
「何も予定がない休日が苦手」
「家で一人になると落ち着かない」
「休んでいると時間を無駄にしている気がする」
こうした感覚を持つ人は少なくありません。
仕事を次々と引き受けたり、空いた時間には動画やSNSを眺めたり、移動中もポッドキャストを流したりと、常に何かで自分を忙しくさせている人がいます。
もちろん、活動的であること自体に問題があるわけではありません。
しかし、もし「忙しいのが好き」というよりも、「何もしていない状態に耐えられない」のだとしたら、その背景には別の心理が隠れている可能性があります。
心理学者によると、こうした絶え間ない忙しさが、ときに自分自身の感情から距離を取るための無意識の方法になっていると指摘します。
さらに、その背景の一つとして挙げられているのが、幼少期に自分の感情を十分に受け止めてもらえなかった「感情的ネグレクト」です。
では、なぜ人は自分の感情から逃げるために、わざわざ忙しくなろうとするのでしょうか。
目次
- 「忙しい」のではなく「止まれない」人たち
- 押し込めた感情は「消えた」のではない
「忙しい」のではなく「止まれない」人たち
忙しく動いている間、私たちの注意は外の世界へ向けられます。
仕事をしているときは目の前の課題に集中し、誰かと話していれば会話に意識を向け、スマートフォンを見ていれば次々と流れてくる情報に注意を奪われます。
つまり、何かをしている間は、自分の内側に意識を向けずに済むのです。
ところが、予定が終わり、一人きりになり、スマートフォンも閉じて静かに座ると状況は変わります。
それまで外側に向いていた注意が、自分の内側へ戻ってきます。
すると、不安、寂しさ、怒り、悲しみ、焦り、満たされなさといった、普段は意識していなかった感情が浮かび上がることがあります。
心理学者は、こうした状態を避けるために、無意識のうちに「忙しさに走り続ける」人がいると説明しています。
何もしていないと落ち着かない、常に生産的でいなければならない気がする、一人で家にいるのが苦手、休もうとしてもすぐに何かを始めてしまうといった傾向です。
さらに、静かな時間にも音楽や動画、SNS、会話などの刺激を絶えず求める場合があります。
ここで重要なのは、「忙しい人はみな感情から逃げている」という話ではないことです。
仕事や趣味が好きで自然と活動量が多い人も当然います。
問題になる可能性があるのは、忙しくしていること自体ではなく、何もしていない状態になると強い不快感が生じる場合です。
では、なぜ自分の感情と一緒にいることが、それほど苦しくなるのでしょうか。
心理学者が一つの可能性として挙げているのが「幼少期の感情的ネグレクト」です。
これは必ずしも、虐待や育児放棄のような明確な出来事を意味するわけではありません。
たとえば、悲しんでいるときに「そんなことで泣くな」と言われたり、怒りや不安を表現しても取り合ってもらえなかったり、そもそも家庭内で感情について話す習慣がほとんどなかったりする環境も考えられます。
このような家庭で育つと、自分が今何を感じているのかを認識し、それに名前をつけ、適切に表現する経験を十分に積めない場合があります。
すると大人になってからも、感情が湧いたときに「これは悲しいのか、怒っているのか、それとも不安なのか」がわかりにくくなります。
だからこそ、立ち止まって自分の内側を見ることそのものが、不快で居心地の悪い時間になってしまうというのです。
押し込めた感情は「消えた」のではない
では、感じたくない感情を無視し続ければ、そのうち消えてしまうのでしょうか。
心理学者は、そうではないと説明します。
感情は意識しないようにしたからといって完全になくなるわけではなく、本人が気づかないところに蓄積していくという考え方です。
忙しくしている間はその存在に気づかなくても、静かな時間になると再び表面へ浮かび上がり、理由のはっきりしない落ち着かなさや不満として感じられることがあります。
そのため、心理学者は、さらに忙しさを増やして逃げるのではなく、自分の感情に少しずつ注意を向ける練習を提案しています。
方法はとても単純です。
数分間目を閉じ、外から入ってくる刺激を減らしたうえで、「私は今、何を感じているのだろう?」と自分に問いかけます。
そして「不安」「寂しい」「腹が立つ」「退屈」「安心している」など、できるだけ具体的な言葉を当てはめてみます。
重要なのは、その感情が正しいか間違っているかを判断することではありません。
まずは「自分の中に今こういう感情がある」と認識することです。
これが難しい人の場合、最初から感情を特定しようとせず、1分程度静かに座って、自分の内側に意識を向けるところから始めてもよいとされています。
これまで長い間、自分の感情に意識を向ける習慣がなかった人にとって、何もせずに自分と一緒にいる時間はむしろ難しいものだからです。
ただし、ここで紹介されている内容は、特定の実験によって「忙しさの原因が感情的ネグレクトだ」と証明した研究結果ではありません。
これは心理療法家の臨床経験をもとにした解説であり、忙しさや落ち着かなさには仕事環境、性格、習慣、ストレスなど、さまざまな理由が考えられます。
それでも、「なぜ自分は休んでいると落ち着かないのだろう」と感じたとき、単に「自分は忙しい人間だから」と片づけるのではなく、その瞬間にどんな感情を避けようとしているのかを考えてみることには意味があるかもしれません。
私たちは「休むこと」が苦手なのではなく、休んだときに現れる自分自身と向き合うことを避けている場合があります。
もし予定を詰め込み続けても、なぜか落ち着かない状態が続いているなら、ときには何もせず、「今の自分は何を感じているのか」と問いかけてみるのもよいでしょう。
忙しさを止めた先で待っているものは、避けるべき厄介な感情ではなく、これまで十分に耳を傾けてこなかった自分自身なのかもしれません。
参考文献
Are You Running From Yourself?
https://www.psychologytoday.com/us/blog/childhood-emotional-neglect/202602/are-you-running-from-yourself
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

