
海の真ん中にポツンと新しい陸地が生まれたとき、植物はどこからやってくるのでしょうか。
人の手がほとんど入らない絶海の火山島なら、生態系が生まれる最初の一歩を追えるかもしれません。
筑波大学などの研究チームは今回、小笠原諸島の「西之島」に生えていたオヒシバ(Eleusine indica)のDNAを調査。
その結果、西之島のオヒシバは、南方の地域から沖縄や小笠原諸島などを経て、海鳥によって運ばれてきた可能性が高いことが示されました。
研究の詳細は、2026年8月7日付で学術誌『Journal of Plant Research』に掲載されています。
目次
- 西之島に生えた植物はどこから来たのか?
- 熱帯から沖縄、小笠原を経て「海鳥」が運んだ可能性
西之島に生えた植物はどこから来たのか?

西之島は父島から西北西へ約130km離れた活火山島で、1973年の噴火以降、新しい陸地を形成しながら拡大してきました。
特に2013年から2020年にかけて激しい火山活動が続き、それまでの地表の多くが溶岩や火山噴出物で覆われました。
こうした場所は、生物の少ない土地に植物がどこから侵入し、どのように集団を作るのかを調べられる貴重な研究現場になります。
2019年の上陸調査では、旧島の一部として残った約0.5ヘクタールの場所に、オヒシバ、イヌビエ、スベリヒユの3種が確認されました。

西之島では人の立ち入りが厳しく制限されているため、チームは十分な試料が得られたオヒシバを対象に、その起源を遺伝情報からたどることに。
研究では、西之島を含む日本各地、小笠原諸島、沖縄、インドネシアなどから集めた342個体について、葉緑体DNAと核DNAを解析しました。
葉緑体DNAは主に種子を通じて母系に受け継がれるため、種子の移動ルートを探る手がかりになります。
一方、核DNAを調べれば、集団同士がどれほど遺伝的に近いかや、その集団の遺伝的多様性を詳しく比較できます。
その結果、西之島で解析された25個体は、すべて同じ葉緑体DNAの型である「ハプロタイプIV」を持っていました。
さらに核DNAでも、西之島の集団は遺伝的多様性が極めて低いことが分かりました。
これは西之島のオヒシバ集団が、わずか1個、あるいはごく少数の種子から定着し、そこから増えた可能性を強く示しています。
では、その最初の種子はどこからやってきたのでしょうか。
熱帯から沖縄、小笠原を経て「海鳥」が運んだ可能性
集団同士の遺伝的な関係を比較すると、西之島のオヒシバは小笠原諸島の集団と特に近く、さらに沖縄やインドネシアなど南方の集団ともつながりを持っていました。
こうした結果からチームは、オヒシバがインドネシアなどの熱帯地域から北上し、沖縄や小笠原諸島などを経て西之島へ到達した可能性を示しています。
そして、その長距離移動を助けた有力な候補が「海鳥」です。
オヒシバの種子は約1.0〜1.5mmと非常に小さく、濡れるとわずかに粘着性を持つため、鳥の羽毛や泥のついた足などに付着して運ばれる可能性があります。
実際、小笠原諸島では過去の研究で、海鳥の羽毛に植物の種子が付着していることが確認されており、海鳥が島々の間で植物の種子を運べることが示されています。
また、西之島にはカツオドリ(Sula leucogaster)など長距離を移動する海鳥が生息しています。
そのためチームは、南方から移動してきた海鳥の体に付着したオヒシバの種子が、沖縄や小笠原周辺を経由し、偶然西之島まで運ばれた可能性を有力視しています。

ただし今回の研究は、特定の海鳥がオヒシバの種子を西之島まで運ぶ場面を直接確認したものではありません。
遺伝的な類似性、種子の性質、海鳥の移動、そして海鳥による植物種子の運搬記録を組み合わせた結果、海鳥による長距離散布が有力な仮説として浮かび上がったのです。
なお、このオヒシバ集団が生えていた場所は、2020年の大規模噴火によって火山灰や溶岩に覆われ、集団そのものは消失しました。
そのため、噴火の合間である2019年に採取された試料は、火山島に植物が定着した初期段階を残した非常に貴重な記録となっています。
新しい島の生態系は、大量の植物が一度に押し寄せて始まるとは限りません。
わずか1粒ほどの小さな種子が海を越えて根を下ろすことが、何もなかった土地に新たな生態系が生まれる最初の一歩になるのかもしれません。
参考文献
⽕⼭活動によって形成された⻄之島での植物の侵⼊経路を解明
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20260807140000.html
元論文
Origin of the Eleusine indica population on the active volcanic Nishinoshima Island, Japan
https://doi.org/10.1007/s10265-026-01738-9
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

