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【甲子園】奇跡的な逆転劇の裏で……敗れた立命館宇治の「未来につなぐ継投」<SLUGGER>

【甲子園】奇跡的な逆転劇の裏で……敗れた立命館宇治の「未来につなぐ継投」<SLUGGER>

被災地の熊本に勇気を届けるような逆転劇を見ながら、その「かませ犬」となったチームに負の遺産が残らないようにと思った。

 大会3日目の第3試合は、熊本代表の有明が9回に4点を奪って逆転に成功。6-4で立命館宇治を下した。被災地熊本からの出場とあって終盤の攻撃では大きな声援が送られ、ドラマの完成を見た大逆転劇だった。

 悔しい敗戦となった立命館宇治だったが、試合後の里井監督の姿に、少し呆気に取られた。落胆する様子でもなく、達観するように語るのだった。

「やはり失策から最終回、こうやって逆転されるという野球の危うさというのを間近に感じました。やっぱり最終回に失策があったチームの方が敗退になるなと思います」

 ミスを犯した選手を槍玉に上げているのではない。敗戦には必ず理由があり、里井監督は単に敗因を受け止めていたのだ。

「プラン通りの継投策でした。先発した中尾の球威が6回くらいに落ちてきて、替え時かなと思いながら6回のピンチは切り抜けたんですけど、7回に2点を取られたので、8回に坂本に繋ぎました。プラン通りではありました。そこで崩れたのは仕方ないと思いますけど、遊撃ゴロを取っていればというところでした。そこから一気に相手に流れがいってしまったたので、やはりあそこですよね」
  勢いに乗って攻勢に出る相手の打線。スタジアムの空気、どれもが相手に味方しているような空気だった。そうした中で逃げ切るのは簡単なことではなかった。中尾→坂本の継投はチームとしては盤石の戦略だったから、その中での敗戦は受け入れるしかなかったのだろう。

 8回から登板した坂本は、立ち上がりは問題なかった。2番から始まる中軸の攻撃を3つのゴロで料理。右のサイドスローから打たせて取るタイプとして、持ち味を発揮するピッチングだった。

 それが9回に突如崩れたのだった。1死から、里井監督の言葉にもあった遊失から事が始まった。ワイルドピッチで走者が二塁に進むと一打同点のピンチ。三直で2死を取るも、8番の新谷遼にはカウント3-1とするとまたもワイルドピッチ。一、三塁と逆転の走者も出してしまった。それでも9番打者を抑えれば良かったが、坂本は2つの理由で、本来のピッチングができなかった。

「1番の永田選手はタイムリーを打っていたんで、回してはいけないと思って力んでしまった。ストライクを投げないといけなかったのにワイルドピッチのこともあったので思ったところに制球ができなかった」

 8、9番を連続四球で出して1番怖い打者を迎えてしまう。四球を出すのは野球では仕方のない事だが、問題は誰に出すかだ。二死満塁と逃げ場のない状態で強打者を迎えたわけだ。
  初球はストライクを取ったが、2球目のインコース狙いが真ん中に入った。暴投への恐れ、四球の恐怖、スタンドの空気。それらが坂本の制球を見出し、走者一掃の適時二塁打となったのだった。

「応援も凄くて地に足がついていなかった」。

 坂本は悔しさを押し殺してそう話したが、すぐに前を向いた。

「普段の練習試合とかからも、自分にプレッシャーをかけながら、こういう場面っていうのは、次はまた甲子園でしかないと思うので、そこで一発で結果を出せるように普段から練習していきたいです」。

 立命館宇治の継投策に勝負のポイントを挙げるのは、ただ単に逆転劇が起きたからではない。というのも、立命館宇治というチームがそもそも投手1人の力に頼りがちなチームだったからである。

 2019年の甲子園では1回戦の秋田中央戦でエースの高木が121球の完封勝利を挙げたかと思うと、続く星稜戦で高木は同年の大会では最多となる170球を投じて敗戦投手となったのだった。2023年の同大会では2年生エースの十川が1回戦で7回途中まで110球を投げている。6回で7失点していてもなお、7回にも続投させたのが印象的だった。
  そのような指揮官ゆえ、今大会での府大会からの継投策重視には、時代の変化が里井監督にも影響を与えたかと期待を持った。

 ただ、里井監督は事情をこう話す。

「起用できる投手が複数いるときは継投を考えています、でも、エース以外にいい投手がいないときは頼らざるを得ないのがうちの現状かなと思います。だから、今大会か継投策をしていこうと考え方を変えたわけではなく、起用できる投手が2人以上いたので、継投策をしたということです。でも、なるべく継投策ができるような状態にはしたいですね」

 この日は有明の奇跡の第逆転劇の前に屈したのかもしれない。しかし、中尾→坂本の継投は形としては間違っていなかったし、試合の流れから甲子園の怖さを知るきっかけになったというだけで、それは言い換えれば、2年生の両投手にとって非常に意義深いことではある。この日の失敗で継投策にケチはつけてほしくない。

「なかなかこういう経験ができるわけではないので、本人たちが活かしてくれると思います」

 里井監督はそう語った。今日の試合は今大会のベストゲームの1つになるだろう。敗れた立命館宇治だったが、そのショックの大きさ以上に収穫も大きい。次こそは継投策で勝ち切る姿を見たいと思う。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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配信元: THE DIGEST

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