
プレミア初の日本人GKに、クラブが用意した背番号は「1」。ビラ加入の鈴木彩艶はいきなり正守護神として始まる可能性が高い【現地発】
パルマからアストン・ビラへの加入が発表された直後、鈴木彩艶はクラブのSNSにさっそく登場し、流暢な英語で新天地への喜びを伝えた。最後はサポーターにはおなじみの言葉で締めた。「Up the Villa!(行け、ビラ!)」。
そう呼びかけた23歳の日本代表GKに、クラブが用意した背番号は「1」だった。プレミアリーグでプレーする初の日本人GKとして迎える新シーズンは、いきなり正守護神として始まる可能性が高い。
英国での注目度も急速に高まっている。
現地メディアは、米国ニュージャージー州生まれで、ガーナ人の父と日本人の母を持つ生い立ちから、「Zion」という名前が聖書に登場するシオンの丘に由来することまで紹介している。
何より評価を押し上げたのが、この夏の北中米W杯だった。日本代表の全4試合に先発。初戦のオランダ戦では4本のシュートを止め、ブラジルとの決勝トーナメント1回戦でも好守を連発した。なかでも左へ飛んでヴィニシウス・ジュニオールのシュートに指先で触れ、ポストへ逃したプレーを、英衛星放送の『スカイスポーツ』は「大会屈指のセーブの1つ」と評した。
武器は190センチの体格から生まれる迫力だけではない。シント=トロイデン時代に指導したGKコーチ、デニス・ルーデルは昨年、『スカイスポーツ』に「彩艶の身体は、まるで筋肉だけでできているようだ。あれほど高く跳べるゴールキーパーを、私はこれまで一度も見たことがない」と語っている。一方で低いシュートへの反応も鋭い。同コーチが最大の長所に挙げるのも、大柄な体格ながら素早く身体を沈められる反射神経だ。
現代のGKに欠かせない「足もと」も評価されている。昨季のセリエAでは、ロングパス成功数がリーグ2位。最終ラインの背後をカバーするプレーでも上位に入り、守備範囲は広い。
短くつないでビルドアップに加わるだけでなく、強烈なキックやスローで一気に攻撃へ移れる。フィジカル任せのGKではなく、後方から試合に関与できることが、欧州の強豪クラブから関心を集めてきた理由でもある。
ビラの獲得は、W杯でのパフォーマンスを見て急きょ決めたものではない。
スポーツサイトの『ジ・アスレティック』によれば、クラブは約2年前から鈴木を追い、パルマ移籍後も継続してチェックしてきた。今夏も状況を探り続け、パリ・サンジェルマンへの移籍交渉が破談に傾いたことを察知すると、すぐに動いた。
欧州屈指のクラブへの移籍が目前だったGKを獲得できた背景には、そうした長期的な準備があった。また、日本からベルギー、さらにイタリアへと環境を変えながら短期間で適応してきた点も、鈴木のプレミア挑戦を考えるうえで心強い材料になる。
もちろん、挑戦の舞台となるビラにも不安はある。昨季はウナイ・エメリ監督のもとでプレミアリーグ4位、さらにヨーロッパリーグを制したが、この夏は財務規則との兼ね合いもあり、モーガン・ロジャーズ、ユーリ・ティーレマンス、リュカ・ディーニュら主力が相次いで退団した。チームは大幅な入れ替えの途中にあり、昨季と同じ完成度をすぐに望めるとは限らない。
それでも、鈴木の立場については期待の方が大きい。
英紙『デーリー・テレグラフ』は、長くゴールを守ってきたアルゼンチン代表GK、エミリアーノ・マルティネスの将来が「再び不透明になった」と報じ、『ジ・アスレティック』も鈴木が今季の正GKを務める見通しを伝えている。
エメリはGKにも足もとで相手のプレスを外し、攻撃の起点になる仕事を求める監督だ。シュートストップ、空中戦、配球を高い水準で備える鈴木には、指揮官の要求に応えられるクオリティがある。
「最高のレベルでプレーしたい」
加入後のクラブ公式インタビューで、鈴木はそう話した。浦和からベルギー、イタリアへと着実にステップアップし、ついに世界最高峰のプレミアリーグへたどり着いた。しかも昨季の欧州タイトルホルダーで背番号1を託された。日本人GKにとって前例のないシーズンが始まろうとしている。
文●田嶋コウスケ
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