焦りからのミスすら絵になる男だった。
大分商業の152㎞右腕・平田玲翔の夏は2回戦・英明戦で幕を閉じた。2番DHで出場しながら5回からマウンドに上がるも、ほとんどの回で先頭打者を出す苦しいピッチング。9回には2点を失ってなお、ピンチから2つのミスを犯した。そのうちの1つはアウトカウントを間違えたもので、天を仰いでいたのが印象的だった。
「本当に自分がふがいないピッチングをしたせいでチームが負けてしまった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。9回のミスはああいう展開になって本当に頭が真っ白になって、アウトカウントすら頭に入ってなかった。甲子園の怖さでもありますし、自分の弱さでもあります」
平田は涙を流してそう搾り出したのだった。
1回戦の日本文理戦では走塁と投球で見せた。7回の得点機では二塁走者として次打者の左翼前安打でスタートを切ると、三塁ランナーコーチの制止をふりきって本塁に生還した。投げては3回途中からマウンドに上がり、7イニングを5安打4奪三振。最速151㎞を計測するなど、ポテンシャルの高さを見せつけた。
大分商の那賀誠監督はそもそもの身体能力が違うと平田のポテンシャルに舌を巻く。
「僕は保健体育の教員なんですけど、体育の授業でバレーボールをさせても、サッカーをさせても万能なんですよ。各競技のエースをやって県のトップレベルにはなるだろうなと。見てイメージしたことがそのまま体現できるというか。ちょっとずば抜けた身体能力と神経の伝達っていうのが桁外れにあるんだろうと思うんです」
もっとも、入学当初から何もかもが完成されていたわけではない。むしろ、体力はない方だと言って良かった。夏場は体力が持続せず、試合で投げてもストライクが入らない。1年秋の九州大会予選はメンバーから漏れるほどだった。ある時を境に「限界を超えた」と那賀監督は力説する
「一冬超えて一気にグッと力をつけたんですよね。高校2年生の5月の県選手権大会ですごいバッティングも見せて、すごい球も投げ出して、その辺からちょっと彼の運命が変わりかけてきた。上昇軌道に乗ったような感じになって、2回目の冬を超えた時にはこれすごいピッチャーになったなと。自分の素材を信じて、才能を信じて、折れることなく強い意志を持って積み上げてきた選手ですね。本当に挫折の連続のはずですけど、心も折れることなくまっすぐに突き進んだような2年3ヶ月、4ヶ月でした」
一方で、那賀監督はその出力の大きさゆえに、体への負担を慎重に見極めてきたともいう。成長段階にある身体で150㎞の球を投げることには危険がはらむ。那賀監督は怖さを感じていた。だからこそ、5、6月にはノースロー期間を設け、肩や肘を休ませた。勝利を急ぐのではなく、選手の将来を守る。その判断もまた、平田投手の才能を本当に生かすための重要な一歩だった。
この夏は継投策を講じ、常に平田をリリーフとして登板させた。出力が出てしまうゆえに、投げるイニングを少なめにする意識を持ったのだった。
この日のピッチングは前回から中4日空いていたにもかかわらず、ベストではなかったのも、その出力の高さの影響だ。「出力が高く疲れが抜けきれない」不安もあったと那賀監督は証言している。
ただ、本人はそれを言い訳にはしなかった。疲れを認めつつも、現実を受け止める姿もアスリートとして必要な素養と言えるだろう。
平田は話す。
「体調が悪かったって言ったら本当に言い訳なので、僕の中では全力投球が出来たと思います。 初戦と違って会場の雰囲気だったり、コンディションだったりというのを感じました。相手も1回戦を良い勝ち方をしてきてますし、自分たちも良い勝ち方をした。相手のプレーに負けたって感じですね」
今後の進路についてはプロ1本を明言した。大分商のOBには源田壮亮(西武)や森下暢仁(広島)、川瀬晃(ソフトバンク)、堅人(オリックス)兄弟など現役で活躍している選手が多い。那賀監督は「頑張っている先輩の姿が平田がその道を目指すことを信じることが出来た理由」とOBたちの存在の大きさを語る一方、平田は大分商の環境について、こう語っている。
「大分商業は基本的に自分たちがやるっていう形なので、自分たちが練習すれば上手くなるし、しなければ上手くならないっていう環境なので、本当に自主性、主体性というのが問われる場所だと思います。その主体性のおかげで、自分では追い込んだ練習が出来たかなっていうのはありますけど、少し気づくのが遅かったのかなとは思います」。
バッティングにも自信がある平田だが、これからはピッチャーで勝負したいと語る。目指すのは「どんな時も崩れない」勝てるピッチャーだ。
一方で、那賀監督はこんな期待も口にした。
「僕はメジャーリーグまで行ってほしいと思っています。本人にもお前はプロに入ればいいっていう選手じゃなくて、何年か経ったらもうメジャーに行けるぐらいになってくれんと困るぞって。それぐらいの素材なんだからなっていうのはずっと言っていました」。
試合後の平田は、なかなか涙が収まらなかった。5回を投げて5失点、8回裏にはチャンスの打席で空振り三振を喫した。言ってみれば、今日は散々だった。
でも、そんな課題だらけの逸材に将来の可能性を見てしまった。那賀監督が言うようにメジャーリーガーに。そんな予感さえする選手だった。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
【甲子園】“シンガリ”は勝てない──優勝候補・花咲徳栄が屈した甲子園の「ジンクス」とは<SLUGGER>
【甲子園】強豪を苦しめた高めの真っ直ぐ──社のエース・岩井の好投に甲子園が沸いた<SLUGGER>
【甲子園】策を講じるも散った昨年の覇者──沖縄尚学の「清々しい敗戦」<SLUGGER>

