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「AIでは3周、4周、5周遅れの日本」で孤軍奮闘の楽天、三木谷会長はAIで何をどう変える?――[道越一郎のカットエッジ]

「AIでは3周、4周、5周遅れの日本」で孤軍奮闘の楽天、三木谷会長はAIで何をどう変える?――[道越一郎のカットエッジ]

爆発的な進化が止まらないAI。しかし「日本は3周、4周、5周遅れ」と話すのは、楽天グループの三木谷浩史 代表取締役会長兼社長。同社が8月5日から3日間、パシフィコ横浜で開催したイベント「Rakuten AI Optimism」のオープニングスピーチの一幕だ。OpenAIの「ChatGPT」やAnthropicの「Claude」、Moonshot AIの「Kimi」など、最先端を走る海外製AIに比べ、和製AIは見る影もない。AIモデルの開発には莫大な資金に裏付けられた設備と電力、そして冷却のための大量の水が必要だ。米国は全体で年間100兆円近い資金を投じている。一方日本は、数兆円規模と桁が二つ違う。5周遅れになってしまうのも無理もない。

 そんななか、一人気を吐くのが楽天だ。自社開発しているAIモデルは現在4種類。最も小規模な15億パラメーターの「2.0 mini」はスマートフォンなどでの利用を前提として設計した。70億パラメーターの「7B」は高い日本語処理能力が特徴だ。470億パラメーターの「2.0」はデスクトップ環境などでも動作する。そして最も大きなモデルが、7000億パラメーターの「3.0」だ。パラメーターは、いわゆる「AIの脳の大きさ」を表す数値。「ChatGPT」や「Claude」「Kimi」の最新モデルではパラメーター数は「兆」を超えるといわれている。それらに比べれば物足りないが、日本製モデルの中では突出した存在だ。
 もう差が開きすぎた。日本でオリジナルのAIモデルを開発するのは無理ではないか……。そんな声があちこちから聞こえてくる。それでも、楽天が独自AIの開発にこだわる背景には、強い危機感がある。あらゆる場面でAI化が進むのはもはや不可避。しかし海外のAIに依存していては「主権」は維持できない。セキュリティー上の問題も避けては通れない。AIの利用料、いわゆるトークンコストも無視できない。AI社会の進展に伴って、料金も指数関数的にふくれあがるのは目に見えている。こうした状況を見据え、三木谷会長は「楽天グループとしては、自分たちで基本的なAIは開発していく必要がある」とし、自社開発にこだわっている。特に楽天のAIは「日本語」が得意だ、という。「日本語は極めて特殊な言語であり、独自開発は不可欠」(三木谷会長)。これにより、コストの削減にとどまらない、品質向上が見込まれている。しかし、「賢さ」で見劣りがするモデルに固執していては、高品質のサービスは期待できない。そこで、OpenAIやGoogle、Anthropic、Microsoftなどの外部AIモデルも積極的に活用。適材適所でAIを組み合わせる「ハイブリッド戦略」をとっている。
 楽天市場の出店者向けには現在、独自のAI店長の開発を進めている。あたかも実際の店舗で店員による接客を受けるような体験を、AIによって実現する。店舗の責任者のプロファイルやパーソナリティーをAIに読み込ませ、アバターとして接客や商品提案を担わせる仕組み。三木谷会長の講演のデモンストレーションでは、肌の悩みに合わせた化粧品の提案からレビューの紹介、注文の最終確認までを、自然な言葉を話すアバターのAI店長がスムーズに行う様子を披露した。三木谷会長は「人間というのは人間味のあるAIを必要としている」と語り、一般的な回答を返すAIではなく、店舗ごとの特徴や商品に対する思い入れ、うんちくなども表現できる独自のショッピングエージェントの必要性を説いた。
 また、楽天の多様なサービス群を横断する「スーパーエージェント」についても開発を進めている。例えば、楽天トラベルでの利用では、ユーザーの家族構成、旅行履歴、楽天市場での購入履歴などのデータを基に、過去の文脈を踏まえたパーソナライズ提案を行うデモンストレーションも披露。旅行の計画から宿泊施設の予約、スケジュールのカレンダー追加、持ち物リストの作成までAI主導で行った。また、過去に購入した日焼け止めを楽天市場で再購入する際、ポイント還元率を高めるアドバイスを行うなど、自然言語の対話形式で一貫サポートする様子を実演した。
 楽天市場ではすでに、多くの場面でAIが活用されている。「Rakuten AI Optimism」に先立って、7月に開催した「『楽天市場』におけるAI活用に関する説明会」で詳細を明らかにした。ユーザー向けの機能として現在稼働しているのが「AIコンシェルジュ」。店舗の店員と会話するような感覚で商品選びができるのが特徴だ。楽天グループ市場編成部ジェネラルマネージャーの高間真里 執行役員によれば「検索から購入までの時間を約41パーセント短縮し、平均注文金額を約17パーセント向上させた」という。商品の比較機能や要約機能も追加されており、今後は店舗の接客データを取り入れ、品質をさらに高めていく予定だ。
 出店店舗向けには、AI活用の店舗運営システム「Rakuten AI for RMS(Rakuten Merchant Server)」を提供。さまざまな業務を効率化する。商品説明文の作成支援、商品画像の背景加工、ユーザーからの問い合わせ対応支援などで構成。すでに約半数の店舗が活用しているという。楽天グループコマース&マーケティングテクノロジー統括部の山川祐介 ジェネラルマネージャーは、「問い合わせ対応の時間が大幅に削減されたり、商品登録の効率が飛躍的に向上して取扱アイテム数が10倍に拡大した例もある。店舗の業務負担軽減と売上増加に直結する成果が上がっている」、としている。4月には、会話形式で店舗の販売データを深掘りできる「データ分析エージェント」の提供も開始。バックヤードの支援にもAIの活用が進む。
 ただし、AIは完全ではない。問い合わせ対応で誤情報を伝えてしまうリスクについては「AIが自動で直接返信するのではなく、店舗側で簡単な指示を入力し、生成された文章を確認してから返信する仕組みをとり回避している」(山川 ジェネラルマネージャー)という。同社では、AIを通じて巨大なエコシステムをさらに強固なものにして、マーケティング、オペレーション、クライアントの3領域で効率をそれぞれ20パーセント引き上げる「トリプル20」という目標を掲げている。蓄積された圧倒的なデータ量と自社開発AI技術の融合で、競争力のさらなる強化を狙う。
 「Rakuten AI Optimism」を通じ、楽天のAIに対するスタンスが明らかになった。一言でいえば、極めてオーソドックス。楽天経済圏の堅持と拡大のためのツールとしてのAIだ。ビジネスだから、それはそれでいい。しかし、あまりにもスケールが小さい。これから数年の間にAIがもたらすインパクトは、そんなレベルではとても収まり切れない。三木谷会長自身が一番よくわかっているはずだ。きっと、何か大きな「隠し玉」があるに違いない。インターネットよりも深く、蒸気機関よりも革命的。GoogleとAlphabetのサンダー・ピチャイCEOは、昨今のAIの進化を「火の発見」になぞらえた。日本のAI開発で孤軍奮闘する楽天。だからこそ、自らの経済圏をも打ち破って宇宙にまで飛び出すような発想でAIを駆使し、社会を変える先兵になってほしい。(BCN・道越一郎)
配信元: BCN+R

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