
エストニア東部のペイプシ湖沿岸で8月15、16日、「Peipsi Food Street 175 km」が開かれた。ヴァスクナルヴァから南のセトマーまで約175キロのルートに、2日間限定の食堂やカフェが40軒並ぶ催しだ。大きな会場に屋台を集めるのではなく、湖畔の村や地域のさまざまな場所を一本の「食の道」で結び、車や自転車で巡りながら土地の味を楽しむ。湖の景色と食卓をセットにして、広い地域そのものを会場に変えているのが特徴だ。
■ 湖と森と畑が、そのままメニューになる
主役はペイプシ湖周辺で採れる食材だ。湖の魚に加え、ノロジカやヘラジカ、ビーバー、ウサギ、ヤギ、羊、牛などの肉、森のキノコ、庭で採れた野菜まで幅広い。昔ながらの料理だけでなく、キュウリやアンズタケを使ったアイスクリームのような意外な一品も登場する。地域の食文化を「昔からの名物」として固定せず、今の作り手が自由に料理しているところも面白い。農業、漁業、森林という土地の仕事が、そのまま一皿の背景として見えてくる。
■ 二日間だけのレストランが地域に点在
この催しでは、常設のレストランだけに人を集めるのではなく、ルート上の各地に期間限定の店が点在する。食べる側にとっては、観光名所を回るよりも、住民の暮らしの近くまで入り込む体験だ。料理のほか、展示や地域の飲み物、文化プログラムを用意する場所もあり、一皿をきっかけに土地の人と会話が生まれる。店構えが均一ではないからこそ、それぞれの村や作り手の個性も伝わりやすい。
■ 目的地ではなく「道の途中」を楽しむ
175キロという長さは、一日で全店を制覇するためのものではない。どの村に立ち寄るかを選び、湖の景色や小さな集落を移動そのものと一緒に味わう仕組みだ。人気店を一か所に集めるイベントとは反対に、人の流れを広い地域へ分散させる。食を入口に、普段なら通過してしまう村へ立ち寄る理由をつくり、小さな生産者や店にも来訪者との接点を生む。ペイプシ湖の「食の道」は、地域の台所そのものを観光資源に変える方法を見せている。
