
レタスと肉は、まったく別の食べ物に思えますが、将来はその境界が少し曖昧になるかもしれません。
英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームは今回、肉の色や風味、栄養的な特徴に関わる重要なタンパク質「ミオグロビン」を、食用植物であるレタスに作らせることに成功しました。
しかも一時的に作らせただけではなく、導入した遺伝子は種子を通して次世代にも受け継がれました。
研究成果は、2026年8月6日付で『Frontiers in Plant Science』に掲載されました。
目次
- レタスの「葉緑体」を肉タンパク質の工場にする
- ミオグロビンは作れたが、ヘムの取り込みに課題
レタスの「葉緑体」を肉タンパク質の工場にする
畜産には広い土地や大量の水、飼料などが必要なため、近年は動物を育てる代わりに、必要なタンパク質だけを別の生物に作らせる技術が研究されています。
今回の標的は、筋肉の中で酸素を蓄える「ミオグロビン(myoglobin:Mb)」です。
ミオグロビンは鉄を含む「ヘム」と結びつくことで、肉の赤い色や風味、吸収されやすいヘム鉄といった特徴にも関わります。
そこで研究チームは、植物そのものをミオグロビンの生産工場として使えないかと考えました。
注目したのは、光合成を担う「葉緑体」です。
葉緑体には多数のDNAコピーがあり、外来タンパク質を高い量で作らせやすいうえ、ミオグロビンに必要なヘムが作られる場所でもあります。
研究では、食用植物のレタス(Lactuca sativa)と研究用のタバコ(Nicotiana tabacum)を使い、ブタ由来のミオグロビン遺伝子を葉緑体で働きやすい形に調整しました。
そしてDNAを付けた微粒子を「遺伝子銃」で細胞へ撃ち込む方法を使い、葉緑体DNAに遺伝子を組み込みました。
その結果、これらの植物は成長して花と種子を作り、導入した遺伝子が次世代にも受け継がれることが確認されました。
さらに葉を調べると、レタスとタバコの両方でミオグロビンが作られていました。
では、その量や「肉のミオグロビンらしさ」はどこまで実現できていたのでしょうか。
より詳しい結果を次項で見ていきます。(※次項には実際のレタスの画像があります)
ミオグロビンは作れたが、ヘムの取り込みに課題
ミオグロビンは、葉に含まれる総可溶性タンパク質のうちタバコで平均約2.7%、レタスで約1.5%を占めました。
乾燥重量1kg当たりでは、レタス約810mg、タバコ約800mgです。
一方、論文が比較に挙げた牛の2種類の筋肉では、1kgあたり約8100~1万1160mgで、今回の植物のおよそ10倍でした。
それでも研究者らは、植物栽培は畜産より資源効率が高いため、将来は土地面積当たりの生産量で畜産に匹敵する可能性があるとしています。

ただし、これは今回直接確かめた結果ではなく、実際の生産効率やコストは今後の検証が必要です。
そして、もう1つの重要な課題は「ヘム」でした。
タバコから精製したミオグロビンは、ミオグロビンらしい立体構造を示していましたが、ヘムまで結合していた割合は約35%でした。
大腸菌で作ったミオグロビンでは約80%だったため、植物ではヘムの供給やミオグロビンへの組み込みがボトルネックになっている可能性があります。
実際、ミオグロビンを作るタバコでは総ヘム量が約2倍に増えていましたが、それでもヘムの合成量や細胞内での輸送・分配が十分ではなく、ミオグロビンへの取り込み効率も限られていたため、必要量は行き渡りませんでした。
一方、タバコでは主要な光合成指標に明確な低下は見られず、ミオグロビン生産が光合成を大きく損なわなかったことも確認されました。
ただし詳しい生理学的解析は主にタバコで行われ、レタスについては十分に調べられていません。
今後は複数の系統で再現性を確かめながら、ヘム生産やその取り込みを改善し、食品中での色や風味、大規模生産のコストや規制面も検討する必要があります。
今回誕生したのは「肉味のレタス」ではありません。
それでも植物に「肉の特徴を生み出す重要なタンパク質」を作らせる、新しい食品生産への一歩が示されたのです。
参考文献
A Key Meat Protein Has Been Grown in Lettuce For The First Time
https://www.sciencealert.com/a-key-meat-protein-has-been-grown-in-lettuce-for-the-first-time
元論文
Sustainable production of myoglobin meat protein in plant chloroplasts
https://doi.org/10.3389/fpls.2026.1876707
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

