
犬が好きなのに、近づくだけでくしゃみや目のかゆみが止まらない。
そんな犬アレルギーを、人間側を治療するだけでなく、犬が作るアレルゲンそのものを減らすことで和らげられないか、という研究が報告されました。
米国ニューヨークのバイオテクノロジー企業「Kindred Companion Sciences」の研究チームは、遺伝子編集技術CRISPR-Cas9を使い、犬アレルギーの主要アレルゲン「Can f 1」を作らない2頭のビーグル犬を誕生させています。
この研究は、2026年8月5日付で科学誌『The CRISPR Journal』にオンライン掲載されました。
目次
- 犬ではなく「アレルゲンの発生源」を変える
- 遺伝子編集ビーグルでは、アレルギー反応が検出されず
犬ではなく「アレルゲンの発生源」を変える
犬アレルギーは人口のおよそ15%にみられ、鼻炎や喘息とも関係します。
原因は犬の毛そのものではなく、犬が作る複数のアレルゲンです。
なかでもCan f 1は重要なアレルゲンで、犬アレルギーの人が犬に反応するときの大きな原因になっています。
現在は犬との接触を減らしたり、環境中のアレルゲンを減らしたり、免疫療法で人間側の反応を変えたりする方法が中心です。
しかし、これらの方法では犬自身がCan f 1を作ることは変わりません。
しかも「低アレルギー性」とされる犬種でも、Can f 1への曝露が一貫して少ないとは限らないことが過去の研究から分かっています。
そこで研究チームは、人間の免疫反応ではなく、アレルゲンを作る犬の側を変えることにしました。
まず雌のビーグル由来の線維芽細胞にCRISPR-Cas9を使い、Can f 1遺伝子を標的にしました。
その中から、DNAが1塩基増えて遺伝情報の読み方がずれる細胞を選択。
これは、文章に1文字入り込んだことで、その後の文字の区切り方がずれてしまうような変化で、正常なCan f 1を作れなくなるものです。
研究チームはこの細胞を使い、研究者らは体細胞核移植というクローン技術で25個の胚を作製して代理母犬へ移植。
そのうち2個が出産まで発育し、2024年9月にAlfieとBaileyという2頭の雌のビーグルが誕生しました。
全ゲノム解析の結果、Can f 1以外の遺伝子が誤って編集された形跡は見つからず、染色体レベルの大きな異常も確認されませんでした。
さらに2頭の唾液や毛、フケからCan f 1は検出されず、Can f 1に感作された1人の皮膚プリックテストでも、編集犬由来の試料では検出可能な膨疹がみられませんでした。
では、通常の犬や「低アレルギー性」とされる犬と比べると、どの程度違っていたのでしょうか。
より詳細な結果を次項で見ていきます。
遺伝子編集ビーグルでは、アレルギー反応が検出されず
研究チームは、遺伝子編集ビーグルのほか、通常のビーグル、スタンダードプードル、ゴールデンドゥードルの唾液を比較しました。
するとCan f 1は通常のビーグルだけでなく、プードルとゴールデンドゥードルからもはっきり検出されました。
一方、編集ビーグルからは検出されず、毛やフケを使った分析でも同じ結果でした。
次に行われたのが、人間の皮膚プリックテストです。
参加した成人男性1人はCan f 1に対する特異的IgE(特定のアレルゲンにだけ反応するIgE抗体)を持つ一方、調べたCan f 2〜6には検出可能なIgEを持っていませんでした。
通常のビーグル由来の試料では約6mmの膨疹が生じ、プードルとゴールデンドゥードルの試料でも強い反応が確認されました。
ところが編集ビーグル由来の試料では、検出可能な膨疹が生じませんでした。
毛やフケ由来の試料でも同様です。
つまり少なくともこの参加者では、Can f 1を除いた編集犬由来の試料に対して、検出可能なアレルギー性皮膚反応がみられなかったのです。
また2頭はこれまでの獣医学的検査で明らかな健康異常を示さず、成長やX線画像も正常範囲でした。
ただし、この研究にも限界があります。
人での試験は1人だけで、犬アレルギーにはCan f 1以外のアレルゲンに反応する人もいます。
さらにCan f 1が犬自身で担う役割はまだ分かっておらず、2頭の長期的な健康への影響も今後確認する必要があります。
それでも今回の成果は、犬アレルギーへの対策を人間側だけに求めるのではなく、主要アレルゲンの発生源そのものを遺伝子編集で取り除ける可能性を示した、重要な概念実証といえるでしょう。
参考文献
Gene-edited beagles produce no detectable major dog allergen, early tests find
https://phys.org/news/2026-08-gene-beagles-major-dog-allergen.html
元論文
Targeted Genetic Knockout of Can f 1, the Major Allergen in Dogs
https://doi.org/10.1177/25731599261473124
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

