投打でチームを引っ張った花巻東のフルスウィンガー・赤間史弥の言葉は、相手エースを攻略する難しさを如実に表していた。
「ストレートにものすごく自信を持って投げてくるのかなと思ったんですけど、変化球を混ぜてきて、ボールが絞りにくかったです。ストレートは速いし、変化球はコントロールされてキレもあったので、打ちにくいなと思いました」
準々決勝の第3試合。優勝候補同士の対決は横浜がエース・織田翔希の好投により、花巻東打線を7安打無失点に抑えて完封、6-0で快勝した。
織田はこの日の主役だった。日南学園戦で記録した甲子園最速の156㎞を何度も計測。だがその凄まじさは赤間の言葉にある通り、「予想外」なピッチングだった。
ストレートの手ごたえを聞かれた織田は、テレビインタビュアーの言葉をかわすようにこう語っている。
「ストレートよりも変化球の方がよかったかなと思っています」
剛速球投手が変化球投手に変貌する。これほど厄介なことはなく、打者たちは肩透かしを喰らう。かつての好投手で記憶にあるのは2004年のセンバツ大会1回戦でノーヒットノーランを達成したダルビッシュ有(現パドレス)の姿だ。
当時のダルビッシュは140㎞後半のストレートだけでなく、多彩な変化球も操っていた。だが140㎞台後半が出れば騒がれていた当時、ダルビッシュの印象は「速いストレートを投げる」投手だった。
ところが、この1回戦の熊本工戦で、ダルビッシュはストレートを少なめにし、抜いて投げるかのように変化球を多投したのだ。当然、熊本工打線は翻弄された。来るはずのストレートが来ない。結局、大記録を献上したというわけだ。当時の試合後に、ダルビッシュが面白いことを語っていた。
「球速表示を見てスピードが出過ぎているなと思って、それで変化球を多めにしようと思ったんです」
この日、花巻東打線を翻弄した織田はどう考えていたのだろうか。
「キャッチャーの脇山(魁音)とのコミュニケーションの中で、変化球を多めにしようということになりました。先頭バッターにストレートを打たれたので、狙ってきているな、ということで、変化球を多めにしました」
甲子園に入る前の織田だったら、そこまで考える投手ではなかったかもしれない。球速表示と争うかのように、腕を思い切り振って投げるのが織田だった。カーブやスライダーを得意としていたものの、ストレートと同等に扱えるようなな自信があるようでもなかった。
この織田の変化は、神奈川県大会の後にある。捕手の脇山は「県大会の時はどうしても甲子園に行くというのがあったので、力んでいたところはあったと思います。今はリラックスして投げている」と証言している。脇山の証言は、ただの先輩へのヨイショとは思えない。
というのも、確かに県大会の時に見られたような力感を、織田のピッチングから感じないのだ。力一杯投げているような感じがない。それでいて、甲子園最速のスピードが出るのである。
県大会後から何かを掴んでいるはずだ──。織田に尋ねた。
「おっしゃる通り、県大会からは変えてますね。 どこを変えたとかはいろいろあります。そうしていたら力感が消えて、球筋が綺麗になった。その影響で空振りが取れるようになりました」
力感のなさも変化球のレベルアップと関係していている。それまでの織田の変化球には、ストレートと同等の信頼はなかった。冒頭の赤間の証言によれば「ストレートが速いのにレベルの高い変化球には対応できない」と感じさせるレベルまでなっているのだ。
織田も手応えを感じているようだ。花巻東戦の試合後にこう語っている。
「変化球を増やしたといいますか、使い方も変えてというのはやっていました。相手がストレートに張ってる感じが見えたので、そういう風にしました。力感なく投げるようになった事と、変化球のキレの良さが増した事は関係していると思います。本当に安定するようになった」
投手としてのタイプが異なるから、ダルビッシュのようだ──というのは違うかもしれない。しかし、試合の中で自身の印象を変えるかのようなピッチングを見せるのは、もはやダルビッシュの領域と言える。
「本当にバランス良くというか、まっすぐも変化球もしっかり操ってバッターを翻弄できるようなピッチャーになりたいです。勝って成長するっていう言葉もありますし、そういった意味では、次の試合もしっかりと準備していきたいなと思います。どの相手が来ても自分たちがやる事は変わらないので、しっかりと準備して臨みたいと思います」
底が見えない大エース。次戦は準々決勝で打線に火がついた智弁和歌山だ。どんな姿が見られるのか楽しみでならない。
取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)
【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。
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