一方、片頭痛群で対照群より脳年齢ギャップが低かった領域はありませんでした。
そして脳全体の違いは、特に慢性片頭痛の患者で目立ちました。
慢性片頭痛群は、健康な対照群だけでなく反復性片頭痛群よりも脳年齢ギャップが高かった一方、反復性片頭痛群と対照群の間には明確な差がなかったのです。
ただし、片頭痛群と対照群の数値は大きく重なっており、「片頭痛患者の脳は必ず4.24年老けている」という意味ではありません。
脳全体の差も統計的には有意水準の境界付近の結果であり、脳年齢は現時点で個人の診断に使える指標ではありません。
研究チームはさらに、変化した66領域を、過去の脳画像研究を集めたデータベースと照合しました。
その結果、これらの領域のまとまりは、注意、作業記憶、言語、推論、社会的認知、聴覚処理、行動の抑制、感情などに関わる領域と重なっていました。
しかし、今回の参加者に記憶力や注意力の検査をしたわけではないため、片頭痛患者の認知能力が実際に低下していたとは断言できません。
そして症状との関係は単純ではありませんでした。
頭痛の頻度、鎮痛薬を使った日数、抑うつ症状などを一つずつ調べた場合、局所的な脳年齢との明確な関係は確認されませんでした。
一方、これらを組み合わせた臨床的な負担全体は、66領域の脳年齢パターンと関連していました。
ただし、どの要因がどの程度影響したのかは安定しておらず、鎮痛薬や抑うつ症状のどれか一つが脳年齢を高めたとは判断できません。
研究者らは、局所的な脳年齢の違いが一つの要因だけでは説明しにくく、繰り返す頭痛や薬の使用、心理的負担などが重なった状態と関係している可能性を指摘しています。
また、痛みや感覚刺激を繰り返し処理することで、関連する脳ネットワークに神経可塑的な変化が生じた可能性も考えられますが、今回の研究だけではその仕組みまでは証明できません。
この研究は一時点のMRIを比較した横断研究であるため、片頭痛が脳年齢を高めたのか、もともとの脳構造の違いが片頭痛のなりやすさに関係していたのかは不明です。
それでも今回の結果は、片頭痛が発作中の痛みだけにとどまらず、痛み・感覚・認知・感情を支える広い脳ネットワークと関係する可能性を示しています。
参考文献
Migraines are linked to accelerated brain aging in regions tied to memory and emotion
https://www.psypost.org/migraines-are-linked-to-accelerated-brain-aging-in-regions-tied-to-memory-and-em/
元論文
Accelerated brain ageing in migraine: a multilevel MRI-based brain-age modelling study
https://doi.org/10.1093/braincomms/fcag110
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

