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渥美清「没後30年」全方位特集“旅と女と寅次郎”(4)マドンナが語る素顔の寅さん

渥美清「没後30年」全方位特集“旅と女と寅次郎”(4)マドンナが語る素顔の寅さん

 浅丘ルリ子演じるリリーに対して「男はつらいよ」シリーズに大きな爪痕を残したマドンナといえば、国民的な女優・吉永小百合が演じる歌子だ。

 吉永は、第9作「男はつらいよ 柴又慕情」でマドンナ役に抜擢されると第13作「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」にも再登場。「寅さん」シリーズをロングシリーズへと導く礎となった。

「当初の寅さんは一目惚れから失恋に至るドタバタ喜劇が主流でしたが、文字どおりトップ女優である吉永小百合をマドンナに迎えることで、今作以降は松竹の屋台骨を支えるヒットシリーズへと成長していきました」(亀和田氏)

 しかも、この「柴又慕情」では、吉永は結婚を誓った恋人の陶芸家との結婚を小説家である父(宮口精二)から反対される。

 この展開が、小津安二郎の名作「晩春」(松竹)の笠智衆と原節子の父娘関係を思わせ、松竹大船撮影所の伝統を受け継ぐ傑作として高く評価されている。

 そしてもう一本、「寅さん」シリーズを語るうえで忘れてはならない作品がある。それが第7作「男はつらいよ 奮闘篇」だ。

 旅先の沼津で知り合った、東北訛りの知的障害のある花子を柴又で面倒をみるうちに、

「わたす、トラちゃんの嫁ッコになるかな」

 と言われ、しどろもどろになる寅次郎。

 やがて花子の庇護者である福士先生(田中邦衛)が上京して淡い恋も終わる。

 シリーズの中でもユニークな花子役を弱冠20歳で演じた榊原るみは、当時を振り返り、こう話す。

「山田監督は、芝居っ気なしの演技を求めるのでデビューしたばかりで何もできない私にはちょうどよかったかもしれません(笑)。駅のホームの階段を上り、寅さんを振り返るシーンでみかんを落とすんですが、それが難しくてね。何度もNGを出したことも懐かしい思い出です」

 寅さんを演じる渥美清の素顔を尋ねると、

「カメラが回っていないところでは、もの静かで礼儀正しいジェントルマン。ところが、本番になるとテキ屋の寅さんに豹変する。あの頼り甲斐のある演技は今もまぶたの裏に焼き付いています」(榊原)

 今作でマドンナ像も憧れのマドンナから、庇護すべき女性へと変化を遂げている。みずから身を退いてマドンナが幸福になるなら、それが自身の幸せになる。後に寅さんの恋愛哲学に通じる記念すべき作品となったのだ。

 最後に「男はつらいよ」シリーズで忘れてはならないのが、全作に出演する倍賞千恵子演じる妹のさくらだろう。

「J・D・サリンジャーのベストセラー小説『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンとフィービー兄妹。この例を見るまでもなく、今作は腹違いの妹・さくらを設定した時点でヒットは約束されていた。そう僕は考えています」(亀和田氏)

 旅に恋に故郷の家族、まだまだ奥が深いのが「男はつらいよ」の世界なのだ。

 出会いあれば、別れあり。第6作「純情篇」では、唯一の兄妹2人きりの別れのシーンが涙を誘う。

 柴又駅のホームで「いつでも帰っておいで」と見送るさくら。すると電車の中から寅がポツリ。

「オレはいつまで一人前に‥‥、故郷ってやつはよぉ」

「え、なに? 何て言ったの?」

 人情味豊かな演技で没後ほどなく「国民栄誉賞」を受賞した渥美清の命日は8月4日。蟬しぐれを聞くだけで、故郷を偲ぶ寅次郎の面影が浮かんでくる。

配信元: アサ芸プラス

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