指揮官に不安そうな表情は1つもなかった。
「選手を信じて起用しているんですけど、みんなすごいなと思っています」
延長タイブレークにまでもつれた大会第11日の第2試合。智弁和歌山が7-3で敦賀気比を下してベスト8進出を決めたが、迷いのない投手起用に次元の違いを感じた。エース以外がマウンドに立っていてもここまで任せ切れる指揮官の姿勢に、ただならぬものを感じたのだった。
初戦の2回戦はエースの和気匠太が先発して7回から永井心海がリリーフ。この日は県大会はベンチ外だった米原佑真が先発、5回途中から久葉亮太が無失点で11回までのロングリリーフを締め括った。2試合を通して4人の異なる投手が登板して勝利に導いてみせた。投手陣の厚みに驚くほかない。
高校野球は今だにエース依存が色濃い。複数投手制を敷くチームが多く増えたとはいえ、大阪代表の履正社は2回戦の享栄戦でエースの木村颯に167球を投げさせてまで完投させたし、天理も3回戦の高川学園戦で、エースの長尾亮大が158球の完投勝利を挙げている。智弁和歌山の投手起用は次元が違うと言えよう。
中谷仁監督はどうしてそこまで信頼した起用ができるのだろうか。
「昨年の秋の県大会で負けてから数多くの練習試合をこなしてきて、彼らのピッチングを年間を通して見ていると、やってくれるんじゃないかと。練習試合とか県予選から片鱗は出てたので、どんな試合展開になっても、みんなで取り返せばいいって思えている。スーパーエースがいて、点を取られたら雰囲気が落ちてしまうというチームにはなっていないと思うんです。全員で役割を全うしながら、1つのゲームを作っていくチームに本当になっている」
この日先発した米原は、コンディション面の不安から県大会はベンチから外れていた。提携先の病院や外部トレーナーを含む支援があり、復帰へ向けて慎重に準備を進めてきた。一方の久葉は外野手から投手への転向後、冬を越えて成長した投手だった。投手経験1年未満の投手が躍動しているのはマネジメントの成せる技だろう。
久葉の投手転向には覚悟があったと中谷監督は話す。
「去年の新チームの今頃は、久葉がこんな大事な場面で投げるピッチャーになっているというのは全くプランになかった。だから、本当に立派というか頼もしいなと。外野からいつもバックネットに突き刺すぐらい放っちゃう外野手だったので、この強肩をなんとか活かせないかなというところで、変化球が課題だと思ったんですけど、意外と手先が器用で繊細な部分も持ち合わせていた。覚悟を持ってやってくれて、冬を過ごしてくれたので、本当に頼もしい存在になりました」
元プロ野球の捕手の目からしても「厄介な投手」と中谷はいう。ストレートは140㎞で、右打者の内側に食い込むツーシームがあり、インコースを意識させた上での外に逃げるスライダーとスプリットは対応が難しい。左打者にはツーシームがシンカーに変貌するというから、左右どちらも苦にしない。
この日は5回途中からの登板だったが、中谷にはある程度の目算があったと言う。
「相手バッターがちょっと縦の変化に弱いかなと思ったので、変化球を上手く操れるピッチャーの方がマッチするんじゃないかなと。僕の中では米原4回でそこから久葉っていうプランもあったんですけど、相手ピッチャーとの投げ合いで先に降りるのは 2年生同士で嫌だろうと思ったんで、期待したんです。久葉には早めに長いこと投げてもらうかもしれんぞっていうのは、準備段階でしていたので、イメージはしてくれていたと思います」
実は、先の2回戦のマネジメントも、先を見据えてのものだという。というのも、久葉を1イニング登板させるというのは県大会でも行ってきた。だから、2回戦では永井が1失点した後、慎重を期して久葉を登板させるプランもありえた。
しかし、そこはメンタルを重視したと中谷は力説する。
「永井が良いか悪いか分からない状態で終わるよりも、最後を締めてくれたっていう自信が欲しかった。和気が6回 0失点で終わったっていう自信があり、永井が次の試合に挑むピッチャー心理を考えると、不安定なところで代えられたって思うよりも、投げきった、やりきった、俺もできるっていう自信を持たせて、次の試合に挑みたかった。本当に彼らが頑張ってくれた。次も難しい継投になると思うのでしっかりその辺の精査を自分の中でしていきたいなとは思います」
先を見据えながらの安定した投手起用。1人に頼り切らず、各投手を安心して送り出していく。恐れを感じていない継投策に、ワンランク上のマネジメントを見た気がする。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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