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毎日30分のルーティンが認知機能の低下を予防する

毎日30分のルーティンが認知機能の低下を予防する

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

「最近、人の名前がすぐに出てこない」「何をしようとしていたのか忘れてしまう」

こうした経験は、誰しも年齢とともに増えていきます。

この変化は自然な加齢の範囲で起こるものですが、場合によっては、認知症の前段階とされる軽度認知障害へ進む可能性もあります。

では、特別な機器や高価な教材を使わず、日常的な習慣だけで脳の働きを維持することはできるのでしょうか。

米ジョージ・メイソン大学(GMU)の研究チームは、音読、手書き、簡単な計算を毎日10分ずつ行う「StrongerMemoryプログラム」の効果を調査。

その結果、12週間にわたって1日30分のルーティンを続けた高齢者では、認知機能のスコアが向上していたのです。

研究の詳細は、2025年7月10日付で学術誌『Educational Gerontology』に掲載されました。

目次

  • 「音読・手書き・計算」を毎日10分ずつ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部
  • 認知スコアが向上、さらに居住環境にも関係が

「音読・手書き・計算」を毎日10分ずつ
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

人間の記憶力や注意力、言語能力は、年齢とともに少しずつ低下する傾向があります。

しかし、脳の働きは年齢だけで一律に決まるわけではありません。

日常的に頭を使う習慣を続けている人ほど、加齢や脳の変化が起きても認知機能を保ちやすいとする「認知予備力」という考え方があります。

脳を積極的に使うことで、機能的なつながりが形成・再編成され、加齢による影響に耐える余力が生まれる可能性があるのです。

そこで研究チームが注目したのが、複数の能力を同時に使う「StrongerMemoryプログラム」でした。

研究には、59歳以上の男女102人が参加。

参加者はいずれも、自分の記憶力が以前より低下していると感じていましたが、認知症の正式な診断は受けていませんでした。

参加者は12週間にわたり、毎日10分間の音読、10分間の手書き、10分間の簡単な計算に取り組みました。

読む文章や本、手書きする内容は自由に選べたため、自分の興味に合わせて続けられる仕組みになっていました。

一見すると、どれも特別な脳トレには見えません。

しかし音読では、文字を目で追うだけでなく、声を出し、その音を自分の耳で聞く必要があります。

そのため、黙読よりも視覚、発声、聴覚、注意力を同時に使います。

手書きでは文章を考えるだけでなく、指先を細かく動かしながら文字の形を作らなければなりません。

簡単な計算も、数字を認識し、ルールに従って答えを導き出すため、集中力や論理的思考を必要とします。

つまり、この30分間には、記憶、注意、言語、運動、問題解決など、異なる脳の働きを組み合わせる狙いがあったのです。

参加者は基本的に自分の予定に合わせて課題を行いましたが、継続を支援するため、週に1回のグループ確認会にも参加しました。

認知スコアが向上、さらに居住環境にも関係が

チームはプログラムの前後に、15点満点の認知テストを実施しました。

ここでは、覚えた情報を後から思い出す記憶再生、言葉を生み出す能力、時間や場所を把握する見当識などを調べています。

その結果、参加者の平均得点は、プログラム開始前の12.73点から、12週間後には13.26点へ上昇していたのです。。

改善幅はそこまで大きくはないものの、統計的には有意な変化でした。

とくに、改善の大部分を占めていたのは、覚えた情報を後から思い出す「記憶再生」の項目でした。

記憶再生の平均得点は3.44点から3.92点へ上昇していました。

また参加者へのアンケートでも、1年前と比べて自分の記憶力を良く評価する傾向が見られました。

チームはさらに、参加者の居住環境によって結果が異なるかも調査。

その結果、自宅や地域社会で自立して生活している人は、継続的な介護や生活支援を提供する高齢者居住施設で暮らす人よりも、介入後の認知機能得点が高い傾向にありました。

チームは、自立した生活では、買い物、家事、予定管理、移動などを通して、日常的に判断や問題解決を行う機会が多いことが関係している可能性を指摘しています。

日常生活そのものが脳を刺激する環境では、30分間の課題による影響も現れやすかったのかもしれません。

ただし、この違いから「施設で暮らすと認知機能が低下する」と結論づけることはできません。

居住環境は無作為に決められたものではなく、施設の入居者と地域で暮らす人では、健康状態や身体機能、生活上の自立度などがもともと異なる可能性があるからです。

現段階では課題も

今回の研究には、注意点もあります。

この研究では、何も行わない対照群や、別の活動を行う比較対象のグループが設けられていませんでした。

そのため、得点の上昇が音読、手書き、計算によるものなのか、完全な確証が持てません。

また、検査の得点がわずかに上昇したからといって、予定を忘れにくくなったり、家計の管理が上手になったりするとは限りません。

日常生活に必要な認知能力は複雑であり、短いスクリーニング検査だけでは、そのすべてを評価できないのです。

それでも、音読、手書き、簡単な計算は、特別な機器を必要とせず、費用もほとんどかかりません。

自分の好きな本や書きたい内容を選べるため、一般的な脳トレよりも生活に取り入れやすいという利点もあります。

今回の研究だけで、毎日30分のルーティンが認知症を予防したり、認知機能の低下を確実に遅らせたりすると断定することはできません。

しかし、異なる種類の課題を組み合わせて脳を使う習慣が、記憶力を維持するための手軽な方法になる可能性は示されました。

重要なのは、難しい問題に挑戦して脳を疲れさせることではなく、音読し、手を動かし、少し考える時間を毎日の生活に作ることなのかもしれません。

参考文献

A simple 30-minute daily routine may help slow cognitive decline
https://www.psypost.org/a-simple-30-minute-daily-routine-may-help-slow-cognitive-decline/

元論文

Can brain exercises mitigate cognitive decline? A quasi-experimental evaluation of the StrongerMemory program
https://doi.org/10.1080/03601277.2025.2528677

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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