第108回全国高校野球選手権大会はベスト8が出揃った。ベスト8には、堅実な試合運びを武器とするチーム、投打の地力を備えた伝統校、そして勢いと粘りで勝ち上がったチームなど多士済々。準々決勝は単なる戦力比較ではなく、各校が磨いてきた勝ち筋をどこまで貫けるかが問われる。攻撃の仕掛けどころ、継投の見極め、終盤の一走に至るまで、監督の判断も結果を左右しそうだ。それぞれのカードを展望していく。
第1試合 天理-三重
天理はエースの長尾亮大が2試合連続完投を果たすなど、投手力を土台にした安定感が際立つ。走者を確実に送り、得点機を広げる堅実な野球が基本線だ。一方で、3回戦の高川学園戦ではビハインドの6回に強攻策から逆転。手堅さを貫きながらも、必要な局面で攻めに転じられる点は大きい。しかし、試合後の藤原忠理監督は「バントの重要性を再確認したい」。バントの多用は勝機を狭めるが、攻め方が気になるところだ。4番・金本相有を軸に、犠打と強攻の選択が天理の見どころとなる。また左腕の橋本桜佑も実力者。ここから起用が広がるはずだ。
三重は立ち上がりから強く仕掛けて先行し、終盤はバントも用いた逃げ切りで勝ち上がってきた。149㎞右腕・古川稟久の登板可否が不透明で投手運用が難しいだけに、序盤から果敢に攻めていく形だ。2番に強打者の前野元佑を据えるなど攻撃の推進力を求める。天理が左腕・橋本を先発させるなら、三重はその立ち上がりをどう捉えるか。複数点を先制すれば、試合は三重が得意とする展開へ近づく。逆に天理が序盤を無失点でしのげば、三重の勝機は遠のく。三重はこれまでと同様に積極果敢な攻めが出来るか。
第2試合 仙台育英-智弁和歌山
2021、22年の夏の覇者同士の対決は、例年なら「強打の智弁和歌山」対「投手力の仙台育英」という構図と思うかもしれない。しかし、今大会は全く逆だ。智弁和歌山は2試合で4人の異なる投手を用いて強豪を競り落とした投手陣の厚さが強みで、これを活かしたい。打線はまだ眠っている印象だが、仙台育英の投手陣には継投の繋ぎが難しい面があり、そこをうまく突きたい。智弁和歌山が投手戦に持ち込み、効率よく加点できれば、そのまま上位進出へ弾みをつけそうだ。
仙台育英は打線の力強さがある。若いメンバーだが、多彩な攻撃を仕掛けられる柔軟性もある。須江航監督があの手この手で得点を狙いに来るだろう。いかに打つかが今年のテーマになりそうだ。3番の1年生・丹羽裕聖、4番の田山纏らが繋がれば本家の「強打」を凌駕する破壊力がある。仙台育英にとっては打撃戦となれば優位。投手戦となれば厳しいだろう。
第3試合 花巻東-横浜
今大会屈指の好カードと言える。両校とも投手力と守備力が安定し、走塁でも相手に圧力をかけられる。いわば似たようなチーム構成だが、横浜にはスーパースターエースの織田翔希が君臨するだけに、やや横浜優勢の向きが強い。
しかし、打線の破壊力では花巻東に分がありそうだ。3番・赤間史弥、4番・古城大翔、5番・萬谷堅心の重量打線は強力。1番の都倉光揮も調子を上げている。かつては小技を中心のスモールベースボールだったが、数年前から超攻撃型に転換。だが、なかなか勝ちきれず、今大会では両者を融合したような攻撃を見せている。盗塁をからめて前へ出る力もある。
横浜は名前を聞くだけ恐れを抱くような選手はいないが、打線の穴の無さはベスト8の中でもトップだろう。どこからでもチャンスが生まれ、決定打が出る。走塁もハイレベルに鍛えられ、1打で2つ先の塁を狙うよう徹底している。
似た土台を持つだけに、小さな守備の乱れや走塁判断の差が勝敗のポイントになる。花巻東は赤間、エースの萬谷を含めた左腕陣で左打者の多い横浜打線をどう抑え込むか。優勝候補の横浜にとっては真価が試される準々決勝となる。
第4試合 健大高崎-有明
健大高崎は、若いチームならではの勢いを前面に出す。俊足の2番・石田雄星、長打力のある4番・佐藤麻恩を中心に得点を重ねていく。投手陣は複数の選択肢を持つのが強みだ。3回戦では1年生の大橋叡刀を先発させたかと思うと、2イニングでスイッチし計4人の投手で勝ち切った。2回戦の東海大甲府戦で6回0封の佐藤やエースの石垣聡志など、豊富な陣容を誇る。得点をいかに上げ、自分たちのテンポへ持ち込めるかが重要だ。着実に得点を重ねて投手陣でかわす展開としたい。
有明は今大会の3試合全てで逆転勝ちと粘り強さが持ち味だ。低反発バット導入以降、特に6回以降の逆転試合が激減する中で、今大会は2試合で6回以降に試合をひっくり返している。どんな展開でもくじけない粘り強さが最大の強みだ。二枚看板の1人・工修哉が3回戦の試合前に負傷。試合後に骨折と診断され、投手起用が難しくなった。それでも競り合いに持ち込めば、有明には試合を動かしてきた実績がある。健大高崎が若さと勢いで主導権を取るか、有明が再び終盤の勝負強さを発揮するか。最も展開を読みにくい一戦と言える。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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