
第76回ベルリン国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、世界中から熱い視線を浴びている映画「チルド」。コンビニエンスストアを舞台に、“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”という現代の闇を描き出し、日本映画界に新たな衝撃をもたらしている。
本作は、東京の片隅にあるコンビニを舞台に、小さな社会で起きたわずかな歪みをきっかけに世界が終わりへと向かっていく様を描いた“コンビニエンス・ホラー”。本作のキャッチコピー「生きながら、死んでいる」を主演の染谷将太が見事に体現したほか、劇中では停滞した世界に「違和」を投げかける小河を唐田えりか、人の不幸を笑う癖の強い室田をくるま(令和ロマン)がそれぞれ演じている。
撮影期間わずか1週間という極めてタイトな現場で、彼らはどのように作品と向き合ったのか。撮影の裏側や、役作りを通じて感じた本作の持つ“不穏な魅力”について、唐田えりかとくるまの二人に語ってもらった。

■ホラー撮影の裏は夏祭り、唐田えりか「楽しかった」
――本作は、一読では結末が予測できない、非常にユニークな脚本でした。実際に役作りをしていく中で、この世界観をどう捉えられましたか?
くるま:岩崎監督とも話していたのですが、脚本の段階では最終的にどういう映像になるのか、全く予想がつきませんでした。僕の場合は監督の中に「こういうバイトの先輩です」という室田の具体的なイメージがあったので、自分のバイト時代の記憶を掘り起こしながらすり合わせる感じでしたね。「ああ、あの時の先輩の喋り方だ!」と腑に落ちた瞬間、ホラー映画という特殊な世界観を意識せずともスッと役に入れました。
唐田:私も同じで、脚本を読んで展開は知っていても、完成した映像を観て「あ、こういうことだったんだ」と驚くことが多かったです。完成してから「あ、これはホラーだったんだ」と気づいたくらい(笑)。現場では、染谷(将太)さんや西村(まさ彦)さんが演じるキャラクターとどう向き合うか、という目の前の対人関係に必死でした。未だに言語化が難しい作品ですね。
――演じる上で「難しさ」は感じませんでしたか?
唐田:意見を持って行動する小河という役柄は、自分とリンクする部分が多く、そこを大きく広げていく感覚で演じました。なので、やりづらさはあまりなかったです。
くるま:僕は「成立させる」ことに集中していましたね。お笑いもそうですが、求められているキャラクターをしっかり全うする、という作業です。
――ベルリン国際映画祭での評価も高い本作ですが、今改めて感じる魅力とは?
くるま:観る人のその日の体調で解釈が変わる、という点じゃないでしょうか。現代日本人の抱える「弱さ」というコアを捉えつつ、演出はすごく自由。そのバランスが面白いんだと思います。
唐田:私は脚本の段階から「面白い」と確信していました。コンビニという日常的な風景が、システム化されることで「人が働いているのに人を感じない」場所になっていく。その不気味さと、岩崎監督特有のホラーとコミカルさが同居しているところが好きですね。
――撮影現場の雰囲気はいかがでしたか?
くるま:日数自体は超タイトでしたね!実際のコンビニを改装して撮影したのですが、例えるならみんな近くの学童保育所に待機していて、呼ばれたら現場に行って撮る、という「バイトの交代制」みたいな感覚でした(笑)。ただ、CM出身の監督ということもあり、チームの連携が良く非常に効率的で。指示も明確だったので、次々に撮影が進むのがすごく気持ちよかったです。
唐田:確かにそうでしたね。呼ばれて行って、また戻って(笑)。でも、暑い夏場だったので、プロデューサーさんが本格的な業務用かき氷機を持ってきてくださって。みんなでかき氷を食べたり、プールのような桶にお菓子やジュースを浮かべたりした時間は、本当の夏祭りみたいで楽しかったです。

■次に演じたいのは「喋らない役」!?止まらない二人の創作意欲
――日常の中で、社会の「システム」や「縛り」といった圧を感じることはありますか?
唐田:撮影現場だと、時間に追われて「セリフを噛んではいけない」という圧を感じることはありますね。私は周りの雰囲気を察してしまうタイプなので、気にしすぎないように頑張っていますが……やはりシステムの中にいる感覚はあります。
くるま:僕は逆に、縛られている感覚はあまりないですね。もちろん、自分が社会システムの一部であるという自覚はあります。でも、今はシステムが作り出したエンタメや素敵なものがあふれているじゃないですか。管理された社会だからこそ綺麗なビーチがあるわけで、放っておいたら荒れてしまう世界をシステムが維持してくれている、という側面もありますよね。
そう考えると、システムは豊かさも作ってくれているわけで、ひたすらラッキーだな、ありがたいなと思って生きています。コンビニへ行くときも、揚げ物のポップを見て「誰が書いたんだろう?」と想像したり、「ノルマがあるのかな?」と考えたりする時間すら、創作物を見るような感覚でワクワクするんですよね。
――唐田さんは夢に向かって努力する小河を演じましたが、いま思い描いていることはありますか?
唐田:役者としてこうなりたい、というよりは、自分の人生をその時々で楽しく過ごせていたらいいなと思っています。人生が充実している方が、演じる役も面白くなる気がするので。しっかり自分に戻る時間を作って、インプットすることを大切にしていきたいです。
――くるまさんは芸人としての活動に加え、俳優業にも挑戦されていますが、どのような刺激を受けていますか?
くるま:基本的には肩書きはずっと「芸人」だと思っていて、やっていることは全部一緒なんですよ。簡単に言うと「成立屋さん」をやっている感覚で、お笑いが足りてない現場ならお笑いを考えて出すし、お芝居のキャラクターが必要ならそれを全うする。そういう意味で、やることの根幹は変わりません。
ただ、映画の現場はやっぱり最高ですね。関わる人数が多くて、準備にも時間がかかる。その分、「みんなで一つのものを作っている」という実感が強くて、すごく興奮します。そういう現場で、それぞれの持ち場で懸命に仕事をしている人たちを見ると、「この人たちは本当にこの仕事が好きなんだな」って思えて、なんだか泣きそうになるんですよ。その空気感に触れられるのが、一番の刺激ですね。
――今後、お二人が挑戦してみたい役柄はありますか?
くるま:なんでもやってみたいですね。武将のような役から、逆に何気ない「普通の人」の役まで。……そういえば唐田さん、逆に「喋らない役」とかやってみれば?
唐田:あ、それ面白そうですね!言葉を使わない役、ぜひ挑戦してみたいです。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
くるま:ホラーが得意ではない方にもぜひ観てほしいです。観終わった後は、店員さんに少し優しくなったり、サラダチキンの種類を見て「もしかして岩崎監督の影響で小分けが増えた?」なんて想像したりして、日常を楽しんでみてください。揚げ物を見てもワクワクしますよ(笑)。
唐田:幽霊が出ないホラーとして、「人間の怖さ」を味わいたい方におすすめです。私は本作の影響で、サラダチキンを見るたびに(劇中の)トラウマを思い出してしまいますが(笑)、この奇妙な物語の世界観を楽しんでいただければ嬉しいです。

取材・文=永田正雄

