
アメリカ史に残る重要文書が、意外な場所から姿を現しました。
米メイン州ウェルズの町書記官事務所で、職員が古い町の記録を調査していたところ、手書きで写された「アメリカ独立宣言」のコピーが見つかったのです。
しかも、後世になって作られた複製ではありません。
独立宣言が採択されたまさにその1776年7月、当時の町書記官ナサニエル・ウェルズ(Nathaniel Wells)が、町の公式記録簿に自ら書き写したものでした。
なぜアメリカ独立宣言が、遠く離れた町の記録簿に手書きで残されていたのでしょうか。
目次
- 「すべての人間は平等である」アメリカ独立宣言とは?
- 250年前、町書記官が記録簿に書き写した「独立宣言」
「すべての人間は平等である」アメリカ独立宣言とは?
アメリカ独立宣言は、北米のイギリス領13植民地がイギリスからの独立を宣言した歴史的文書です。
18世紀後半、イギリスは戦費などを賄うため植民地への課税や統制を強めましたが、植民地側では「代表なくして課税なし」という反発が高まっていきました。
やがて1775年には、イギリス軍と植民地側の武力衝突が始まり、独立を求める動きが急速に広がっていきます。
1776年にはトーマス・ジェファーソン(Thomas Jefferson)を中心に、ジョン・アダムズやベンジャミン・フランクリンらからなる委員会が独立宣言を起草しました。
そして同年7月4日、第二次大陸会議で独立宣言が正式に採択されます。

宣言にはイギリスから離脱する理由だけでなく、「すべての人間は平等に造られている」とし、人間には「生命、自由、幸福の追求」といった権利があるという思想が掲げられました。
これは後の民主主義や人権思想にも大きな影響を与えることになります。
しかし、宣言を採択しただけでは各地の人々には伝わりません。
そこで採択直後から文章が印刷され、各植民地へ急いで送られました。
有名なのが、フィラデルフィアの印刷業者ジョン・ダンラップ(John Dunlap)が1776年7月4日に印刷した「ダンラップ版」と呼ばれる大判印刷物です。
この初期の印刷物は現在、わずか26部しか残っていないとされています。
こうして独立宣言は印刷物として各地に運ばれ、人々の前で読み上げられていったのです。
250年前、町書記官が記録簿に書き写した「独立宣言」
今回の発見があったウェルズは現在のメイン州にありますが、1776年当時、メインはまだマサチューセッツの一部でした。
独立宣言が採択されると、マサチューセッツ評議会は宣言を各地で読み上げた後、それぞれの町の書記官へ届けるよう命じました。
さらに町書記官には、その文章を町の公式記録簿へ転記し、「永遠の記念として残す」ことが求められていました。
ウェルズでもこの指示に従い、当時の町書記官ナサニエル・ウェルズが1776年7月、独立宣言を町の記録簿へ手書きで書き写したのです。
そして約250年後、ウェルズ町書記官事務所の職員が古い記録を調べている最中に、そのページを改めて発見しました。
しかも記録簿には独立宣言だけでなく、それを書き写すよう求めた当時の指示まで一緒に残されていました。
ウェルズ町書記官のミシェル・スティヴァレッタ=ノーブルは、この記録について、当時の時代や人々が経験していた興奮を感じ取ることができると語っています。
現在のように情報を瞬時に送信できなかった18世紀には、重要な知らせを口頭で読み上げ、それを地方の役人が手作業で記録して残すこと自体が情報伝達の重要な仕組みでした。
つまり今回の写本は、独立宣言の文章だけを保存した資料ではありません。
「1776年の独立という知らせが、実際にアメリカ各地へどのように伝わっていったのか」を示す記録でもあるのです。
メイン州立公文書館にはこのほかにも、セーラムの印刷業者エゼキエル・ラッセル(Ezekiel Russell)が1776年に印刷した独立宣言が2部保存されています。
ラッセル版は数百部が各地へ配布されたものの、現在存在が確認されているのは21部ほどです。
歴史上の大事件というと、私たちは大都市や有名人物だけに目を向けがちです。
しかし歴史が社会全体へ広がっていく過程には、それを読み上げ、書き写し、保存した無数の名もなき人々の仕事があります。
今回見つかった一冊の町の記録簿は、アメリカ独立という巨大な出来事が、250年前の地方の町へ届いた瞬間を今に伝える、まさに「手書きのタイムカプセル」といえるでしょう。
参考文献
Handwritten copy of the Declaration of Independence discovered in Maine
https://www.popsci.com/science/handwritten-declaration-of-independence-maine/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

