「男はつらいよ」シリーズ48作中、4作品に出演した最強のマドンナといえば、浅丘ルリ子演じるキャバレー歌手のリリーに他ならない。
ともに旅を住処とするフーテン暮らし。2人が奏でる美しくも切なく哀しいラブストーリーは、今も多くの寅さんファンの心を捉えて離さない。
その記念すべき初登場は第11作「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」である。
「母1人娘1人、天涯孤独のリリーが北海道の夜汽車で涙ぐむ姿に心を奪われてしまう寅さん。この2人のファーストシーンは今も忘れることができません」(亀和田氏)
次の日、網走で出会った2人は意気投合する。
しかし、柴又の「とらや」で再会するも、
「旅に出よう」
と誘うリリーを、ここは堅気の家だと突っぱねてしまう寅さん。
やがてリリーが寿司職人(毒蝮三太夫)と結婚したことを暑中見舞いで知りショックを受けるが、時すでに遅し。その時、寅さんが見せた寂しげな姿がたまらなく切なかった。
続いて第15作「寅次郎相合い傘」では寿司職人と離婚。売れないレコード歌手になっていたリリーに再び思いを寄せるもまたもや結婚に踏み切ることができない。
それは旅ガラスの持って生まれた悲しい性なのか。あと一歩、乗り越えられない2人の美しくも切ないシーンの数々に、大勢の寅さんファンが涙した。
さらに、2人が相まみえたのは、第25 作「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」である。
沖縄でリリーが倒れたことを知った寅次郎は飛行機嫌いにもかかわらず駆けつけ、献身的に看護する。2人は部屋を借りて暮らし始め、今度はリリーが告白する。
しかし、またしてもはぐらかしてしまう寅さん。喧嘩の末にひとり寂しく東京へ帰っていく。
しかし、リベンジの機会はすぐに訪れる。再会した2人が「とらや」の茶の間で家族を前に交わした会話は、今も忘れることができない名シーンとなった。
「どうだ、リリー。俺と所帯持つか」
「いやねえ。寅さん変な冗談言って。みんな真に受けるわよ。ねぇ、さくらさん」
「そうか、この家は堅気の家だったな。今のはまずかった、アハハ」
「私たち夢見てたのね、きっと。ほら、あんまり暑いからさ」
「そうそう、夢だ、夢」
寅が真剣に向き合おうとすれば、リリーが逃げる。まるでトムとジェリーのような追いつ追われつの無限ループは終わることなく繰り返されるのだ。
そして迎えるはシリーズ最後となる第48作。「男はつらいよ 寅次郎紅の花」では、妹・さくらの説得を受け、寅さんはリリーが暮らす奄美大島・加計呂麻島まで一緒に帰る。今度こそ、めでたしめでたしの大団円。と思っていた矢先に、最後の最後にもう一波乱。リリーに何も告げずに寅は島を離れ、復興を目指す神戸に忽然と現れる。
まさに風の吹くまま、気の向くまま、「フーテンの寅」が永遠の旅人となる、シリーズ最後を締めくくる印象深いラストシーンとなるのだ。
「没後、奄美大島から水上タクシーで加計呂麻島へ渡ったのですが、島のあちこちに『リリーの家』など寅さん最後のロケ地の記念碑が建てられていました」(亀和田氏)
コバルトブルーの海に囲まれた南の楽園で寅次郎の思い出は息づいている。

