
「この子がいるから、今日も起きて生きていこう」
辛い状況にあっても、ペットと暮らす人なら、そんな感覚を理解できるかもしれません。
スペインのバルセロナ自治大学(Autonomous University of Barcelona:UAB)などの研究チームが、社会的に脆弱な状況で犬や猫と暮らす100人を調べたところ、90人がペットを「毎朝起きる理由を与えてくれる存在」として挙げました。
これは追い詰められた人にとってペットとの関係が単なる癒やし以上の意味を持つ可能性を示すものです。
研究成果は2026年7月8日付で『Frontiers in Psychology』に掲載されています。
目次
- 人とのつながりを失いやすい人にとって、ペットはどんな存在なのか?
- ペットは「そばにいる」「慰める」という支援で特に大きな役割を果たす
人とのつながりを失いやすい人にとって、ペットはどんな存在なのか?
人は困難な状況に置かれたとき、周囲からの支えを必要とします。
落ち込んだときにそばにいてくれる人や、悩みを相談できる相手、困ったときに助けてくれる人がいることは、厳しい状況を乗り越えるうえで重要です。
ところが、ホームレス状態にある人やDV被害者、経済的に困窮している人など、特に支援を必要とする人ほど社会的に孤立しやすく、頼れる人間関係も限られる傾向があります。
そこで研究チームが注目したのが、犬や猫です。
ペットが心の支えになることは以前から知られていましたが、家族や友人などと比べて、実際の生活の中でどのような支援を担っているのかは十分に分かっていませんでした。
チームは、社会的に脆弱な状況にあり、犬や猫と6カ月以上暮らしている19~80歳の100人を調査しました。
参加者にはホームレス状態にある人30人、DV被害者21人、社会的なつながりや生活環境に問題を抱える高齢者19人などが含まれています。
まず、自分のペットをどの程度「家族」だと思うかを10段階で評価してもらいました。
続いて「一緒に過ごしたいのは誰か」「落ち込んだとき誰と一緒にいたいか」「誰に相談したいか」「最もよく抱きしめるのは誰か」「誰の世話をしたいか」といった19種類の質問を行いました。
回答には人間だけでなく動物も含めることができ、参加者自身が重要だと思う相手を挙げて順位づけしました。
すると、ペットを家族とみなす度合いは10点満点中、平均9.96点に達しました。
さらに90%の参加者では、19項目を通して最も頻繁に挙げられた支援相手が犬または猫でした。
また98%は、少なくとも1項目でペットを「唯一の支援相手」として挙げています。
では犬や猫は、具体的にどんな場面でそれほど重要な存在になっていたのでしょうか。
より詳しい結果を見てみましょう。
ペットは「そばにいる」「慰める」という支援で特に大きな役割を果たす
結果を詳しく見ると、犬や猫が特に大きな役割を果たしていたのは、アドバイスや実際的な援助ではなく、「一緒にいること」や「心を慰めること」でした。
「一番一緒にいてくれるのは誰か」という質問では99人がペットを挙げ、そのうち81人はペットだけを回答しました。
また「落ち込んだとき誰と一緒にいたいか」では89人がペットを挙げ、そのうち78人はペットだけを挙げています。
さらに94人が最もよく抱きしめる相手としてペットを挙げ、90人が「毎朝起きる理由を与えてくれる存在」としてペットを選びました。
つまり犬や猫は、ただかわいがる対象ではなく、そばにいてくれる相手、身体的に触れ合える相手、そして世話をすることで毎日の目的を感じさせてくれる存在になっていたのです。
研究者は、その理由の一つとしてペットの「いつでも頼りやすい」という特徴を挙げています。
また先行研究では、ペットは批判や評価をせず、無条件に受け入れてくれる存在として感じられやすいことが指摘されています。
人間関係で傷ついた経験をもつ人も含まれる今回のような集団では、そうした関係が安心して感情を向けられる場所になる可能性があります。
一方で、犬や猫にできない支援もはっきりしていました。
「最もアドバイスを求めたい相手」としてペットを挙げた人はわずか5人で、友人は34人でした。
具体的な助言や物質的な援助、問題解決、社会的な承認といった場面では、やはり人間の存在が重要だったのです。
つまりペットは、人間関係を置き換える存在ではありません。
人間には人間の、犬や猫には犬や猫の得意な支え方があり、研究チームは両者を互いに補い合う関係として捉えています。
もちろん、今回の研究には限界があります。
調査は100人と小規模で、全員が人と動物の絆を支援するプログラムの利用者だったため、もともとペットとの結びつきが強い人が多く含まれている可能性があります。
また質問には感情的な支援や身体的な触れ合いなど、ペットが選ばれやすい項目が多く、自己申告による調査でもあるため、「ペットを飼えば誰でも同じ効果を得られる」とまでは言えません。
それでも今回の結果は、人とのつながりが細くなったとき、犬や猫との絆が「ただの癒やし」にとどまらず、日々の生活を支える独自の存在になり得ることを示しています。
参考文献
Study demonstrates the importance of emotional support from pets for vulnerable people
https://phys.org/news/2026-07-importance-emotional-pets-vulnerable-people.html
元論文
Dogs and cats as sources of companionship and emotional support in vulnerable animal caregivers
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2026.1831814
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

