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【甲子園】競り合いの初戦を制した花巻東──ビッグクラブに不変の「らしさ」とは<SLUGGER>

【甲子園】競り合いの初戦を制した花巻東──ビッグクラブに不変の「らしさ」とは<SLUGGER>

その注目度は、いち甲子園常連校の度合いを超えている。

 この日の第1試合、4-2で新田との競り合いを制した花巻東の指揮官・佐々木洋のインタビューを待つ人の群れは多かった。それだけ、花巻東への注目度は上がっている。

「最後まで本当に集中して頑張ってくれました」

 佐々木洋監督は試合後の第一声でそう答えた。

 赤間史弥、古城大翔、萬谷堅心で形成するクリーンアップは重量感たっぷりで大会屈指とも評される。4番の古城が左翼スタンドまであと一歩の左翼二塁打を放った程度で、この日こそその破壊力は鳴りを潜めたが、それでも試合をものにする強さが花巻東にはある。

「もともと機動力のチームだったので、そこに大砲の子たちも入ってきて、点が思うように取れない時にもなんとかできる。中軸が打てないような時にも点数が取れるような野球でやってきた」。

 本音を探ればもっと点を取りたい。それでも負けない野球が出来るのは、花巻東がそれだけハイブリッドなチームになってきていることの証左だろう。
  試合前半は攻撃型で固めて、試合の中盤から選手を替えていく。守備に長のある選手たちが試合を締めて行く試合運びはビッグクラブの成せる技とも言える。

 その裏付けは2年前からチーム方針を作り変えたところにある。かつて花巻東は「地元の選手だけで日本一」を掲げていた。2009年には春夏連続出場を果たし、春のセンバツでは菊池雄星(現エンジェルス)を擁して準優勝。今も岩手を愛するエースの存在は県民を一つにした。

 しかし、そんな大エースや彼に憧れて進学してきた大谷翔平(現ドジャース)が花巻東を巣立ち世界の扉を開けると、時代の変化とともに、チームはそれまでの方針に一つのバージョンアップを図ることになった。「地元だけで日本一」という殻を破り。全国から選手を受け入れることを決めたのだ。今や全国だけではなく世界からも進学希望があるという。

「こないだもフランスの方から連絡がありまして」

 佐々木がそう嬉しそうに話すのは「これからはグローバルに物事を考えなくてはいけない」という考えがあったからだ。
  しかし、選手を全国から受け入れることには危険性もはらむ。鼻っ柱の強い全国からの有望選手の受け入れは、これまでのパワーバランスを崩しかねない。

 どの私学にもありがちなことだが、有望選手の多くの進学は必ずしも成功を意味するわけではない。進学者の精査も実は必要なのだ。

 スカウティングの窓口を担当するのは長く佐々木監督の右腕としてチームを支える流石部長だ。全国の受け入れに関しては前提として希望者に話すことがあるとこう語る。

「設備がいいこととか、私学である、甲子園に行きたいというのであれば、他に行ってくださいという話はします。うちが全国から受け入れているのはそういう目的ではないので。野球部として目指していること、野球だけではなくて、その先を見据えて人間教育とか、そこを学びたいという選手とご縁をいただいているという形になります」

 監督はほとんどスカウティングには関わらず、希望者に対して流石部長がプレースタイル等、様々な面から判断していく。そこで「花巻東らしさ」が崩れないような
人選となっているわけだ。
 「最終的に親御さんや本人の性格とかも含めての判断になりますが、ただ野球だけをやりたいとか、野球が強いからっていうんだったら、正直はっきり言います。うちじゃないんじゃないかって。うちはあくまでも将来的なことに興味がある子です。野球を通して成長していくっていう考えでやってるので、そこを理解してもらえる選手ですね」

 ライター同士で中学生の有望選手の話をする時があるが、最近、花巻東を望む中学生が多くなっているという噂はよく耳にする。菊池雄星や大谷翔平の評判があるのは事実だが、そこには野球だけでない彼らの人間性も一つの模範でもあり、そこに流石部長がいう「花巻東ブランド」があるのだろう。

 1年生ながらこの日の試合にスタメン出場した菊地輝は言う。彼は埼玉県から花巻東の門を叩いた。

「県外からでも進学できるという話を聞いて意識をしたんですけど、野球だけじゃなくて、人としても成長できるというか、社会に出た後にも恥ずかしくない人になるためには、花巻東高校が一番いいと思って選びました」

 菊地からは鼻っ柱の強さは感じられず、謙虚に取り組んでいる印象だ。「まさか1年生でメンバー入りできると思っていなかったですけど、3年生の分も一生懸命頑張りたい」と気持ちを口にする菊地からは、これまでと変わらぬ花巻東らしい人間性を感じる。
  この日の試合は打線が思ったほどに繋がらずに1点を積み重ねる展開。その中で佐々木洋監督が大きなハイライトとして振り返ったのは4点目を挙げたシーンだ。

 8回表、先頭の赤間が二塁打で出塁、1死三塁となって5番・赤間は右翼への浅いフライ。犠飛は困難だたったが、中継プレーが緩慢であった隙をついて赤間が生還。貴重な1点をあげた。9回裏には左中間に抜けそうな当たりを左翼の赤間がファインプレー。競り合いを制した。
  花巻東さは変わらない──

 その旨を伝えると、佐々木監督はまんざらでもなさそうに笑みを見せてこう語った。

「もうちょっと点数を取りたいなっていうところもありましたけど、でも初戦ですし、ピッチャーがこれだけバタバタと交代しながらよく勝ってくれた。全国から選手が来るようになってどう変わるのかは気になっていたろころではありました。岩手はおっとりして、優しくて寡黙な子たちが多いんですけど、全国から来た子も東北人っぽく染まっていると言いますか。むしろ東北人っぽくなってくるような感じがして、すごくいいです。ただ一方で、試合になると俺がやってやるんだっていう、西の方の気質みたいなものを融合させた方がいいんで。いろんなところから血が入ってくることによって、すごくいいんじゃないかなと思ってます。勝ちたいから全国から選手を獲っているわけじゃないので、うちらしくやってくれていますね」

 花巻東は花巻東らしく。初戦を接戦の末に制した。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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配信元: THE DIGEST

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