
アラスカの草むらに、まるで雪をまとったような子グマが現れました。
米国アラスカ州のカトマイ国立公園で配信されているライブカメラに、白銀色の毛をしたヒグマの子どもが映り込んだのです。
子グマは草の上に座り、小さくあくびをする姿を見せました。
カメラを運営するExplore.orgは「これまでカトマイで確認された中でも、特に個性的な外見をした子グマの1頭だ」と紹介しています。
しかし、この子グマはホッキョクグマとの交雑個体ではないと考えられています。
では、なぜ一般的な茶色とは大きく異なる毛色をしているのでしょうか。
目次
- 白銀色の毛は遺伝による可能性が高い
- サケの楽園で生きる子グマたちの厳しい現実
白銀色の毛は遺伝による可能性が高い
今回確認されたのは、ヒグマ(Ursus arctos)の子どもです。
公園のレンジャーによると、生後約6カ月とみられ、その年の春に生まれた子グマに当たります。
この子グマが最初に確認されたのは6月23日で、ブルックス川の下流域を母親の「クマ677」とともに歩いていました。
677は2024年にライブカメラへ姿を見せ、2025年に正式な観察対象として記録された個体です。
普段はほかのクマから距離を置くことが多く、7月上旬にはブルックス川の対岸で魚を捕る姿も目撃されています。
白銀色の子グマが注目を集めると、一部ではホッキョクグマとハイイログマの交雑個体である「ピズリー」ではないかとの声も上がりました。
しかし、公園側は、その見方を支持する証拠はないとしています。
カトマイ国立公園はホッキョクグマが移動してくるには南にありすぎるうえ、カトマイのヒグマが交雑可能なほど北方まで移動したことを示す証拠もないためです。
レンジャーは、珍しい毛色の原因として遺伝を挙げています。
カトマイのヒグマには濃い茶色だけでなく、金色に近い個体など、もともと幅広い毛色が見られます。
過去にも銀色がかった子グマが確認されていることから、今回の子も地域集団が持つ毛色の多様性を受け継いだ可能性が高いのです。
また、公園側は、この毛色によって子グマの危険が増すとは考えていません。
クマは、ほかの一部の動物のように体毛を周囲へ溶け込むための迷彩として利用するわけではないためです。
サケの楽園で生きる子グマたちの厳しい現実
ブルックス川とブルックス滝は、カトマイのヒグマがサケを求めて集まる場所として知られています。
6月下旬にサケの遡上が始まると、クマたちは滝へ戻り、長い冬に備えて大量の魚を食べます。
夏の終わりにサケが産卵を終えて弱り始めると、クマたちは9月から10月にかけて川の下流へ移り、河口付近の死んだサケや弱ったサケを食べます。
活動が盛んになるのは主に7月と9月で、成獣は1日に約54キロものサケを食べることがあります。
サケが豊富なら1日に約450グラムずつ体重を増やし、成獣のオスでは夏の初めに約318キロだった体重が、秋には約544キロを超えることもあります。
豊かな餌場は子グマにとっても重要ですが、そこが安全な場所とは限りません。
カトマイ国立公園でのライブ配信映像はこちら。
今回のライブ配信では、血縁関係のない成獣のメスに子グマが襲われ、死亡する出来事が相次いで確認されました。
7月28日にはクマ909の子どもがクマ806に殺され、8月2日にはクマ335の子どもが、別の母グマに襲われて命を落としています。
公園の生物学者は、春に生まれた子グマが生き残る割合を33〜50%程度と見積もっています。
白銀色の子グマの姿は愛らしく、珍しい毛並みも人目を引きます。
しかし、その背景には、十分な餌を確保し、ほかのクマとの衝突を避けながら成長しなければならない野生の厳しさがあります。
今回見つかった子グマがどのように成長し、毛色が成獣になっても残るのかはまだ分かりません。
ライブカメラは、特別な外見を持つ1頭の成長とともに、野生動物の美しさと過酷さの両方を映し続けることになります。
参考文献
Silver cub spotted on Katmai Bear Cam
https://www.popsci.com/environment/silver-cub-spotted-katmai-bear-cam-alaska/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

