高市政権が進める積極財政と独自色の強い政策運営に、政権内外から懸念の声が上がっている。財務省では8月7日、将来の財務次官候補と目されていた主計局次長の一松旬氏が東京税関長へ異動する人事が発表。高市官邸との財政政策をめぐる意見の違いが背景にあるとの見方も出ている。
さらに政府は、2027年4月から2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる方針を決定。財源や制度設計をめぐっては自民党内にも異論が残る。非核三原則をめぐる発言も波紋を呼ぶなか、高市首相が打ち出す独自色の強い政策は、政権の推進力となるのか。
「言うことを聞かない」高市官邸と財務省エースの亀裂
「こんなことをやっても、政権の評判を下げるだけ。本当に素人政権運営としか言いようがない……」
霞が関関係者が筆者の取材にそう嘆いたのは、財務省が8月7日に発表した人事についてだ。
「将来は財務省トップの財務次官になると目されていた一松旬氏が、予算編成を行う主計局の次長から、財務省本省を離れ、東京税関長に転出する異例の“降格人事”が発表されたのです」(全国紙政治部記者)
一松氏は開成高校卒業後、東大法学部を経て、1995年に大蔵省(現・財務省)に入省。岸田文雄内閣では、総理秘書官も務めたエース格だ。所得税などの減額と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」や、「食料品の消費税率ゼロ」を与野党で議論する「社会保障国民会議」の事務方も務めていた。異例の人事の背景に一体、何があったのだろうか。
「朝日新聞のスクープで発覚しましたが、高市官邸の強い意向がありました。同紙の取材に、官邸幹部は『政権にあまり協力的でなかったから』などと、事実上の左遷であることをあからさまに認めました。
一松氏は制度設計が本格化している給付付き税額控除の実務を取り仕切ってきたが、財政再建論者として知られ、『責任ある積極財政』を掲げる高市政権とは摩擦があったとみられます」(同前)
テレビ朝日も、総理周辺が一松氏について、「言うことを聞かない」と批判している旨を報じた。前出の霞が関関係者はこう打ち明ける。
「高市総理は、自身と思想性の近しい閣僚を通じて官僚の情報を集めるなど、人事に異常な執念を持っているのです」
2014年の内閣人事局発足以降、内閣官房が人事を司るようになり、政権による“恐怖人事”はたびたび取り沙汰されてきた。しかし、対財務省においてここまで露骨なものはなかったという。
減税、非核三原則でも波紋…強まる「高市カラー」への懸念
積極財政路線を露わにする高市政権は、8月5日の臨時閣議において、飲食料品の消費税率を、2027年4月から2年間に限り、8%から1%に引き下げる方針を決定した。中低所得の現役勤労者らには、所得に応じて1%相当を上限とする給付を行い、対象者について飲食料品の消費税負担を「実質ゼロにする」という。
この方針について、高市総理は「2年後に私が責任を持って、確実に税率を元に戻してまいります」と発言している。中道改革連合の小川淳也代表も「2年後は大幅増税になる。影響は広範に及ぶ」と指摘。さらに、自民党内からも、「再増税は無理ではないか」という声が早くも噴出している。
「今のスケジュールでいくと、減税は29年3月までになるわけだが、その前の28年夏には参院選が予定されている。さらに、現在の衆院任期も30年2月までなので、その前後の解散スケジュールも無視できない。もうすぐ消費税を再度引き上げますという状況のなかで、選挙を戦うのは容易ではないのです」(自民党ベテラン議員)
秋の臨時国会では、消費減税の関連法案が提出される見込みだ。しかし、野党の多くは、物価高対策のためには給付が望ましく、2年間の飲食料品に限った消費減税は否定的な立場だ。そのため、与党の議席が過半数に届いていない参院での審議は難航する可能性もある。
「国民民主党の玉木雄一郎代表は『農業や外食産業への支援策や財源が曖昧』などと批判してきた。自民党内でも、小渕優子さんが党税制調査会などの合同会議後、財源論に加えて、『農家や中小・小規模事業者にさまざまな影響が出てくるが、どう対策するのか具体的な議論ができていない』と指摘していたが、現場の声をどこまで聞いて進めているのかという疑問が残っています」(前出・自民党ベテラン議員)
自民党内からもいまだに異論は出ており、森山裕前幹事長は8月7日の地元会合で、「財源をどこに求めるのか議論が始まっていない」と苦言を呈したという。8月6日の広島の平和記念式典に際しても、“高市カラー”が見受けられた。
「非核三原則の堅持に触れたものの、『我が国は、非核三原則を堅持しており』という現状説明にとどまる言い回しから、将来的な変更の可能性を示唆したのではないかと波紋が広がっています。高市総理は、総理就任以前、非核三原則の一つである『持ち込ませず』に不満を抱いていると公言していた経緯もあります」(自民党関係者)
官僚人事、減税政策、核議論……。様々な面で独自色を強めている高市総理について、別の自民党ベテラン議員は「正直、ここまでとは思わなかった」と困惑を漏らす。スピード感の一方で、独善的な政権運営が続けば、党内の求心力低下も免れない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

