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プレーは熱く、気持ちは冷静に――大谷を上回るWARを記録し、MVP有力候補に躍り出た“PCA”の本格覚醒<SLUGGER>

プレーは熱く、気持ちは冷静に――大谷を上回るWARを記録し、MVP有力候補に躍り出た“PCA”の本格覚醒<SLUGGER>

8月5日、カブス対ドジャースの3連戦最終戦。大谷翔平が今永昇太からメジャー通算30度目の先頭打者ホームランを放ったその裏のことだ。

 今永の同僚、「PCA」こと、ピート・クロウ=アームストロング中堅手が、最も効果的な方法で大谷に挑戦状を叩きつけた。

 初球ホームラン=メジャーリーグ最強の1番打者に対する、カブスのリードオフマンの、「一発回答」。今年のナショナル・リーグMVPレースのライバルへの「メッセージ」と言ってもいいかもしれない。

「MVPを獲りたくないなんて言ったらおかしいだろうけど、そんなこと考えてやってないよ……」

 細い身体からは想像できないほどの豪快な打撃、超積極的に次の塁を狙う走塁、そして恐れを知らぬダイビングキャッチと信じられないぐらい広範なフィールドをカバーする守備。「5ツール・プレーヤー」などという言葉が形骸化する昨今のベースボールにおいて、PCAほど野球本来の面白さを教えてくれる選手はいない。三振すればヘルメットを叩きつけ、バットを放り投げるなど短気なところも見せるが、それもエンターテイメントの一部。普段の彼はとても冷静で、淡々と話す姿が印象的だ。
 「彼(大谷)みたいな選手と同じ感じで話されるだけで光栄なことだし、そんな風に認識されたり、それを冗談みたいに話すのは楽しいけど、そんな見方は気にならない。メディアが議論するのは勝手だけれど、それが気になるぐらいなら、僕はピッチングを始めなきゃならないってことだ」

 つまり、大谷翔平は唯一無二の存在である。それ以上、何を議論する必要があるのか? という意味だろう。だがそれでも、エンジェルスでの最終年から3年連続でMVP=最優秀選手賞を獲得してきた大谷が「最も価値ある選手」の称号を明け渡す者がいるとすれば、それはPCA以外に存在しない。

 たとえば、普段からそのとんでもない守備能力を右翼から間近で目撃し、ファンから「ステップ・ブラザーズ=義兄弟」と呼ばれているチームメイトの鈴木誠也はこう言ったことがある。

「いやもう、ファンの皆さんが見てるのと同じだと思いますね。これは捕れないだろうなっていう打球でも、彼は追いついて捕ってしまう。それはものすごく特別なことだと思うし、ああいうセンターの選手っていうのはなかなか見られるものではない。一緒に今こうやって同じフィールドに立ってるっていうのはすごく嬉しいこと」
  その好守に何度も助けられてきた今永はこう言う。

「深いところに飛んだ打球なんかは、自分としては投げミスですし、すごい反省点なんです。でも、そう思った瞬間、ピートがその打球に追いついている。抜けそうな打球が飛んでたとしても、捕れるんじゃないかという期待を持ちながら、守備を見ることができる。そういう存在ですし、実際、数えきれないほどの失点を防いてくれている。だから、僕もストライクゾーンにどんどん投げ込んでいくピッチングができる」

 大谷が「投打二刀流」という歴史的な足跡を残し続けていることは、全米野球記者協会に所属する投票者たちも充分、承知している。MVPの投票権を持つ彼らの圧倒的多数に支持するのは間違いなく大谷なのだが、このまま「投手・大谷」があまり機能しないのなら、投票者の気持ちは大きく動くだろう。

 たとえば、近年、投票者が参考にしているWAR(Wins Above Replacement)という指標。PCAは現在、大谷のそれを凌駕している。

PCA  fWAR:7.3 bWAR:6.8
大谷 fWAR:6.4 bWAR:6.1
(※fWAR=FanGraphs、bWAR=Baseball-Referenceの算出)

 日本でどれぐらいWARが選手の総合的な価値を測定する指標として認知されているのかは知らないが、昨今のメジャーリーグでは、最優秀選手賞やサイ・ヤング賞の投票者も大いに参考にしている。
  シーズンを通じた相対的な勝利貢献度を比較することで、当該選手が「代替選手」=リーグの最低年俸ですぐに獲得可能な選手と比較して、どれほどの価値があるかを知ることができる数値だ。上記の通り、PCAも大谷も「代替選手」と比較してチームに6勝以上をもたらしたという考え方である。

 大事なのは、どちらの基準でもPCAが大谷を上回っていることだ。

 今季でメジャーデビューから4年目。すでにオールスターにも2度選出されているPCAはやはり淡々と話す。

「打者として成長し、しっかりとしたプランを練り上げ、打席に入る際には余計なことを考えすぎないようにする……そういったことだよ」

 凡退した際に苛立ちを露わにするなど、今も若さが露呈する瞬間はある。それゆえに今季序盤に苦戦していた当時は、とうとう壁にぶち当たったのではないか? などと囁かれていた。

 ところが六月以降、OPS1.000を超える打撃で、件のWARも大きく、上昇した。

「いずれにせよ調子は上向いていて、今年は単にスタートが遅かっただけだとも捉えられると思う。去年、調子が良かった時は勢いだけでなんとかしていた部分が多かったし、相手チームが徹底的にこちらのデータを分析し、弱点を見つけて攻め方を変えてくるのが、この世界だからね」
  自分の長所に自信を持ち、一球一球、そのアプローチを信じ抜くことが大事だ、とPCAはきっぱり言う。

「打席に立つ時には明確なプランを持ち、あれこれ迷わず、今の自分に合っていることだけに集中している。いつもスウィングのことばかり気にするのではなく、どうやって塁に出るかに重点を置いて取り組んできたよ。そのプロセスの中で、チームメイトやコーチとの対話も重ねて、自然な形で今の自分があるのだと思う」

 PCAは最初から、1番に固定されていたわけではない。序盤の不調を乗り越えたことで、その立場つかんだのである。

「リードオフを任されて、実際に結果を出せたことで得た一番の収穫は、あの打順に対する『覚悟』や『取り組み方』を、実はどんな打順でも発揮できるようになったことだね。7番や8番を打っていたとしても、4番を打っていたとしても、今の打撃を続けられる自信はあるし、結局のところ、単に打順が違うというだけの話なんだ。それがどこであれ、同じような意図、集中力、そして、自分のやりたいことに対する確固たる信念を持って臨まなければならない、と分かったことが大きい」
  23年9月にデビュー、24年はレギュラー途中からの一角に食い込み、昨年はセンターのポジションを確固たるものにした。ただし、対右投手OPSは.838だったのに、対左は.594と課題が残った。それも今年は対右腕OPS.938、対左にも.937と圧倒的な数字を残している。

「対左投手の打席での対応が上手くなった理由は、掘り下げれば細かい要素は山ほどあるけど、不思議なことに、単に打席での立ち位置を変えたことで、左投手相手でもプレートのあらゆるコースをカバーする時間的な余裕が生まれたように感じている。それに守備での貢献度が大きいおかげで、対左投手で打席に立つ機会を与えてもらえているという事実も大きい。『左対左』という状況を楽しい挑戦と捉えて、その方針を貫くようにしてるんだ」

 今年からチームメイトになったベテランの助言も大きかったようだ。

「アトランタで(ライセル・)イグレシアスと対戦した時、左に対しては、あまり投げないはずのスライダーを初球に投げてきて、それを完璧に捉えた(バレルゾーンに当てた)のに、真上に打ち上げてしまったことがある。その時、彼(アレックス・ブレグマン)にこう言われたよ。『ただ来た球を打てばいい』と。よくあるアドバイスだけど、なぜかその言葉がストンと腑に落ちた。それからは狙い球を絞りすぎず、来た球だけを打つことに集中している。もしも、調子を崩したとしても、あの時の感覚を思い出して、『来た球を打つ』という意識に戻ればいいだけだから、自分を律する上でとても良い方法だと思う」
  冒頭のドジャース戦。PCAは4回、今度は右翼電光掲示板にぶち当てる豪快な一発を放つと、大谷も8回、左翼に2点本塁打を放って、ともに26本塁打となった。

「(大谷の)名前と同じ会話に出てくるなんて素晴らしいし、嬉しい認められ方だけど、いつか彼ら(ドジャース)を打ち負かして、もっと達成感を味わいたい。このグループを10月(ワールドシリーズ)に見たい」

 ピート・クロウ=アームストロングと大谷翔平。

 彼らが再び球場で出会う時、我々はきっと2人の活躍をリアルタイムで目撃できることに心の底から感謝することだろう――。

文●ナガオ勝司

【著者プロフィール】
シカゴ郊外在住のフリーランスライター。'97年に渡米し、アイオワ州のマイナーリーグ球団で取材活動を始め、ロードアイランド州に転居した'01年からはメジャーリーグが主な取材現場になるも、リトルリーグや女子サッカー、F1GPやフェンシングなど多岐に渡る。'08年より全米野球記者協会会員となり、現在は米野球殿堂の投票資格を有する。日米で職歴多数。私見ツイッター@KATNGO

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配信元: THE DIGEST

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