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次世代ホラー映像作家はデジタルネイティブ!この夏『バックルームズ』『オブセッション 災愛』がハリウッドを変えた理由 (vol.93)

次世代ホラー映像作家はデジタルネイティブ!この夏『バックルームズ』『オブセッション 災愛』がハリウッドを変えた理由 (vol.93)

この夏、ディズニー映画『マンダロリアン・アンド・グローグー』の週末興収を前週比69%減に追い込み、全米興行収入1位、8150万ドル (約134億円)、世界興収1億1800万ドル (約193億円) という快挙を成し遂げた『バックルームズ』。観客は若い。公開週末の観客の86%が35歳未満で、半数以上が25歳未満だったという。映画館にこの年齢層が足を向けなくなって久しい米劇場側にとっては、破格の出来事。今年はクリエイター向けプログラム「LIONS Creators」がカンヌライオンズで行われるほど、映像ビジネスのエコシステムが変化している。なぜメディア業界がこれほどまでに次世代の映像革命に期待しているのかを、映画『バックルームズ』と、現在、米ホラー映画の興行を牽引し続ける『オブセッション 災愛』から探ってみたい。

YouTubeからハリウッドへ

現在、約6400万人のYouTubeコンテンツ・クリエイターが世界中に存在するといわれている。フォーチュン・ビジネス・インサイツというマーケット・リサーチ会社のレポートによると、クリエイターエコノミー市場は今年、約3879億米ドル (約6兆3523億円) に達し、2034年までに2兆1163億5000万米ドル (約34兆6574億円)) に成長すると予測されている。市場の成長を牽引するコンテンツのトップはデジタルエンターテインメント。この夏、大手スタジオはYouTubeなどでデジタルネイティブたちが発信する人気コンテンツの争奪戦に忙しい。クリエイターが物事を動かす時代が到来している背景には、デジタルネイティブたちの映画『バックルームズ』『オブセッション 災愛』のヒットが大きな理由。

『ザ・リング』『THE JUON/呪怨』など、日本映画のハリウッドリメイクでも知られるプロデューサー、ロイ・リーは、この夏、最もホットなネットコンテンツと噂された「Siren Head」の映画化について、メジャー3社から同じ日に相談を受けたという。このように、次の大ヒットを目指してネットコンテンツが長編映画として開発されようとしている。新しいクリエイターを取り込みたいスタジオは必死だが、半信半疑のクリエイターの中には、ハリウッドとの契約を断り、YouTubeで自らのコンテンツをリリースすることを好む作家もいる。

映画『バックルームズ』のケイン・パーソンズも、そのうちの一人だった。パーソンズが生まれたのは、YouTubeが誕生した2005年。彼が制作したコンテンツ「The Backrooms」がネット上で話題になった。発信から約1カ月で多くの映画スタジオが長編映画化の話を持ちかけてきたが、10代だった彼はその話を断り、2022年から25年にかけて「The Backrooms」24エピソードをYouTubeで公開。2022年、16歳のときに公開した映像は、主に3DアニメーションソフトのBlenderを使用したものだ。パーソンズ監督がBlenderを使うきっかけとなったのは、VFXアーティスト、イアン・ヒューバートのYouTube映像だった。映画『マトリックス』のような複雑なVFX映像がコンピューターでいとも簡単に作れることに感化され、フィルムスクールに行かず、独学で映像制作を学んだケイン・パーソンズ監督は現在20歳。

YouTube発信の「The Backrooms」は、初回を見るだけでは今ひとつつかめないコンテンツだ。黄色い壁の部屋から、さらにまた別の部屋のような空間が現れ、この先に何があるのかと好奇心をくすぐられた人は、第2話を見てそのコンセプトにはまっていく。10分にも満たない短い映像の中で、主人公が成長する過程でどこかに置いてきた場所、その脳裏にしか残っていないバックルームが延々と続き、そこから逃れられない自らのトラウマが現在につながるという怖さが浮き彫りになる。心理世界の奥の奥へと導く窓のようなコンテンツについて、パーソンズ監督は、それが幼いときに訪れたホテルの広いロビーだったり、学校の廊下だったり、親戚のキッチンだったりと、自らの体の細胞の間を埋めて支える結合組織に入り込んだような、本来訪れることのない、人間の記憶の間にあるリミナルスペースに焦点を当てたという。そこには、観察者が一人で経験する不気味さが散在している。過去と現在、使用と未使用など、一人の人間の頭の中に形成された空間へどんどん入り込んでいくことで、脳裏に残った残像の数々を想像させる。

監督の父親はゲーム業界などで働いていたVFXアーティスト、母親は精神科医。監督が7歳のときに両親は離婚。母親に育てられながらも、父親は監督のVFXや特殊効果映像への興味を支え、今の監督のキャリアにつながったそうだ。さらに影響を受けたのは、日本のアニメ『進撃の巨人』『DEATH NOTE』『DEVILMAN crybaby』『いぬやしき』など多数。

長編となった映画には、『ソウ』のジェームズ・ワンと『パラノーマル・アクティビティ』のジェイソン・ブラムがプロデューサーとして関わり、主要キャストは、『それでも夜は明ける』『ドクター・ストレンジ』のキウェテル・イジョフォーと、『わたしは最悪。』『センチメンタル・バリュー』のレナーテ・レインスヴェ。

音、空間、そしてドッペルゲンガー。映画を見たあと、自分の中のバックルームを一つ一つ訪れてみるような感覚に包まれる。不気味でありながら、夢の延長のような不思議な後味がある映画だ。

ホラー界の新時代はセカンドウェーブで稼ぐ!

興行的に、より成績を伸ばしているのが、ユニバーサル傘下のフォーカス・フィーチャーズによる『オブセッション 災愛』。製作費は約75万ドル (約1.2億円) で、去る5月15日に全米公開。初登場3位で約1720万ドル (約28億円)) の興収を記録しただけでなく、異例の推移でその後も伸び続けた。この映画の主人公ベアは、好きでたまらない女性ニッキーに告白したいが、勇気が出ない。そこで、願いをかなえてくれるという「ワン・ウィッシュ・ウィロー」に遊びのつもりで気持ちを託す。しかし、そのおまじないの呪縛が彼女を様変わりさせ、好きになってくれるどころか、とんでもないモンスターと化して彼を離さない。ニッキーの変貌ぶりは、子供が駄々をこねるようなわがままや欲求の延長にある。彼を束縛する感情をコントロールできず、異常に興奮したり激しく怒り出したりする仕草は怖いが、リアリティがありすぎてかなり笑える。この点が、映画をホラーを超えたエンタメ作品としてぐいぐいと押し上げ、興行成績を伸ばした。ニッキーを演じた新人女優インディ・ナヴァレッテの評価も格段に上がっている。

この映画と『バックルームズ』が違うのは、すでにインターネットで盛り上がったIPを基に映画を開発したのではなく、YouTubeで多くのフォロワーを獲得していた監督兼俳優の新鋭クリエイター、カリー・バーカーのオリジナル脚本で作られた点だ。彼は「that’s a bad idea」というYouTubeチャンネルでコメディーやホラー作品を発信してきた。すでに長編『Milk & Serial』を制作していたバーカー監督だが、この映画はホラー映画をリードするブラムハウス・アトミック・モンスターがプロデュース。現在、世界興収は4億5900万ドル (約752億円) に達し、公開から約3カ月を経てもなお、話題を呼んでいる。

若手クリエイターたちが作るデジタルコンテンツにハリウッド業界が注目し、今年6月には、CAA(クリエイティヴ・アーティスツ・エージェンシー)と米未公開株投資会社TPG傘下のインテグレーテッド・メディア・カンパニーが、2億5000万ドル (約409億円) 規模の持ち株会社「コンパウンド・クリエイティブ・ホールディングス」を設立。成長が見込める世界中のクリエイター企業を買収・運営・育成するため、活動を開始している。

トップYouTuber、たとえばMrBeastを例に挙げてみたい。ミスター・ビーストは、世界で最もチャンネル登録者数が多いといわれているスーパークリエイター。2012年初頭に動画投稿を始め、現在では、大規模な慈善活動や、100日間サバイバルした人に賞金を贈る企画など、極限の精神力や忍耐力を試すサバイバルゲームで、Netflixの『イカゲーム』をリアリティー番組にしたような感覚を生み出し、フォロワーを増やした。メジャースタジオ並みのスポンサーが付き、社員が19人だった時代から、現在は400人を抱え、大規模なセットを使用した動画を発信している。クリエイターエコノミーを再定義したこのトップクリエイターは、現在、Prime Videoでリアリティーショー『ビースト・ゲーム』を配信し、その番組から派生した商品開発など、事業主として止まるところを知らない。今年は、クリエイターエコノミーは成立するのかと半信半疑だった段階を過ぎ、デジタルエコノミーのどの部分に投資するのか、つまりタレントなのか、チャンネルなのか、それを率いる運営会社なのか、というレベルに議論が進んでいる。世界中、とくにハリウッドの映像業界は、これからの映画制作の基盤を模索し、サバイバルに必死である。

文 / 宮国訪香子

作品情報 映画『バックルームズ』

ある日、自らの店の地下から異次元へと迷い込んでしまった男・クラーク。ルールすら存在しない不条理な世界で、彼は怪異に直面していく。なぜ、この空間は存在するのか。そして、ここで一体何が起きているのか‥‥。

監督:ケイン・パーソンズ

出演:キウェテル・イジョフォー、レナーテ・レインスヴェ、マーク・デュプラス、フィン・ベネット他

配給:ハピネットファントム・スタジオ

© 2026 Backrooms Rights LLC, PC Films, LLC. All Rights Reserved.

2026年9月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

公式サイト backrooms

映画『オブセッション 災愛』

想い続けた彼女の心を掴むため、青年は禁じられた願いに手を伸ばす。「ワン・ウィッシュ・ウィロー」 ──その願いの代償、膨張する“愛”に襲われ、想像を絶する惨劇に呑み込まれていく。

監督・脚本・編集:カリー・バーカー

出演:マイケル・ジョンストン、インディ・ナヴァレッテ、クーパー・トムリンソン、メーガン・ローレス

配給:パルコ、ユニバーサル映画

© 2026 Focus Features LLC. 

公開中

公式サイト obsaiai

配信元: otocoto

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