お盆休みのこの時期、各地の水辺で痛ましい水難事故が相次いでいる。新潟県の角田浜海水浴場では、フロートで遊んでいた娘と救おうとした息子が沖へ流され、幼いきょうだい2人が命を落とすという悲劇が発生。山形県鶴岡市の海水浴場では、家族で泳いでいた74歳の男性が突如、姿を消し、うつぶせの状態で発見された。さらに茨城県の遊泳禁止区域では20代の女性が波に飲まれて命を落とし、愛知県の鴨山川でも溺れる息子を助けようと飛び込んだ父親が、意識不明の重体となっている。
毎年この時期になると繰り返される水難の連鎖。日本には古くから「お盆の海に近づいてはならない」「帰ってきた霊に足を引っ張られ、あの世へ連れていかれる」という言い伝えがある。近年、そんなものは単なる迷信、あるいは子供を危険な水辺から遠ざけるための脅し文句だと笑う者は少なくないようだが…。
しかし仏教において、お盆はあの世から先祖の霊がこの世へと帰ってくる期間とされ、自分とは縁もゆかりもない無縁仏も含めた多くの霊がさまよう時期だと言われる。心霊現象ジャーナリストが解説する。
「先祖の霊だけでなく、別の霊が生者を黄泉の国へ引きずり込もうとするのです。海の彼方こそがあの世の出口であり、お盆の海は次元の境界が最も薄くなる『異界への入り口』そのものだと。この時期は霊たちが最も自由に往来できるので、うっかり水辺に足を踏み入れることは、彼らのテリトリーに自ら身を差し出すことになる。そんな言い伝えが残っています」
土用波や離岸流が発生する「人間を捕らえて離さない魔境」に変貌
それがいわゆる「足を引っ張られる」怪異として語り継がれてきたようなのだが、加えてお盆の季節には、日本近海や太平洋の沖合では次々と台風が発生する。これにより、頭上には青空が広がっていたとしても、沖合からは巨大なエネルギーを秘めたうねり、つまり「土用波」が秘かに押し寄せる。このうねりが穏やかな波打ち際に突如として出現、大人の足をも容易にすくい取る、というのである。
さらには、海底の砂を抉りながら沖へと強烈な水流を生み出す離岸流や、急激な水温低下による体力の消耗、さらには猛毒を持つクラゲの大量発生等々、これらの要因が複合的に絡み合うことで、お盆の海は文字通り「人間を捕らえて離さない魔境」へと変貌を遂げるのである。
水面の下で我々を手招きしているのは霊たちの冷たい手、そして容赦なく命を奪う自然の牙。夏の海は案外、コワイ存在なのだ。
(ジョン・ドゥ)

