どこの国にも、ファンから圧倒的な支持を集める選手がいる一方で、実力は申し分ないにもかかわらず、なぜか人気が伸びない選手もいる。
海外の選手であれば、プレー内容だけで好き嫌いが分かれることが多い。しかし、自国のスターともなれば、人柄や私生活まで日常的に報じられるため、ファンはプレーヤーとしてだけでなく、一人の人間としても評価を下す。
ブラジルのフットボール史を振り返れば、国民的人気を誇ったのはペレ、ガリンシャ、ロマーリオ、ロナウジーニョ、そしてネイマールあたりだろう。
一方で、名手でありながら爆発的な人気には至らなかった選手として、リバウド、カカ、そしてヴィニシウスの名前が挙がる。
ペレが愛された理由は説明するまでもない。史上最高の選手の一人としてブラジルの誇りとなり、恋多き人生を送りながらも大きなスキャンダルとは無縁だった。
ガリンシャは超絶技巧を誇る右ウイング。執拗に縦突破を仕掛け続ける姿はコミカルでもあり、「大衆の喜び」と称された。
ロマーリオはとにかく勝負強かった。自己中心的で周囲との軋轢も絶えなかったが、ブラジル人は優等生より、どこかアウトロー的な魅力を持つ選手を好む傾向がある。
ロナウジーニョは、シャペウや空中エラシコ、背中トラップなど、誰も思いつかないようなプレーを次々に披露し、人々を魅了した。
ネイマールもまた、卓越したテクニックと創造性に加え、陽気で茶目っ気のあるキャラクターが愛された。
その一方で、リバウドは卓越した技術を備えながら、素朴な風貌と寡黙な性格もあって、国民的人気という点ではやや物足りなかった。
カカも世界最高峰のMFだったが、裕福な家庭に育った「良家のおぼっちゃん」というイメージがつきまとった。端正な容姿で女性人気は高かったものの、そのことが男性ファンの反感や嫉妬を招いた面もあった。
そして、ヴィニシウスである。
貧しい家庭で育ち、名門フラメンゴで頭角を現わすと、18歳でレアル・マドリーへ移籍。当初は決定力不足を指摘されたが、自費でトレーナーや栄養士、専属コックを雇い、努力を積み重ねて世界屈指のアタッカーへと成長した。
この経歴と実績を考えれば、国民的英雄となっていても不思議ではない。しかし、現実はそうなっていない。先のワールドカップでもグループステージで4得点を挙げたにもかかわらず、人気が爆発的に高まることはなかった。
理由の一つは、そのプレースタイルにあるのだろう。スピードとパワーを武器とし、技術も申し分ないが、ロナウジーニョやネイマールのように、観客を驚嘆させる創造性を前面に押し出すタイプではない。加えて、性格も比較的寡黙で、ネイマールのような華やかさは感じさせない。
人種差別反対の活動を続ける姿勢は国内メディアから高く評価されている。しかし、そのことが一般大衆からの圧倒的な支持へと結び付いているわけでもない。
筆者は、こうした評価は決して公平ではないと思っている。それでも、国ごとに「愛されるスター像」が存在するのも事実だ。ヴィニシウスは、少なくとも現時点ではブラジル人が最も好むタイプのスターではないのだろう。
もっとも、この評価が一変する可能性はある。ワールドカップで圧倒的な活躍を見せ、セレソンを世界一へ導いた時だ。
メッシも現在ではアルゼンチンの英雄だが、ワールドカップやコパ・アメリカで優勝を逃し続けていた時代には、国内で激しい批判を浴びていた。
ヴィニシウスは、ワールドカップ制覇を果たせずキャリア晩年を迎えたネイマールの道を歩むのか。それとも、悲願の世界一によって国民的英雄となったメッシと同じ道をたどるのか。その答えが明らかになるのは、4年後である。
文●沢田啓明
【著者プロフィール】
1986年にブラジル・サンパウロへ移り住み、以後、ブラジルと南米のフットボールを追い続けている。日本のフットボール専門誌、スポーツ紙、一般紙、ウェブサイトなどに寄稿しており、著書に『マラカナンの悲劇』、『情熱のブラジルサッカー』などがある。1955年、山口県出身。
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