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祝福まであと7日。ふたりを待つのは永遠の愛か、最悪の修羅場か――映画『ドラマなふたり』

祝福まであと7日。ふたりを待つのは永遠の愛か、最悪の修羅場か――映画『ドラマなふたり』

結婚式まであと1週間。幸せの絶頂にいたチャーリーは、友人夫婦との食事会で婚約者エマの“最悪の秘密”を知り、愛と信頼を揺さぶられていく。ゼンデイヤとロバート・パティンソンが共演し、A24史上最速で世界興収1億ドルを突破した『ドラマなふたり』が、8月21日(金)より日本公開。甘いラブコメを一転、ブラックな修羅場へと変貌させる本作の設定、キャスト、そしてその衝撃性から、なぜ“時代に消費されないラブストーリー”と呼ぶべき作品なのかを読み解く。

物語が生まれた太古の昔から現在に至るまで、「悲劇」や「喜劇」はその姿かたちを変えながらも連綿と受け継がれてきた。そしてそのどちらにおいても、《結婚》は重要な要素であった。「オイディプス王」も「オデュッセイア」も「ハムレット」や「マクベス」「ロミオとジュリエット」も、「シンデレラ」や「白雪姫」も嫁ぐこと/迎え入れることが事件の引き金となる。『アナと雪の女王』(2013)はディズニープリンセスの形をとりながらも結婚=夢という定説を破壊してセルフラブの重要性を伝え、『ANORA/アノーラ』(2024)は結婚してライフステージを上げたいストリップダンサーを通して経済格差を訴えるなど、“いま”の空気を採り入れつつ、ある種の前時代に対するカウンターカルチャーとしての側面も持っている。直近の作品で言えば、『マテリアリスト 結婚の条件』(2025)は現代NYを舞台に婚活事情を描いており、『ハムネット』(2025)は結婚後に生じる夫婦間のズレを炙り出していた。人生の選択肢が増えたことでコスパが悪いものは忌避される「恋愛をしない時代」ともいわれるが、今も昔も結婚という題材が人気なのは間違いない。ただ同時に、ラブストーリーが売れない時代になっているのもまた然り。かつてはメグ・ライアンやジュリア・ロバーツ、サンドラ・ブロックほか「ラブコメ/ロマコメの女王」と呼ばれた女優たちがジャンルの一時代を築いたものだが、ここ数年だと同ジャンルのヒット作は『恋するプリテンダー』(2023)くらいしかパッと思い浮かばないのではないか。前述の『マテリアリスト』や『チャレンジャーズ』(2024)ももちろん人気作だが文脈はストレートとは少々異なり、やはり何か恋愛+αのひねりを加える必要があるだろう。

と、ここで「結婚」×「ラブコメ」を題材にとり、全世界興行収入1.3億ドル超の大ヒットを記録した映画が登場した。日本では8月21日に公開を控えるA24の『ドラマなふたり』だ。本国アメリカでは2026年4月に封切られ、2026年8月10日現在、年間北米興行収入ランキングで29位。ただ『スパイダーマン:ブランド・ニュー・デイ』『トイ・ストーリー5』『オデュッセイア』『Michael/マイケル』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』といった大作や、『オブセッション/災愛』『バックルームズ』といった歴史的ヒット作がひしめいたなかでのこの順位は、十二分に“事件”といえる。いわゆる恋愛映画としても、20位の『嵐が丘』、28位の『Reminders of Him(原題)』が“原作モノ”なのに対して本作はオリジナルであり、“誰も知らない物語”でA24ラブストーリー史上No.1ヒットの記録を打ち立てた功績は、驚嘆に値する。

では、『ドラマなふたり』の何が人々を熱狂させるほど「面白い」のか? 大きく分けて、3点あると個人的には分析している。まずは《設定》だ。「結婚式の1週間前に新郎が新婦のとんでもない秘密を知ってしまい、幸せだったカップルに亀裂が生じる」というつくりは、第一にわかりやすく、詳しい内容や展開が気になるもの。逃げたくなっても本番が刻一刻と迫ってくるある種のタイムリミットサスペンス/スリラーの要素も含んでおり、かつ重要なのはただのコメディではなく頭に「ブラック」が付くことだ。ラブコメ/ロマコメが冬の時代に入った一因には、現実がシリアスになりすぎたからという時代の変化もある。まさに「お花畑」的な牧歌的・楽観的な雰囲気は市民が生きるいまと違いすぎて、もう笑えないのだ。「恋愛」や「結婚」といった“近い”題材ならばなおさら、リアリティとまではいかなくとも相応の接地面の多さ――現代に対する解釈一致感は必要となる。結婚が幸せの代名詞とされてきた時代も去り、どこか冷笑的に見ている人も増えたであろう昨今、結婚をある種の契約として捉え、毒っ気をもって描き出す部分は的確にトレンドを押さえているといっていい。恋愛に消極的な割合が多いとされる20~30代を主人公/メインターゲットとするならなおさらだ。ある意味『ANORA/アノーラ』に近い方法論ともいえるが、結婚に対する相反する「夢を見たい」理想と「夢なんてない」現実の双方を見事にカバーしたシチュエーションといえるだろう。

次に《メンバー》。注目したいのは、監督・脚本を担当したクリストファー・ボルグリだ。承認欲求おばけとなり、同情票を集めようと自分の顔を醜く変異させる女性の暴走を描いた『シック・オブ・マイセルフ』(2023)、ある日突然人々の夢に現れるようになったことから“時の人”として祭り上げられた冴えない教授の“バズ”と“ハブ”を悲哀を交えて描く『ドリーム・シナリオ』(2023)など、日常が崩壊する風刺劇の名手として知られる彼が「結婚」を描く以上、刺激的な物語になるのは規定事項といっていい。かつ、A24というブランドへの信頼感。作品によって好き嫌いはあるだろうが、A24が送り出す作品はどれも攻めたものばかり。安パイとは遠い両者が『ドリーム・シナリオ』に続いて組んだとなれば(アリ・アスターも引き続き製作に名を連ねている)、「何か仕掛けてくるに違いない」と期待も膨らむというもの。

その体現者となるのが、ゼンデイヤとロバート・パティンソンだ。共に『オデュッセイア』(2026)や『DUNE』シリーズに出演しており、スパイダーマンとバットマンというヒーロー映画でも存在感を発揮している両者だが、バジェットの大小に関わらず作家性の強い作品で輝く役者でもある(ゼンデイヤは「ユーフォリア/EUPHORIA」、パティンソンは『グッド・タイム』(2017)『ライトハウス』(2019),『PRIMETIME(原題)』(2026)ほかA24関連作に多く出演)。本作はもうじき妻となる相手の秘密を知ったことで疑心暗鬼にかられ、情緒不安定になっていく物語であり、パティンソンの“壊れっぷり”とゼンデイヤの“怖さ”が重要なキーとなる。かつ、ガチガチにキャラクターを作るというよりも振れ幅があるように設計し、2人が揺れるさまを見せつつ絶妙に「ありそう」な具合を追求しなければならないが、こうした難しい役どころでありながら、どの角度から見ても完璧なハマり具合だ。『リコリス・ピザ』で俳優としても存在感を発揮したアラナ・ハイムも、秘密を知って態度を硬化させる友人をなんとも生々しく演じ切っている。

ボルグリ監督は出演陣にラース・フォン・トリアー監督の『メランコリア』(2011)、ミヒャエル・ハネケ監督の『ピアニスト』(2002)、イングマール・ベルイマン監督の『パッション』(1970) を参考作品として提示したそうだが、先述した結婚の「甘さ」と「苦さ」を見事に行き来してみせる。結婚式でお互いに向けた手紙を書く→2人の出会いという回想シーンにつながる見事な導入から、カフェで声をかけるもスマートに決められなかったり、デートで失敗したりと微笑ましく初々しい“恋の始まり”をしっかりと描写。結婚式に向けてダンスの練習をしたり写真を撮ったりドリンクの選定を行ったりと幸せなイベントを追いかけていき、その渦中になんとも自然な形で突き落としてくる。友人夫婦との酒の席で「今までで最悪の秘密」を打ち明け合ったとき、その内容にドン引きされ、その後2人の仲がぎくしゃくしていき……と雰囲気が一変するのだ。その筋運びのうまさたるやなんとも絶妙だが、ボルグリ監督と編集技師ジョシュア・レイモンド・リーによるハイセンスなカットのつなぎ方も特筆しておきたい。前述のカフェのシーンでも、店の前で見かける→店に入ってきて席に座るといった何の変哲もない動きをフォローする際のカット割りがスムーズながら異常で、なんだこれは!?と驚かされることだろう。時に時間がジャンプする構成や独特のテンポ感含めて、己のカラーを存分に見せつけてくる。ただ単にカップルの不和をじっとりと描くのではなく、シニカルな遊び心が詰まっているのだ。こうした新鮮なデザイン性もいまっぽく(うがった見方だが、ショート動画のつなぎ方を研究して採り入れた箇所もあるのではないか?)、若い層が多く劇場に足を運んだ要因の一つかもしれない。

そして最後は《衝撃性》。本作でいうと、新婦の秘密がそこに該当する。本稿ではネタバレになってしまうためその詳細を語れないのがもどかしいところだが、不謹慎という言葉が軽く聞こえるほどの内容であり、観客一人ひとりに「自分だったらどう反応するだろう?」と考えさせる破壊力抜群な内容となっている。ただの装置としてのブラックさとは一線を画す、現代社会の持つ闇に切り込んだダークでシリアスな本気度が垣間見え、個人的にはここに最も攻め具合を感じさせられた次第。『ドラマなふたり』は、ただ楽しんで終わりな一過性のエンタメではない。現代性を多分に含みつつ「こんな黒歴史を持つ相手をどう受け入れるか?」「結婚相手にどこまでパーソナルな部分を開示するか?」という問いをもって「時代に消費されない」傑作へとのし上がったのだ。

文 / SYO

作品情報 映画『ドラマなふたり』

ボストンのカフェで運命的な出会いを果たしたチャーリーとエマ。結婚式まであと7日と迫った夜、付添人の親友夫婦と4人での食事中、これまでにやらかした最悪の行いを告白することに。軽い気持ちで始めたゲームだったが、エマの【最悪の秘密】に全員がドン引き。チャーリーは、エマには想像を絶する別の顔があるのではないかと恐れを抱く。幸せの絶頂は一転、疑心暗鬼のどん底へと墜落するが、結婚式の準備を止める術はなく、遂に当日を迎え‥‥。

監督・脚本:クリストファー・ボルグリ

出演:ゼンデイヤ、ロバート・パティンソン 、アラナ・ハイム、ママドゥ・アティエ、ヘイリー・ゲイツほか

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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2026年8月21日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

公式サイト drama

配信元: otocoto

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