
21歳日本人CBが2年目のオランダで直面する現実…ロス五輪、そしてA代表選出に向けて「偉大な先輩たちだけど超えないといけない」【現地発】
U-21日本代表、市原吏音はオランダの上位クラブ、AZに所属している。空中戦の強さ、足下の確かさ、リーダーシップが魅力の大型CBは8月10日、リザーブチーム“ヨングAZ”の一員としてオランダ2部リーグ、対アイントホーフェン戦でフル出場。チームは0対1で惜敗したが、自身はビッグプレーを披露。視察に訪れたトップチームのレーロイ・エフテルト監督に実力をアピールした。
そのスーパープレーは0対0で迎えた50分に生まれた。味方GKがペナルティーエリア内でボールを運ぼうとしたところ、相手選手に奪われてしまい、ヨングAZは自陣ゴールがガラ空きの大ピンチに。MFミカ・デ・ヨングがシュートモーションに入った瞬間、アイントホーフェンの選手がゴールを確信し、両手を高く挙げてバンザイするほどだった。ヨングAZにとっては絶体絶命のピンチだったが、遠く離れたポジションから市原がゴールライン上まで戻り、デ・ヨングのシュートを完璧なタイミングのスライディングでブロックした。
「あれは、たまたまです」と謙遜しながら語る市原。しかし、このシーンを振り返ってもらうと、“たまたま”の一言では片付けられない緻密な駆け引きがあった。
「キーパーがボールを取られた後、すぐにシュートを打たれたら終わっていたと思います。しかしボランチの選手(ユリアン・サイブランズ)がプレッシャーに行ってくれたおかげで、相手がちょっとボールをこねて(からサイブランズをかわして)くれたんで『間に合うかな』と思いました。そこで自分はゴール前に戻るのをあえてゆっくり行くことでシュートコースをちょっと空けて、一か八か、そこにスライディングしたら、そこにシュートを打ってくれました。運が良かったです」
運は確かに味方したのだろう。しかし一口に“運”と言っても、棚からぼたもちの運、賭けに勝った運などいろいろある。今回の市原のケースは“自ら引き寄せた運”だったと言えるだろう。デ・ヨングはサイブランズをかわしたとき、遠く左斜め後ろにいた市原のことを視界に収めていなかったはず。しかも市原は一度アプローチのスピードを緩めることで、相手の死角に居続けた。そしてデ・ヨングがシュートを打とうとする直前に猛ダッシュし、相手選手とゴールを結ぶ最短距離に身を投げ出した。
この日は両親の姿が観客席にあった。埼玉・叡明高校サッカー部監督を務める父・雄心さんは「スーパーブロックがひとつあった。ああいうプレーは今までもけっこうあったんですよ」と教えてくれた。
しかし、試合後の市原は「今日のパフォーマンスはダメでした」と自己批判。雄心さんも「彼は“FW気質のセンターバック”だから、あのプレーで乗ってくれると思ったんですがね」と期待したほどのプレーではなかったことを示唆した。
例えばエアバトル。CKから打点の高いヘッドで折り返し、味方にチャンスをお膳立てするなど、空中戦で圧巻のプレーを見せたかに思えたアイントホーフェン戦の市原だったが、長年、次男のプレーを見続けた父の目は厳しい。
「ヘディングは彼のストロング。だけど今日、かぶっちゃったりして2回ぐらい負けてたんですよ。J2(大宮アルディージャ)ではヘディングの競り合いのスタッツがかなり高かったんです。本人も『オランダ人のヘディング、そんなに強くないよ』なんて言ってたから、『お前、もっとやれるだろう』と思いました」
母は優しい。「でも初戦だからね」の一言に場が和らぎ、雄心さんにも笑みがこぼれた。
「そう。開幕戦だから、人工芝だからとかいろいろあるかもしれない。しかし、本人には『もうちょっとやらないといけない』『ここ(=ヨングAZ)じゃない』という葛藤があるんじゃないでしょうか」
AZのトップチームは今シーズン、ヨハン・クライフ・スハールの対PSV(4対0で勝利)、エールディビジ開幕戦の対ADOデン・ハーグ(2対0で勝利)と公式戦でクリーンシートを重ねて連勝している。しかし市原はベンチ入りこそ果たしているものの、ここまで出場時間はゼロ。その忸怩たる思いは市原の口調や顔色からも伝わってくる。彼に今季の目標を尋ねると、こういう答えが返ってきた。
「いち早くA代表に入りたい。日本代表はずっと夢見ている場所です。オランダでエールディビジの試合に出て、しっかりとしたパフォーマンスを出せば、自ずと呼ばれると思います。とはいえ、焦らずにやるべきことしっかりやるっていうのが自分のスタイルなので、(塩貝)健人(ヴォルフスブルク)とか(後藤)啓介(フライブルク)とか、(佐藤)龍之介(バレンシア)とか、同世代がどんどん活躍しているのがいい刺激になります。連絡も取り合っているので、自分も負けないように頑張りたいです」
アヤックスの板倉滉、クリスタル・パレスに移籍した冨安健洋、フェイエノールトの渡辺剛といった日本屈指のCB勢。チームメイトのSB毎熊晟矢。オランダでプレーする市原には格好の手本が身近にたくさんいる。
「3月、確かイングランド戦だったと思いますが、誘われて(板倉)滉くんの家でトミくん(冨安)、毎熊さん、滉くん、自分の4人で一緒に試合を観たんです。サッカーの話だけしていたわけではなく、サポーター目線で観てましたが、ときどき出る会話を聞いて『こういう感じで考えながらやっているんだ』とか知ることができました。こういう機会は日本では絶対になかったと思うので、自分にとって大きかったです。
ただ、自分は今後、こういう選手たちと戦っていかないといけません。偉大な先輩たちだけど超えないといけない。いい先輩、目ざさないといけない先輩だけど、それだけではなくライバルとして戦っていきたいです」
オランダリーグと同時に開幕したJリーグを今も市原は追っている。
「人がたくさん入ってる印象があります」
Jリーガーたちのひた向きなプレー。夏休み効果だけではなさそうなスタジアムの熱気。横浜F・マリノス対鹿島アントラーズ戦後、鈴木優磨(鹿島)が「ワールドカップで日本が素晴らしい試合をした。その熱を冷ましたくない。鹿島は強い、サッカーは面白いということを日本に広めたいです」という言葉にすべてが凝縮されている。
以下、市原とのQ&A。
――今季のJリーグ、ワールドカップの影響はありますよね。
「ありますね。嬉しいですね。サッカーとかJリーグ熱がどんどんどん増えていってほしいし、これを絶やさないようにしたいなと思います」
――Jリーグがあれだけ盛り上がっているということは「僕はこれからマリノスを応援するんだ」「私はアントラーズを応援するんだ」って子どもが出てきて、そのなかから将来、プロサッカー選手として出てくるはず。今度は、市原選手たちがヨーロッパから日本にいい知らせを届けないといけないですよね。
「そうですね。2028年(ロス五輪予選を兼ねた)U23アジアカップは初めて日本でやるんです。それが僕たちの代。(日本サッカーを盛り上げる)いい機会だと思うので頑張ります」
雄心さんにとっては息子に会いに来ただけではなく、オランダ・ベルギーサッカーの視察・研修を兼ねた渡欧だった。オランダ2部リーグのフィテッセ対RKC戦を現地で観ることで、「2部だから蹴り合っているかなと思ってたのですが全然違いました。両チームともきちんとフットボールをしていた。これなら2部でも成長できる」という確認もした。さらに8月6日には親子でUEFAカンファレンスリーグ予選、アヤックス対シェルボーン(アイルランド)を観戦するため、ヨハン・クライフ・アレーナを訪れた。
「雰囲気がすごい。昨シーズン、僕はアヤックスとAZのホームでしかやってないので、ヨハン・クライフ・アレーナに行くのは初めてでした。やっぱり、あそこでプレーしたい。めちゃくちゃ雰囲気が良かったし、お父さんがクライフ好きだから興奮してました(笑)」(市原)
「本当にあそこでやってほしいですね。次はここのグラウンドでの試合なんか見たくないんでね」(雄心さん)
「いち早くあそこに立てるように頑張ります。1か月後、(愛知・豊田スタジアムで開催されるアジア大会1次リーグ参加のU 21日本代表のメンバーとして)日本に帰るんで、コンディションをどんどん上げて、やることをやって頑張っていきたいです」(市原)
日本では試合に出続け、年代別代表チームではキャプテンを務める市原のことを、父は「今は挫折を味わっているかもしれない」と見ている。
「いい機会だと思います。ここを乗り越えてほしい。思ったより英語を話せるようになるのが早かった。選手たちといろいろ喋ってコミュニケーションも取れているので、そこは心配してない。あとはグラウンドで力を発揮して、早くポジションを確保することを願ってます」(雄心さん)
取材・文●中田 徹
【画像】美女がずらり!上田綺世、板倉滉ら日本代表を支える“女優&モデル妻たち”
【記事】「え、可愛い」「いい男やなぁ」上田綺世が投稿したモデル妻&愛妻娘との家族ショットが大反響!「涙出た」
【画像】Jリーガーが好きな女性タレントは?長澤まさみ、ガッキー、広瀬すずらを抑えての1位は…
