
オンラインゲームで暴言や妨害を繰り返す「荒らし」は、最初から他人を困らせたい人が起こしていると思うかもしれません。
しかし実際には、荒らし行為の多くが誤解と自警行為の連鎖によって生じている可能性があります。
米インディアナ大学ブルーミントン校(IUB)の研究チームは、ゲーム内のわずかな手がかりによって他人の行動が「荒らし」に見えやすくなり、その認識が報復したいという気持ちにつながることを明らかにしました。
研究成果は2025年4月24日付で学術誌『Communication Research』にオンライン掲載されています。
目次
- なぜ少数の「荒らし」がゲーム全体に広がるのか
- 「荒らしだ」という判断が報復の引き金になる
なぜ少数の「荒らし」がゲーム全体に広がるのか
オンラインゲームでは、わざと他人を怒らせたり、プレイを妨害したりする荒らし行為が長年問題になっています。
ところが過去の研究では、自分から繰り返し嫌がらせを始めるプレイヤーは一部にすぎないとされています。
それなのに、なぜ嫌がらせはゲームコミュニティの広い範囲にまで広がってしまうのでしょうか。
研究者らが注目したのは、「荒らしをする人」そのものではなく、他人の行動を見て「これは荒らしだ」と判断する側の心理でした。
オンラインゲームでは、相手がどんな意図で行動したのかを直接知ることはできません。
そのため私たちは、その行動にゲーム上の意味があるのか、誰に対して行ったのか、普段そのコミュニティがどれほど荒れているのかといった周囲の情報から、相手の意図を推測します。
そこで研究チームは、普段からゲームをする米国の成人290人を対象に、チーム制シューティングゲーム『Overwatch』を使った実験を行いました。
参加者は架空の行動規範などを読んだ後、実際のプレイヤー行動を評価するという設定で、研究用に撮影された約3分間のプレイ映像を見ました。
映像では、あるキャラクターが、倒れた別のキャラクターの上でエモートを使って踊ります。
これは相手への嫌がらせにも見えますが、単にゲーム内でふざけているだけとも解釈できる曖昧な行動です。
さらに音声チャットとテキストチャットは使えないため、参加者は周囲の状況からその意図を判断するしかありません。
そこで研究者らは、参加者を異なる条件に割り当て、「踊ると10ポイントを得られるか」「踊られた相手が敵か味方か」「そのコミュニティでは荒らしが多いと説明されるか」という3つの条件を変えました。
その結果、ポイントがもらえない場合、味方の上で踊った場合、そして荒らしが多いコミュニティだと知らされた場合ほど、同じダンスでも「荒らし」と判断されやすくなりました。
さらに、その行動を荒らしだと強く認識した人ほど、相手に嫌がらせをやり返したいという意図も強くなっていました。
では、周囲のわずかな違いは、私たちの判断をどれほど変えていたのでしょうか。
詳しい結果を次に見ていきます。
「荒らしだ」という判断が報復の引き金になる
まず、踊ってもポイントが得られない場合、荒らしだという評価は7点満点中平均4.69でした。
一方、10ポイントを得られる場合は平均4.03まで下がっています。
ポイントという明確な目的があれば、「相手を嫌な気分にさせるために踊った」という解釈以外にも、「ポイントのために踊った」という理由が成り立つからだと考えられます。
また、倒れた敵の上で踊った場合は平均4.12だったのに対し、味方の上で踊った場合は4.60でした。
味方には本来、協力的な行動が期待されるため、その期待に反する行動ほど「わざと嫌がらせをしている」と受け取られやすかったと考えられます。
さらにコミュニティの評判も影響しました。
荒らしが多いコミュニティだと知らされた場合は平均4.63だったのに対し、荒らしが少ないと知らされた場合は4.08でした。
つまり「ここには荒らしが多い」という前提を持っているだけでも、曖昧な行動の中に悪意を見つけやすくなる可能性があります。
しかも、この3つの手がかりは特定の組み合わせだけで強く働いたのではなく、それぞれが独立して荒らしという判断を強めていました。
言い換えるなら、「ポイントがない」「対象が味方」「荒らしの多い場所」というサインが重なるほど、同じ行動でも悪意あるものに見えやすくなったのです。
そして統計分析では、この「荒らしだ」という認識が、相手に嫌がらせをやり返したいという気持ちにつながる仲立ちをしていました。
つまり、周囲の手がかりを見て「この人は自分たちを荒らしている」と判断すると、「ならばこちらもやり返してよい」という心理が生まれやすくなるわけです。
研究者らは、こうした報復が別のプレイヤーから新たな荒らしと受け取られるなら、さらに報復を呼び、嫌がらせが連鎖していく可能性があると考えています。
ただし今回の研究が、実際の荒らしのうち何割がこうした誤解から生じているのかを測定したわけではありません。
また、参加者は録画映像を見ただけで、実際にゲームをプレイしたわけではなく、測定されたのも本当に報復した行動ではなく「報復したい」という意図でした。
音声やテキストによる会話も排除されているため、今後は実際の試合中にも同じ心理が働くのか、さらにVRやライブ配信など別のオンライン空間でも同様の誤解が起きるのかを調べる必要があります。
それでも今回の研究は、オンラインの荒らし問題を考えるうえで、「誰が最初に悪意を持っていたのか」だけでなく、「なぜ相手の行動を悪意だと受け取ったのか」に目を向ける重要性を示しています。
荒らしの連鎖を止めるには、悪意ある行為だけでなく、その途中で生まれる「誤解」を減らすことも重要なのかもしれません。
参考文献
Many video game trolls are actually just vigilantes acting on a misunderstanding, study suggests
https://www.psypost.org/many-video-game-trolls-are-actually-just-vigilantes-acting-on-a-misunderstanding-study-suggests/
元論文
Trolling is in the Eye of the Beholder: An Attributional Approach to Predicting Perceptions of Trolling and Vigilantism in Online Games
https://doi.org/10.1177/00936502251334420
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

