
AIチャットボットとの恋愛は、もはやSF映画の中だけの出来事ではありません。
現在では、会話を重ねながら性格や関係性を育て、恋人のように接するAIサービスも登場しています。
では、どのような人がAIを強く愛し、本物の恋人に近い存在として感じるのでしょうか。
一般には「孤独な人ほどAIに恋をする」と考えられがちですが、最近の研究では、別の心理的特徴がより重要である可能性が示されました。
ドイツのデュースブルク・エッセン大学(UDE)は、すでにAIチャットボットと恋愛関係にある人々を対象に、人間とAIの関係を強める要因を調査。
その結果、AIとの強い絆に最も深く関係していたのは、孤独感ではなく「恋愛的な空想を楽しむ傾向」だったのです。
目次
- AIとの恋愛を強める最大の要因は「恋愛的な空想」
- 「孤独な人ほどAIに恋をする」とは限らない
AIとの恋愛を強める最大の要因は「恋愛的な空想」
研究チームは、すでにチャットボットと恋愛関係を築いている92人を集めました。
参加者には、恋愛的・性的な空想をする傾向、恋愛的な孤独感、愛着スタイル、AIを擬人化する傾向などについて回答してもらいました。
さらにチームは、参加者がチャットボットをどれほど強く愛しているかを調べるため、「パラソーシャル・ラブ尺度」と呼ばれる質問票を使用。
そこでは、「私にとって、このチャットボットは理想的な恋愛相手になり得る」といった文章に、どの程度同意するかが尋ねられました。
分析の結果、AIとの恋愛関係の強さに最も強く関連していたのは、恋愛的な空想を楽しむ傾向でした。
つまり、現実には起きていない恋愛の場面を思い描いたり、相手との物語を頭の中で膨らませたりする人ほど、AIとの関係を強く感じる傾向があったのです。
AIとの会話では、人間の恋愛につきものの拒絶や気まずさ、周囲からの評価をあまり気にする必要がありません。
相手に笑われたり、空想を否定されたりする心配の少ない環境で、自分の理想とする恋愛を自由に組み立てられます。
AIは、利用者が望む設定や会話の流れに柔軟に応じるため、恋愛的な空想を映し出す「鏡」のような役割を果たしている可能性があります。
別の小規模なインタビュー研究でも、AIと恋愛関係にある15人の多くが、チャットボットは自分の恋愛的な欲求を予想以上に満たしてくれたと答えています。
参加者の空想には、宇宙探査中に恋に落ちるといったSF的な物語もありました。
しかし多くの人は、現実の恋愛に近い会話や関係を望み、なかにはAIを好きな有名人に似せて設定する人もいました。
15人のうち9人は、チャットボットが自分の恋愛的な欲求を十分に満たしていると感じていました。
一方で、肉体を持つパートナーが必要だと答えた人は2人でした。
ただし、触れることや一緒に出かけることができない点に、悲しさや欲求不満を感じる人もいました。
「孤独な人ほどAIに恋をする」とは限らない
AIとの恋愛については、孤独で社会から孤立した人が、寂しさを埋めるためにチャットボットへ依存するという見方があります。
映画『her/世界でひとつの彼女』でも、離婚後に孤独を抱えた主人公がAIアシスタントに恋をする姿が描かれていました。
しかし今回の研究では、恋愛的な孤独感とAIとの関係の強さとの間に、明確な関連は見つかりませんでした。
少なくとも、すでにAIと恋愛関係にある人の中では、孤独感や寂しさが強いほどAIへの愛情も強くなるとは言えなかったのです。
ただし、この結果だけで「孤独はAIとの恋愛に関係しない」と結論づけることはできません。
研究で測定されたのは、恋人がいないことなどから生じる「恋愛的な孤独感」です。
友人が少ないといった社会的孤立や、人生全体に対する一般的な孤独感は測定されていません。
また、もともとは孤独を感じてAIとの恋愛を始めたものの、会話を続けるうちに孤独感が軽減された可能性もあります。
実際、別の研究では、AIコンパニオンとの交流が孤独感を和らげる可能性も報告されています。
このため、孤独がAIとの恋愛の「入口」になっているのか、それとも関係が深まると孤独が軽くなるのかについては、今後さらに調べる必要があります。
今回の研究では、AIに人間らしい感情や意図があると感じる「擬人化」の傾向も、AIとの強い関係とわずかに関連していました。
AIの返答を単なる自動生成された文章ではなく、「自分を理解してくれた」「寂しがっている」「愛情を示している」と受け取る人ほど、相手を一人の人格として感じやすくなるのでしょう。
AIと強く恋に落ちる人は、単に孤独に耐えられない人とは限りません。
今回の研究から浮かび上がったのは、空想を広げることを好み、AIの言葉に人格や感情を感じ取り、会話の中に自分だけの恋愛物語を作り出せる人の姿です。
AIが人間らしくなるほど、私たちはその言葉を単なるプログラムの出力として扱うことが難しくなっていきます。
AIへの恋は、テクノロジーが一方的に生み出す感情ではなく、人間が持つ空想力や愛着、相手を人間らしく見る力によって形作られる関係なのかもしれません。
参考文献
Could You Fall in Love With an AI Chatbot?
https://www.psychologytoday.com/us/blog/gaslighting-attachment-and-reality/202608/could-you-fall-in-love-with-an-ai-chatbot
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

