白い車の横で野菜を並べていた男性のもとへ、小型のドローンがゆっくりと近づいてきた。男性は武器を持っておらず、軍服も着ていない。機体に気づいた瞬間、車を盾にするように反対側へ回り込む。だがドローンも向きを変え、追いかけてきた。車の前へ、横へ、男性が動くたびに機体が回り込んでくる。そして距離が詰まった瞬間、ドローンの画面が激しく揺れ、爆発した。
ウクライナ警察によると、攻撃があったのは8月4日、南部ヘルソン市の市場だった。ウクライナ当局は、ロシア軍の小型攻撃ドローンが52歳の野菜売りユーリーを追跡したとする映像を公開した。ロイター通信は建物や道路の配置から、撮影場所をヘルソン市と確認している。ユーリーは爆発と破片による負傷などで治療を受け、一命は取り留めた。
機体の種類は公表されていないが、戦場で広く使われているのが「FPVドローン」だ。FPVは「First Person View」の略で、搭載カメラの映像を操縦者がリアルタイムで見ながら飛ばす方式である。標的の動きに合わせて進路を変えられ、ドローンがユーリーを追うように向きを変えたのは、この仕組みによるものとみられる。
ウクライナ当局は、民間人を意図的に狙った戦争犯罪だと非難した。ウクライナ警察は、男性に戦闘員である兆候はなく、市場で商売をしていただけだと説明している。国連ウクライナ人権監視団も、前線付近の短距離ドローンにはカメラがあり、操縦者が民間人と軍事目標を見分けられるはずだと指摘している。
軍事侵攻開始以降「最多の民間人死傷者」を出した
そのドローンが今、民間人の日常を脅かしていることは、国連の報告で明らかだ。2026年6月だけで短距離ドローンにより民間人89人が死亡、588人が負傷した。全面侵攻開始以降、月単位で最多の数字である。
技術の進化も止まらない。電波で操縦するドローンは妨害を受けるため、ウクライナ国防省は2026年、光ファイバーで映像と操作信号を送る、攻撃距離30キロ超のFPVドローンを戦力化したと発表した。
対空分野では人間が敵の無人機を選び、迎撃を命じた後、AIが誘導・識別・追跡から攻撃までを自動で行うシステムが、実戦試験を終えている。人間は攻撃を途中で中止できるが、機体を最後まで操縦する必要はない。ドローン同士の戦いではすでに、迎撃工程の大部分をマシーンに任せる段階へ入っている。
かつての空襲には、爆弾がどこに落ちるか分からない恐怖があった。だが、今は違う。逃げる一人を見つけ、向きを変え、追いかける。あの映像の向こう側には、ユーリーの動きを画面越しに見ていた操縦者がいたはずだ。ヘルソンの路上で露天商が追われた数十秒は、これからの戦争で一般庶民が直面する現実の始まりかもしれない。
(ケン高田)

