2018年に罰則が強化されるまで、金密輸はローリスクのおいしい商売だった。この“黄金期”に「香港ルート」で莫大な利益をあげたグループがあった。「週2回、ひたすら回し続けるんですよ─」。ボスとして暗躍した半グレ男が明かした驚きの手口とは?
2014年4月1日、消費税が5%から8%に引き上げられた。金密輸はこの日を境に、爆発的に増加した。
15年11月10日付の産経新聞によれば、密輸による脱税額は約2億4000万円で、前年の8倍。発覚件数も前年の20倍以上に達し、過去最高を記録したという。
この数字が示す異常事態の裏で、金密輸をビジネス化してきたのが半グレたちだった。
「あの頃は、見つかっても(金の)没収なんてなかったんで、ローリスクじゃないですか。一応、罰金はあるんですよ。でも消費税分くらいですから、たかが知れてるんで」
かつて金の運び屋をしていた半グレの男はそう言って、当時の感覚を振り返った。事実、「ストップ金密輸」前は、摘発されても「通告処分」で終わり、リスクはほとんどなかった。
通告処分とは、税関長が「罰金相当額」と「逃れた税金の追徴金」を命じる制度で、期限内に払えば刑事裁判にならずに済む。罰金の上限は当時500万円だったが、軽微な案件では実質的に消費税相当分の納付で終わるケースがほとんどだった。むろん、押収された金は半年ほどで戻ってきた。
取材の過程でもう一人、半グレの男と出会った。身元を秘すため、ここではMと呼ぶ。この消費税8%時代に跋扈した金密輸グループのボスで、大麻32キロの密輸で実刑を喰らった過去がある。
出所後は中国・深圳を拠点に海外を転々としていた。そこへ、かつての仲間から新たな儲け話が転がり込んできた。
「香港で金が安く買える、ってね」
すぐさまMが飛びついたのは、まだルートが知れ渡っていないうちなら、リファイナリー(製錬会社)から直に買えるという話だったからだ。
金はどこで買うかによって価格が変わる。街中の小売店で買えば小売価格が乗る。だがリファイナリーから直接買えば、余計なマージンなしで良質な金を大量に仕入れられる。
当時の香港で、このリファイナリーからの卸ルートを先に仕切っていたのが、日本人のSと香港人のTだった。Mはその一角に食い込んだ。
「やっぱ、運び癖があるのかな」
大麻に続いて、今度は金の密輸。懲りない男だった。
高木瑞穂(たかぎ・みずほ)ノンフィクションライター。月刊誌編集長、週刊誌記者などを経てフリーに。主に風俗や犯罪事情を取材、執筆。「売春島『最後の桃源郷』渡鹿野島ルポ」(彩図社)、「ルポ 風俗の誕生」(清談社Publico)など著書多数。

