
食事をする、甘いものを食べに行く、知らない味を一緒に試してみる。
恋愛作品では何気ない場面に見える「食べる時間」だが、二人の関係を描くうえでは意外に大きな役割を持つことがある。
向かい合って座り、同じものを味わい、感想を交わす。特別な告白がなくても、そうした時間の積み重ねから距離の変化が伝わってくるBL作品も少なくない。
今回は、食べることが二人の関係と結びついた3作品を紹介する。
■ イタリアフェアが“小さな旅”に 『秘密の輪舞曲』
神奈川県を舞台にしたオリジナルBLアニメ『秘密の輪舞曲(ロンド)』は、素性を明かさず活動する人気アーティスト・MINATOと、そのもうひとつの顔である大学生・朝倉悠真を主人公にした物語。
悠真はMINATOのスポンサーでもある年上の実業家、アレッサンドロ・ロッシと素顔のまま知り合う。しかしロッシは、目の前の青年がMINATO本人であることを知らない。
8月14日21時公開予定の第5話「小さな旅のように」では、二人が百貨店のイタリアフェアを訪れる。
ワインの香りやチーズ、パンとオリーブオイル、エスプレッソ。海外へ出かけたわけではない。それでもロッシに案内されながら初めての味に触れていく時間を、悠真は「小旅行みたい」と感じていく。
悠真がエスプレッソの苦さに驚けばロッシが笑い、ロッシが迷わず食べ物を選ぶ姿を悠真が面白がる。食べ物そのものより、「同じものを一緒に経験する」ことが二人の時間を作っていく。
華やかなデートスポットでなくても、誰と過ごすかによっていつもの場所が特別になる。そんな距離の縮まり方が描かれる回になっている。
■ 甘いものを食べ歩くことから始まる『オールドファッションカップケーキ』
佐岸左岸のコミックを実写ドラマ化した『オールドファッションカップケーキ』は、40歳を目前にした上司・野末と、もうすぐ30歳になる部下・外川を描いた年の差10歳のオフィスラブだ。
変化の少ない毎日を過ごしていた野末を、外川が「アンチエイジング」と称してさまざまな場所へ連れ出すことから、仕事だけだった二人の関係が変わり始める。
第1話のタイトルは「パンケーキは後悔の味」。甘いものを食べに行くという一見ささやかな行動が、会社の上司と部下だった二人に、仕事とは違う時間を作っていく。
大きな事件ではなく、「一緒に何かをしてみる」という小さな変化から恋愛が動き始める作品だ。
■ おにぎりから広がっていく居場所 『僕らの食卓』
三田織のコミックを実写化した『僕らの食卓』では、「食べること」はさらに物語の中心に置かれている。
会社員の豊は、人と一緒に食事をすることが苦手。そんな豊が公園で兄弟の穣と種に出会い、おにぎりの作り方を教えることから交流が始まる。やがて一緒に食卓を囲む機会が増え、互いの存在が少しずつ大きくなっていく。
料理そのものが豪華である必要はない。
誰かのために作ること、一緒に座ること、「おいしい」と言ってもらうこと。食卓という日常的な場所を通して、人とつながることへの戸惑いや安心感が描かれていく。
■ 「何を食べるか」より「誰と食べるか」
『秘密の輪舞曲』ではイタリアフェア、『オールドファッションカップケーキ』では甘いもの、『僕らの食卓』では日々の食卓。
登場する食べ物も、二人が置かれた状況もそれぞれ違う。
共通しているのは、食事が恋愛の結果として用意されているのではなく、まだ関係に名前がついていない二人が、一緒に過ごす理由になっていることだ。
好きだとはまだ言えなくても、「これを食べてみる?」「一緒に行く?」「また食べよう」とは言える。
そんな何気ない言葉から距離が変わっていくところにも、BL作品の日常を描く面白さがある。
