
不安障害を考えるとき、まず気になるのは「どれほど強く不安を感じているか」でしょう。
しかし問題は、不安の強さだけではないかもしれません。
米ニューヨーク州立大学オールバニ校(UAlbany)などの研究チームは、不安症状の重さを考慮しても、不安や不快な感情に対する「心理的非柔軟性」が、不安関連障害の診断歴と関連していることが示されました。
研究成果は2026年3月25日付で『Journal of Clinical Psychology』に掲載されています。
目次
- 不安そのものではなく「不安にどう反応するか」に注目
- 同じくらい不安でも「どう反応するか」が関係していた
不安そのものではなく「不安にどう反応するか」に注目
そもそも、不安は必ずしも悪い感情ではありません。
不安には、まだ起きていない危険を予測し、私たちに備えを促す働きがあります。
たとえば危険な動物が潜んでいそうな場所をあらかじめ避けることは、生存するうえで役立ってきたと考えられます。
いわば不安は、危険を早めに知らせてくれる「心の警報装置」なのです。
ところが現代では、この警報への反応が、かえって生活を苦しくする場合があります。
たとえば仕事で失敗するのが不安だからと何度も確認を繰り返したり、人前で緊張するからと社交の場をいつも避けたりするケースです。
そこでロバーツ氏らが注目したのが「心理的非柔軟性(psychological inflexibility)」でした。
これは単に「頑固な性格」という意味ではありません。
不安や嫌な考えに強くとらわれ、そのときの状況や自分にとって大切なことに合わせて、行動を選びにくくなる傾向を指します。
嫌な感情を何とか避けようとすることも、その一例です。
たとえば人前で話すことに不安を感じても、「この発表は自分にとって大切だからやってみよう」と行動できるなら、比較的柔軟な反応といえます。
一方、不安を感じるたびにその場から逃げることしか選べなくなれば、不安そのものが行動を決めるようになっていきます。
研究者らは、こうした反応の仕方が、表面上は異なるさまざまな不安関連障害に共通して関係しているのではないかと考えました。
これまでにも心理的非柔軟性と不安の関係は研究されてきましたが、従来よく使われていた尺度には、心理的非柔軟性と単なる心理的苦痛を十分に区別できていないのではないかという問題も指摘されていました。
そこで今回は、心理的非柔軟性をより多面的に調べられる尺度を使って検証しています。
研究には合計1118人が参加し、その内訳は大学生853人と、地域社会から募集した成人265人でした。
参加者は、最近の不安症状を測るDASS-21や、心理的非柔軟性を測る「Multidimensional Psychological Flexibility Inventory:MPFI」などの質問に回答しました。
さらに、これまでの人生で不安障害と診断された経験があるかについても自己申告してもらいました。
こうした分析の結果、不安症状が強いほど診断歴を報告する可能性が高いことに加えて、不安症状の強さだけでは説明できない心理的非柔軟性との関連も確認されました。
しかも、この基本的な傾向は大学生と地域成人という異なる2つの集団で共通して見られました。
では、不安の強さを考慮しても残った「反応の仕方」との関連は、何を意味しているのでしょうか。
より詳しく見ていきましょう。
同じくらい不安でも「どう反応するか」が関係していた
詳しい分析では、現在の不安症状が強い人ほど、少なくとも1つの不安障害の診断歴を報告する可能性が高く、さらに複数の診断歴を報告する傾向も見られました。
ここまでは、「不安が強い人ほど不安に関する問題も多い」という比較的分かりやすい結果です。
しかし重要なのは、その不安症状の重さを統計的に考慮した後にも、心理的非柔軟性との関連が残っていたことです。
心理的非柔軟性が高い人ほど、何らかの不安障害の診断歴を報告する可能性が高く、さらに追加の診断歴を報告する可能性も高くなっていました。
つまり今回の結果からは、「どれほど不安が強いか」だけを見ても、その人が抱える不安の問題を十分には捉えられない可能性があります。
同程度の不安を感じていたとしても、不安が生じるたびにその感情に行動を左右されるのか、それとも不安を抱えながらも状況に合わせて行動を選べるのかという違いがあるからです。
そのため研究者らは、不安症状そのものを軽減するだけでなく、不安に対してより柔軟に反応できるよう働きかけることが、不安による苦痛を減らすうえで重要な要素になり得るとしています。
ただし今回の研究は一時点で行った調査のため、心理的非柔軟性が不安障害につながったのか、それとも不安障害を経験した結果として心理的非柔軟性が高まったのかは判断できません。
また、診断歴は臨床面接や医療記録ではなく参加者自身の申告に基づいています。
それでも今回の結果は、不安について考えるときに「どれほど強く感じるか」だけを見るのではなく、「その不安にどう反応するか」という視点も重要であることを示しています。
不安があっても必要な行動を選べることが、不安とうまく付き合うための大切なカギなのかもしれません。
参考文献
How we react to anxiety could be just as important as the anxiety itself
https://www.psypost.org/how-we-react-to-anxiety-could-be-just-as-important-as-the-anxiety-itself/
元論文
Psychological Inflexibility’s Associations With Lifetime Anxiety Disorders
https://doi.org/10.1002/jclp.70130
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

