
心理学では以前から、男性は女性の性的な関心を実際より高く見積もる傾向があると言われています。
露出の高い服装の女性を見て、「誘ってるのか」なんて表現する男性も珍しくありません。
しかし当然ですが、露出度の高い服を着ていたとしても、その服装が男性への関心を示しているわけではありません。
それでも、女性の服装から、誘いやすそうと判断してしつこくナンパしてくる男性や、痴漢に走る男性がいます。彼らはなぜ受け入れてもらえるだろうという期待を抱いてしまうのでしょうか?
ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツ(Johannes Gutenberg University Mainz)のインゴ・ランドヴェア(Ingo Landwehr)氏らの研究チームは、こうした疑問について男性が性的に興奮すると、相手の表情よりもセクシーな服装に判断を引っ張られやすくなるという傾向を発見し、報告しています。
全ての男性がそうであるとは言えませんが、心理的な傾向として、男性には性的に興奮すると、女性が嫌がっていたとしても、セクシーな服装という情報を手がかりに判断してしまう割合が増えるようなのです。
迷惑に感じる女性もいるかもしれませんが、これは男性の傾向として興味深い報告です。
研究の詳細は2026年6月1日付で科学誌『Archives of Sexual Behavior』にオンライン掲載されています。
目次
- 性的に興奮すると男性は「態度」より「服装」に判断を引っ張られる
- なぜ性的興奮すると「自分に都合のいい情報」を重視してしまうのか
性的に興奮すると男性は「態度」より「服装」に判断を引っ張られる
私たちが他人の気持ちを読み取るときには、さまざまな情報を利用しています。
研究チームはその中でも、女性の性的な関心を判断するときに使われる視覚的な手がかりを、大きく2種類に分けて考えました。
1つは、服装や身体的な魅力など、その人を見た誰もが受け取れる「全般的な手がかり」です。
たとえば露出度の高い服装は性的な魅力を感じさせることがありますが、それだけでは「その女性が今、目の前の男性に関心を持っているか」までは分かりません。
もう1つは、表情や視線、身体の向きなど、特定の相手に向けて変化する手がかりです。
こうした情報は、その場で相手が自分にどのような反応を示しているのかを判断する上で、服装より直接的な情報になります。
そこで研究チームは、服装と表情がわざと食い違う状況を作り、男性がどちらを判断材料として重く扱うのかを調べました。
実験に参加したのは、18歳から73歳までのドイツ語を話す男性284人で、いずれも異性愛者です。
参加者には、コンピューター画面上に同じ女性を写した2枚の写真が同時に提示され、「どちらの女性が今、あなたに性的な関心を示していそうか」をキー押しによって選んでもらいました。
写真は、女性の「服装」と「表情」が異なるように組み合わされています。
特に重要なのが、「カジュアルな服装で、好意的な表情」の写真と、「セクシーな服装で、明確に拒絶する表情」の写真を並べた条件です。
この場合、服装だけを見ると後者の方が性的に魅力的に見える可能性がありますが、表情を見ると前者の方がその男性に関心を示しているように判断できます。
参加者はまず性的興奮を誘発する前にこの課題を行いました。
その後、約5分半のエロティックな音声ストーリーを聞き、性的興奮を高めた状態でもう一度同様の課題に取り組みました。
すると、性的興奮を誘発する前は、「セクシーな服装+拒絶する表情」の写真を選ぶ割合が平均約11%だったの対して、性的興奮を誘発した後には、その割合が約14%へと増加していたのです。
一方、「セクシーな服装+性的な関心を示す表情」と「カジュアルな服装+拒絶する表情」のように、服装と表情が同じ方向を示している条件では、選択の偏りは約5%のままで、性的興奮後にも有意な増加はみられませんでした。
つまり、性的に興奮したからといって単純に判断能力全体が低下したわけではありません。
しかし服装と態度が矛盾したときに、相手の表情よりも性的に魅力的な服装をしている、という点で相手が自分に行為を持っていると判断する割合が増えたのです。
さらに性的興奮後には、参加者が選択するまでの時間そのものも短くなっていました。
つまり、性的に興奮すると、セクシーな服を来ているという情報だけで、性的に受け入れてもらえるという判断をしやすくなっていたのです。
研究者らは、この結果から、性的興奮によって反応がより自動的になり、自分の現在の欲求と一致する情報が判断に入り込みやすくなった可能性を考えています。
なぜ性的興奮すると「自分に都合のいい情報」を重視してしまうのか
では、なぜ性的に興奮すると、セクシーな服装の影響が強くなるのでしょうか。
研究チームが注目しているのが、人間の現在の欲求が、目の前の情報の重要性そのものを変えてしまう可能性です。
たとえば空腹のときには食べ物に関する情報が普段より魅力的に感じられるように、性的に興奮しているときには、性的な欲求と一致する情報の重要性が高まる可能性があります。
今回の場合、「セクシーな服装」は男性自身の性的な欲求と一致する情報です。
一方で、「明確に拒絶する表情」は、その欲求と食い違う情報になります。
その結果、性的興奮時には、自分の期待と一致する服装の影響力が強まり、反対に拒絶的な表情が最終的な判断に与える重みが相対的に小さくなった可能性があります。
研究者らは、自分自身の性的な欲求を相手にも投影し、「自分が相手を求めている」という状態が「相手も自分に関心を持っているのではないか」という判断に影響する可能性についても考察しています。
また、この傾向にはかなり大きな個人差もありました。
質問紙による分析では、自分には性的欲求を満たしてもらう権利があると考える「性的権利意識」が強い参加者ほど、性的興奮によって服装に沿った判断が増えやすい関係がみられました。
さらに追加の分析では、自分の性的欲求を優先したり、相手を自分の目的のために利用したり、性的な衝動を抑えにくかったりする傾向が強い男性ほど、性的興奮によって服装で判断を引っ張られやすくなる傾向がみられました。
ただし、この研究には注意すべき点もあります。
まず、この実験では実際に女性と会話したり誘ったりする場面を観察したわけではなく、静止画像を見て「どちらが自分に性的な関心を示していそうか」を判断してもらっています。
そのため、今回の結果から「性的に興奮すると現実の女性の拒絶を無視して行動する」とまで結論することはできません。
また、「性的興奮を誘発する前の課題→エロティックな音声→性的興奮後の課題」という割と時間と手間のかかる実験をしているため、参加者の疲労などが判断に影響した可能性も除外できません。
実際、実験の後半では回答速度が低下する参加者も増えており、研究者らは疲労や退屈などが影響した可能性も指摘しています。
さらに参加者は比較的高学歴なドイツ語話者を中心とするオンラインサンプルだったため、異なる文化や社会環境ではどうなるかの検証も必要です。
それでも今回の研究は、性的に興奮した状態では、女性のその場の反応を示す表情よりも、性的に魅力的な服装が判断に入り込みやすくなる可能性を、行動実験によって示しています。
なぜ一部の男性がしつこく女性を誘ったり、手を出してしまうのかという疑問に対して部分的に回答していると言えるでしょう。
元論文
A Dress Is (Still) Not a Yes: How Even Simple Key Presses Reveal Sexually Aroused Men’s Overreliance on Global Cues in the Context of Sexual Flirting
https://doi.org/10.1007/s10508-026-03449-7
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部

