日本では魚介類の消費量が減少し、若い世代を中心に「魚離れ」が進んでいるといわれています。
そうした中、大阪・梅田と東京・八重洲で干物専門居酒屋を展開する「ひもの野郎」は、2年連続で売上10%超の増加を記録。
今回は、株式会社ひもの野郎 取締役副社長の中村一隆さんに、ひもの野郎が提供する「紀州備長炭干し」へのこだわりや、干物が幅広い世代から支持される理由、成長を続ける背景などについてお話を伺いました。
干物専門居酒屋「ひもの野郎」とは
ひもの野郎は2012年に開業し、大阪・梅田に3店舗、東京・八重洲に1店舗展開する干物専門居酒屋。
昼は定食、夜は居酒屋のいわゆる「二毛作業態」で営業。
大阪・東京ともに駅近・駅ナカに店舗を構えており、昼夜問わずサラリーマン層が多く来店しています。
中村さんは、

「ひもの野郎では、大とろさば(とろさば)がイチ推しメニューとなっています。まずいらっしゃいましたら、このとろさばを召し上がっていただきたいと思っています。脂が口の中でみずみずしくジューシーなため、辛口の日本酒がぴったりです。」
と、とろさばをイチ推しメニューとして紹介し、相性の良い日本酒についても解説してくれました。

ひもの野郎こだわりの製法「紀州備長炭干し」
また、この「とろさば」をはじめ、ひもの野郎で提供している魚のおいしさを支えているのが、一般的な一夜干しや天日干しとは異なる「紀州備長炭干し」という製法。

中村さんによると、一般的な干物は「空気や天候による乾燥」によって旨味を凝縮させる一方、紀州備長炭干しでは「魚を空気に触れさせないように加工」することが大きな特徴なのだそう。
ひもの野郎では、とろさばをはじめ、ホッケやアジ、銀鮭などにも同様の製法を用いた干物を提供しています。

製造工程では、魚を1枚ずつ特殊なセロファンで包み、細かく砕いた備長炭を使用。
備長炭が持つ特性を生かして余分な水分や魚特有の臭みを取り除きながら、魚の旨味を凝縮していきます。
「その結果、紀州備長炭干しは一般的な干物のイメージとはひと味違う、ジューシーな食感に仕上がります」と中村さんは説明。

「一般的な干物は一夜干しや天日干しをイメージされると思いますが、一番違うのは空気に触れさせないことです。空気に当てて乾燥させる際は酸化も進んでしまいますが、紀州備長炭干しは、魚の旨味を残しながら水分や臭みを取り除くので、ジューシーなのに干物という、相反するような特徴を両立しています。」
実際、とろさばについても「箸で身をほぐすと脂が滴るほど」と話す中村さん。
「干物はパサパサしている」というイメージを覆す味わいや、脂が滴るほどのジューシーさという、一般的な干物ではなかなか味わえない体験こそが、ひもの野郎を訪れた人に驚きを与え、再び足を運びたくなる理由の一つとなっているようです。
2年連続で前年比10%超の売上増!女性客比率も40%に
魚離れが進んでいるといわれる中、ひもの野郎では2024年・2025年通期で全4店舗が2年連続で前年比10%超の売上増を記録。
2026年1~5月も全店舗で前年を上回っており、ヤエチカ八重洲地下街店でも好調とのこと。
この成長について中村さんは、

「魚を食べる機会が少なくなっている中でも、実際に食べてみて『こんなにおいしいんだ』と驚いていただくことがあります。製法によるクオリティの高さに加えて、気軽に入れるようハードルを下げていることが、また来ようと思っていただくことにつながっているのではないかと思います。」
と、まず「おいしさ」と「入りやすさ」が大きなポイントだと分析。
ひもの野郎では、干物に対する「年配の方向け」「古臭い」といったイメージを払拭するため、専門店でありながら大衆居酒屋のように気軽に立ち寄れる店づくりを意識。
駅近・駅ナカへの出店もその一環で、若い世代を含め、日常の中で干物に触れる機会をつくることを重視しているそう。
中村さんは、味への驚きと入りやすさに加え、若い人も訪れる商業施設などへの出店を含む「立地戦略」も売上増を支える要因として挙げています。
また、2024年にオープンした「バルチカ03 エキウエ店」では、女性客の比率が40%に到達。
紀州備長炭干しによって魚特有の臭みを抑えていることや、日本酒を少量ずつ楽しめる飲み比べセットなどが支持され、20~40代女性の来店にもつながっています。

中村さんによれば、女性客の中には健康を意識して魚を食べようと来店し、そこで日本酒の豊富なラインナップや飲み比べに興味を持つ人もいるのだとか。
「ちょっと試してみよう」という気軽な体験が口コミにつながり、女性客の増加を後押ししているのではないかと話します。
さらに、女性でも利用しやすいようグランドメニューを見直すなど、干物以外のメニューも含めた店づくりにも力を入れています。
こうした「まずは気軽に入ってもらい、食べておいしさを知ってもらう」という積み重ねがリピーターの増加にもつながっており、魚離れが進む中でもひもの野郎が成長を続ける原動力になっているようです。
今後は店舗数の拡大だけでなく、体験価値の提供にも力を入れていくというひもの野郎。
「日本酒をどういう風に作っていらっしゃるのかということは、なかなか聞く機会も少ないですよね。また干物職人さんも招いて、干物の製法やおいしい食べ方など、そういったことも発信していけたらなと思っています。」
と、いずれは日本酒の蔵元や杜氏を招いた体験会などもしていきたいと語った中村さんは、
「日本人が当たり前だと思っていた豊かな食体験が、今はどんどん失われているのではないかと思っています。そこで当店の素材や製法にこだわった干物をリーズナブルに楽しめる食体験で、魚のおいしさを改めて発見してもらえれば、魚や日本酒に関わる生産者の売上にもつながるのではないかと、理想論ではありますが考えています。」
とコメント。
「きっかけは、健康や義務感でも大丈夫です。当店で、干物はおいしいという気づきを得て、身近なものとして感じていただいて、おいしく食べていただけるっていうのがいいんじゃないかなと思います。そして干物のこだわりや、全国各地の日本酒が揃っているという背景やストーリーに触れていただけると、結果としてお客様も豊かになれるんじゃないかなと思いますので、まずは難しく考えずにお越しいただけたら嬉しいです。」
と、中村さんは、まずは気軽に干物の魅力に触れてほしいと締めくくりました。
ひもの野郎:https://himonoyaro.com/
